第10話 MOONLiGHT
ザーザー降りになっていた雨はいつの間にか上がり、広場から覗く空は雲ひとつない青空になっていた。
「雨…いつの間にか上がってしまいましたね」
「あぁそうだな。なんだ?『雨が降ってかかって負けたのはぐやぢ~い』ってか?言ったろ?引き分けだってな」
ネイサンは地面に座りながらそんな事を言っている。
「そんな事は言ってないですよ、なんてことを言っているのですか」
「お前は思ってるほど負けちゃいねぇよ、その証拠に俺はもう座るのが限界だ。それに、俺の周りをよく見てみろ」
そう言われ彼の周りをよく見ると、魔力の粒になって消えかけている鱗が大量にあった。よく見てなかったけど、あの攻撃にはこれほどの威力があったのね。
「波蓮!大丈夫か!」
陸くんが駆け寄ってくる。
「こんななりで大丈夫なわけないじゃないですか」
「全く、いつの間にあんな技を使えるようになったのか?」
「私、『導きの剣士たち』っていう小説を読んでいまして、その最終巻で主人公が使っていた武器が『スターライトブレード』、ラスボスに対しての決め手となった技が 『スターゲイザー』だったのです。ちょっとそれに憧れまして」
「大きくして威力を上げる発想は良かったが、自分の身の丈に合った大きさにすべきだな。当てるための搦め手はあれど当たらなければ意味がないし、何より出して振り回すだけでヘロヘロじゃないか」
ネイサンが口を挟む。
「ところで、Stringsはやってるか?」
ネイサンがいきなり聞く。
「いきなり何ですか?まさか、フレンドになろうと?」
「そのまさかだ。お前は俺が認めた女だ。だからフレンドになろうと思ってな」
「私とあなたがフレンドになったとして、私に何のメリットがあるのですか?」「そうだそうだ」
「そうだな、我がチーム【QuixShiv】が参加するイベントの情報を流そう」
「…まぁ良いでしょう。陸くん、かばんを」
「ほらよ」
私は陸くんからかばんを受け取り、中からスマホを取り出す。そして近距離通信を使ってネイサンとフレンド登録をした。
「ありがとう。今後ビッグになって、世界大会にでも挑戦してみるぜ」
「その時は是非拝見しに行きたいですね」
あれから時間が結構経ったが、未だ空は明るいままだ。でも流石に、そろそろ帰らないと。スマホの時刻表示も5時を回っている。
「それでは私たちはお暇いたしましょう」
「おいおい、そんな体でどうやって帰る気だい?まさか腕の力でか?」
「まさか。陸くん、今日は私を家まで運んでください」
「はぁ!?俺が!?」
「いつもは私があなたを家に運んでいるのです。今日くらいは逆にしたって良いでしょう?」
「ぐぬぬ…」
・
・
・
「501号室…だったかな。お前の家にはあんまり行かないからなぁ、5・0・1と」
ピンポーン…
しばらくすると、操作パネルの横にあるスピーカーからお父さんの声が聞こえてくる。
「波蓮、やっと帰ってきたか」
「その辺でぶっ倒れた波蓮ちゃんを持ってきましたぁ、海老原陸ですぅ」
私が口を開く前に陸くんが返答する。
「なんだって!?波蓮が倒れるなんて珍しいな。とりあえず家の中に入って」
「別に行き倒れたわけじゃないんですが…誤解を招くようなことを言わないでください」
私を抱えて家に入った陸くんは、リビングのソファに私を横たえた。そういえばあれから人魚の姿のままだったわね。通行人に奇異の目で見られてないと良いけど。特に陸くんのほうが。
「大丈夫?とりあえず牛乳でも飲むか?」
お父さんが心配してくる。まぁ、私がこんなになるなんて、中学生の時にインフルエンザにかかった時以来だし。
「はい…お願いします…とは言っても起きられそうにないのでストローもお願いします」
「はいはい」
ストローで牛乳をすすりつつ、今日起きたことについて話した。それを聞いたお父さんは、口角の端を下げながら口を開く。
「まったく、波蓮がこんなになる程の相手がこの近くにいたのか。危ないことに首を突っ込んでほしくなかったんだけどなぁ」
「どっちかといえば、私が身の丈に合わない技を出そうとしたからだと思いますが…」
「身の丈に合わない技を出さないと勝てないんだったら、それは相手が身の丈に合わない程強かったってことじゃないのか。まぁ、怪我があんまりなくて良かったよ」
「んじゃ、俺は帰ります。失礼しましたー」
「あぁ、波蓮をここまで連れてきてありがとう。近いうちにお礼をするよ」
「お礼だなんてそんな」
お父さんと陸くんの話が聞こえてくる。お礼と言っても金券だろうけど。
それから1時間経ち、なんとか歩けるようにはなったので、自分の部屋に戻った。
「ただいまー、今日は早く帰れて良かったー」
お母さんが帰ってくる。どうやら今日は早帰りだったらしい。
「「おかえりー」」
そして、【導きの剣士たちX―星に導かれし者たち】を手に取り、ベッドに寝そべった。これが最終巻になっちゃったのはちょっと悲しい。
この小説に出てきた主人公の最終武器である【スターライトブレード】に憧れてあんな剣を形成したけど、実戦ならやっぱり自分に使いやすい大きさにするのが一番だろう。今度は小ぶりな剣にしてみて、でも必殺技のロマンは捨てきれないので、素早くサイズを変えられるように特訓しよう。
あっそうそう。今読んでる小説、【神狐神社、狐の解決屋】があと1話で読み終わるから早く読みきらなくちゃ。
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第1章 青き人魚と赤き竜 完
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