第13話 Kaleidoscope

 8月7日水曜日。

 志保ちゃんはまだ帰ってきてない。彼女は私と同じ手芸部だが、未だに顔を出してきていない。両親は警察に連絡したし、当日一緒に買い物に行っていたらしいクラスメイトも参考人として話を受けたが、午後4時頃に解散した後の動向は知らないらしい…と女子会チャットルームにあった。

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「私は…知りません。先週に手芸部で一緒に作業をして以降見ていません」

 私も話を受けた。とはいえ、言った通り先週金曜日に手芸部で話しながら作業をして、時間になって別れた以降は全然見ていない。

「あぁ全く、同じ部活だからなにか聞けるかと思ったらとんだ無駄骨だったぜ」

「まぁ、なんてことを言っているの」

 おじさん警官に変なことを言われて険悪なムードになる。この警官、ネイサンより髭を蓄えている。しかし無精髭とかそういうものではなく、きちんと整えられている。


 そういえば、当日に…

「そういえば志保ちゃんがいなくなった4日、路地に変な人がいました。帽子にマスク、サングラスを付けてて顔は分かりませんでしたが。」

「何だって!それはどこでだったかね!」

「確か…(スマホの地図アプリを開く)この辺だったはずです」

「フム…その人のその他の特徴を教えてくれないか?」


 しまった、こんなことになるんだったら顔でも覚えておけばよかったわね。

「あとは白いポロシャツを着ていたくらいです」

「うーん、これだけでは…まぁいいでしょう。ご協力に感謝するよ」

「早く志保ちゃんが見つかるといいですね」

「それはこっちのセリフだ。まっお前も誘拐とかされたりしないように気をつけるこったな」

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 Strings:ネイサン・フロストとのチャット


 ネイサン・フロスト:すまん、ちょっと手を貸してくれないか?


 吉川波蓮:どうしたのですかいきなり?


 ネイサン・フロスト:うちのメンバーが連れ去られた


 吉川波蓮:え?

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 兎の女性(名前は足立夜兎)…あの時ナイフを持っていた女性…とラミアの女性(名前は鈴木あけ)がカフェで食事をした帰りに、夜兎がトイレに行った隙に朱が車に詰め込まれてどこかに連れ去られていった。…話をまとめるとこんな感じだった。

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「で、あなたは助けようとは思わなかったのですか?」

「あの人達は5人くらいいて、私一人じゃどうにもならなさそうだったの!あーたも知っての通り私はチームの中で最弱よ!それに、無事に帰って情報を渡したほうが良いって思ったんだし」


 私とネイサン、そして夜兎は朱が連れ去られた場所に着いた。そこはそれほど見通しが良くなく、手際が良ければ誘拐くらい簡単にできそうな感じだった。

「で、ここがお前が使ったトイレだな?」

「そう。ここから朱チャンが連れ去られたのを見ていたノヨ」

「連れ去った人たちの特徴は覚えてるか?何かをマークを付けていたとか」

「うーん、グラサンを付けていて、白い帽子を被っていてぇ、マスクを付けていたね。服装はバラバラだったけど。マークは…よく見えなかったわ」


「それって、私が前に返り討ちにした人と似ていますね」

「何だと!返り討ちにしたって、どういうことだ」

「後ろから殺気を纏って近づいてきたので、杖で攻撃したら一撃で気絶してしまいました」

「だったら足立でも…いや他の人が強かった可能性があるな。責めるのはやめよう」


「それはそうと、鈴木があまり抵抗せずに連れ去られたのが気になるな」

「え?朱さん、抵抗しなかったのですか?」

「どうやらそのようなんだ。足立が言うに…」

「連れ去った人たちはほとんど服が汚れてなかったんダ。朱チャンが抵抗したら少なくとも土ぼこりが付いているはずなんだケド…」

「俺のセリフを奪うな。そう考えると、不意打ちを受けた可能性が高い。相手は相当な…とはいかないまでも手馴れの可能性が高いな」


 私たちはこのことも警察に伝えた。その過程で今朝話をしたおじさん警官とも電話越しに話をしたが、どうやら何者かの妨害にあっていて捜査があまり進んでいないようだ。それでも絶対に見つけると言っており、その頼もしい声に勇気づけられた。

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 翌日、手芸部の帰りにふと思った。誘拐といえば身代金だと思うけど、志保ちゃんのケースは身代金の要求がこれまで一切ない。


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 Strings:ネイサン・フロストとのチャット


 吉川波蓮:そういえば、身代金の要求って来ました?


 ネイサン・フロスト:いや、まだ来てないな。そもそも、鈴木はそれほど金は持ってる方じゃない。

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 そういえば、志保ちゃんも家は普通で、金持ちってほどお金は持ってるイメージはないわね。そう考えると…浮かんだ最悪のイメージを振り払う。っていうか、彼女は恨みを買うようなことはしてないだろうし。その時、前に香世ちゃんから聞いた話が浮かぶ。確か人体実験目的での誘拐、という話だったわね。でもあっちは黒ずくめでこっちはバラバラな服装だった。何かが違うのだろうか。そもそも志保ちゃんの件に関する情報がほとんどない。とはいえ彼女は外泊するような子じゃないし、部活のスケジュールも少し詰まっていたし、自分からいなくなったという線は考えにくいだろう。やっぱり人体実験目的での誘拐の線が濃厚…?


 不安になりすぎて色々と考えてしまった。まぁ、素人考えじゃこれが限界かなぁ。後は警察に任せよう。

 そんなことを考えながら外で散歩をしていると、あるポスターが目に入った。

《巽探偵事務所:依頼募集中! 依頼はコチラから!→090XXXXYYYY》

 もう警察に頼んでるし、別に探偵に頼むことじゃないかなぁ。…ん?よく見ると下にもう1枚の張り紙がしてある。

《謎の誘拐事件多発中!これらの事件に関して私たちは全国探偵ネットワークを用いて解決に努めています!『特別!』行方不明に関する電話相談なら10分無料!詳しくは以下のURLへ!》


 URLを読み込んでアクセスしてみると、以前香世ちゃんが言っていた通りの事件が大々的に特集されていた。一回相談してみようか。私は帰った後、その番号に電話を掛けてみた。

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