第2章 暗き闇の底から

第11話 STARLiGHT

 7月31日の水曜日、私は家近くの市街地にいた。持っている小説を全部読み切ってしまったので、新しい本を探しに本屋に行ったのだ。しかし、これぞといった本が見つからない。平積みされていたりして表紙が見えている本はピンとこないし、かといって背を向けている本はあまり魅力的に見えない。そういえば私が買っている本って全部平積みされていたものだったような気が…?


 そんなこんなで迷いながら街を歩き、最終的に古本屋にも行こうかな…と思っていた時、

「おぉ、これはこれは、波蓮殿でござるな」

 振り返ると、チェックのシャツとスカートに身を包んだクラスメイトの顔があった。

「香世ちゃん、お久しぶりです」

「お久しぶりと言っても終業式ぶりですな」


 この子は私のクラスメイトである天地香世。いわゆるオタク女子で、『そういうもの』に対する造詣が深い。そのためか、学校に持ってくるかばんにも缶バッジやキーホルダーなどが大量に付いている。それでいて1学期中間・期末ともに学年で1番の成績を叩き出している頭の良さを持っている。


「波蓮殿、こんな町中で何を悩んでいるのですかな?私、気になりますぞ」

「私、持っている小説を全部読み切ってしまって。それで、新しい本を探しに来ていたところなんです」

「ふむ、それでは、私の愛読書を教えて進ぜよう」

 そうして香世ちゃんは、近くにあった【OTbooks】に入っていった。ここって、どっちかといえばオタク向けの本屋ね。


「えっと、【スターライトバスターズ アンソロジーブック I】?」

「フッフッフそうですぞ、吾輩が今ハマっているゲームである【スターライトバスターズ】のアンソロジー小説集ですぞ。現在は10巻まで発売されていますな」

「そもそも【スターライトバスターズ】ってどんなゲームなのですか?以前CMで見たくらいでよく知らなくて…」


「なるほど、【スターライトバスターズ】が如何様なゲームか、ですな。【スターライトバスターズ】とは秘密結社【星光】に選ばれた主人公が世界を脅かす脅威である【BX(ブラッドクロス)】と戦うというソーシャルゲームですな。主人公はかつて存在した強者の魂を更に強くして使えるという能力を持ち戦うときはその者の姿になるというのが特徴的ですぞ。課金的にはガチャが良心的な代わりにスキンが大量に作られそれで稼いでいるというのも特徴ですな。無課金でも十分に遊べましょう。このゲームは特にバトルシステム・音楽・キャラクターが魅力的ですぞ。バトルシステムは本格的なアクションで回避と攻撃で華麗に戦うことを重視していますぞ。トッププレイヤーは大抵スマホ用コントローラーを使っている程の本格アクションぜよ。さらにゲーム音楽の著名な作曲者や音ゲーに曲を提供しているコンポーザーが曲を提供しておりそれと合わせて戦闘中はアドレナリンがどっばどば出ますな。そして何よりキャラクター。ジャンル豊かな男女のキャラクターが多数存在しどちらの性別にもどんな人にも好きなキャラクターが出ているはずですぞ。そなたにもお気に入りのキャラクターが出来ますかな」


 香世ちゃんが早口でまくし立ててくる。この情報の洪水に人魚の私でも溺れそうになるわ。

「ま…まぁ面白そうね…私もやってみようかしら」

「無理強いはしませんが、一度やってみることをおすすめしますぞ。波蓮殿にも推しが見つかると良いですな」

 そうしてアンソロジー小説集を買った後、店を出た。香世ちゃんも大量に本を買っている。全部スターライトバスターズ関連なのだろうか。


「そういえば香世ちゃんの推しは誰なのでしょうか?」

「グフフ、吾輩の推しは東零士ですぞ。短髪サッパリ日焼け系のイケメンで、王道を行く『主人公には優しく、敵には厳しく』というような性格ですぞ。かつては企業スパイであり様々な企業を渡り歩いては機密情報を盗み出していたのです。戦闘においては二丁拳銃を使いますが敵の攻撃をうまく回避することによりさらに空中に浮く二丁の拳銃が追加され合計四丁の拳銃による弾幕が張れますな。さらにテーマ曲は…」

 口調が徐々に速くなってきた。でも中断させるとせっかく聞いたのに悪いし、最後まで話すまで待とう。


「…つまり、吾輩の推しである東零士はクールで戦い方もエレガントな男性でござるな。」

「わ、分かりました…」

 2回も長話に付き合わされて疲れてしまった。早く帰ってスターライトバスターズをダウンロードしてみようか。


「それはそうと波蓮殿」

「?」

「これは友だちから聞いた話なのですが、6ヶ月前からおかしな誘拐事件が多発しているらしいですぞ」

「何ですかそれは」

「情報を総合すると、突然黒ずくめの者たちに車に詰め込まれ人体実験場に送られるようですな。一応早くて1週間、遅くて1ヶ月経った後には解放されるようですが、良くて病院送りにされるほど憔悴しているようですぞ。」

「それは…怖いですね…本当の話なのですか?」

「ニュースにはなっていませんが、ブルーバードではこの話題が時たまトレンドに上がっていますぞ。とはいえ実際に誘拐された人を見たことがない以上、確実に実在するかは未だ分かりませんな。大規模なイタズラの可能性も否定できませんし」

「まぁ、警戒はしておきますわ」

「吾輩は無能力者ゆえ、能力者より一層の警戒が必要ですな。催涙スプレーでも買うことを考えておきますかな」


 そんな事を話した後私たちは別れ、私は家に帰った。

 リビングをある程度掃除した後自分の部屋に戻り、スターライトバスターズをダウンロードする。ダウンロード自体は数秒で済んだと思いきや、起動したら1分間の追加ダウンロードがあった。


 初めての無料10連ガチャから出た当たりは大剣使いの少年だった。


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 Strings:天地香世とのチャット


 吉川波蓮:ウェルカムガチャでこのキャラクターが出ました。


 吉川波蓮:【大剣使いの少年の画像】


 天地香世:パウル・バルテルですな。ネタバレにならない範囲で言うと、波蓮殿が買われたアンソロ1巻に収録されている第1話の主人公です。性能面で言うと、動作が重い代わりに特殊行動であるガードからのカウンターが強い玄人向けのキャラクターですぞ。しかし、このゲームは簡単で強いキャラを使うより愛着を持ったキャラクターで攻略することが推奨されているので好みなら使うべきですな。当然低レアもですぞ。


 吉川波蓮:分かりました。ありがとうございます。


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