第8話 Crimson Mist
「それってぇ、俺の事かい?」
ダンスチームのもう一人のメンバーについて話していると、突然路地の奥からそこそこボサボサな髪のおじさん…おじさん?が出てきた。増援かと思い、私と陸くんはそれぞれ構える。
「い~や、俺は戦いに来たわけじゃないんだ。まぁいい。話の続きは奥でしよう」
「まさか罠じゃないでしょうね?」
「どうだろうな。とりあえず一度行ってみないことには分からないか」
と小声で話し、私たちは変身を解かずに彼に付いていった。
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私たちは路地裏奥の小部屋らしき場所に通され、そこにあったプラスチックの椅子に腰掛けている。本来は天井はないのだが、ここにはトタン屋根の天井が付いている。
「その件は、本っ当~~にすまなかった。リーダーとして謝罪するよ」
陸くんはこの言葉を聞いて驚いていた。まぁ、自分をボコボコにした人たちのリーダーからこんな言葉が飛び出せば、そう驚くのも無理はない。
「自己紹介が遅れたな。俺の名前はネイサン・フロスト。アメリカから来た。よろしくな」
「ネイサンさん、宜しくお願いします」
「よろしく…おねがいします」
「まぁそうかしこまらなくても良いぜ。あと、ネイサンでいい。『ネイサンさん』なんて、言いにくいだろ?」
「それではお言葉に甘えて。ネイサン、改めて宜しくお願いします」
「あっそうそう、そこの青い髪のお嬢ちゃん、名前は?」
「吉川波蓮です。宜しくお願いします」
「波蓮ちゃんか。とりあえずこれ、飲んでみろ。怪我してるんだろ?」
とネイサンから投げ渡されたものは、試験管のような容器に入った黄緑色の液体だ。
「私、こんな怪しい液体飲めませんよ」
と言い、容器を突っ返す。するとネイサンは、
「そうか。これは信頼できる筋から貰った特殊な薬なんだがなぁ。飲めばたちどころに傷が癒える」
と言い、ポケットの中にその薬を入れた。
「だから、そういうのが怪しいって言っているのです。あと、傷を治すのであればもう間に合ってますから」
「では改めて。俺はこのダンスチーム、【QuixShiv】のリーダーだ。このチームはこの街にいたチンピラ達を俺がまとめて作ったんだ」
「チンピラ達を…だって?」
「あぁそうだ。他のメンバーが全員束になってかかってきても俺は適当にやっても楽勝で勝てる。そういう関係で俺はメンバーを自分に従わせているんだ」
あの人数に対して一人で適当にやっても楽勝って…相当な手馴れね。
「一応大体は俺が目を光らせているから、メンバーは他人に危害を加えないはずだったんだが…目を離した隙にそんな事があったとはな。本当に申し訳ない。後で再び社会のマナーを叩き込んでやろうかって思うよ」
「そうしてもらえると助かります。私としては二度とあのようなことは起こってほしくないですし」
「被害者本人の俺もそう思うぜ」
「そういえばお前、波蓮…と言ったか」
「ん?私がどうかしましたか?」
「波蓮、一回俺と戦ってみないか?」
「え?どうしてそうなるのですか?どうして私があなたと?」
そう不思議に思っていると、ネイサンは立ち上がってこちらに歩み寄り、こう言った。
「俺はメンバーの凶行を止めることが出来なくてちょっと血が煮え立ってるんだ。これを止められるのは波蓮…お前しかいない、そう思ったんだ」
「待ってください、他にも強い人はいるのではないのですか?」
「お前には、この近辺で一番強い、と思わせるようなオーラがある」
「えぇ…そんなことを言われても。しかも私、もうボロボロで戦えないのですよ」
「今すぐじゃなくていい。もう少し後でいいから戦わせてくれ」
ネイサンは私の手を握り、懇願するように言った。
「しょうがないわねぇ、私はあなたと戦いましょう。しかし、2時間後!2時間後ですよ!2時間経たなきゃ戦えないので」
わざと語調を強くして言う。
「ありがとう!それでは2時間半後に前の広場で待っているぞ!」
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それから1時間後、私と陸くんは市街地のカフェにあるVIPルームにいた。とは言っても追加料金を払う事で使うことのできるただの個室だ。1時間1000円。私はサマーパイナップルスムージー、陸くんはミドルサイズパフェ【サマーVer】を食べている。
「右腕の調子はどうだ?まだ動かしにくいか?」
「一応、動くことは動くのですけれど…傷はまだ治っていません」
「お前のその…癒やしの水だっけ?便利だよなー、救命救急士にでもなれそうだな」
「癒やしの水を生み出す魔力には限りがありますし、基本的に外傷にしか効きません。そんな万能なものではありませんよ」
そう言いながら、スムージーを啜る。疲れた全身に染み渡るような味だ。
背もたれにもたれ、考える。勢いに押され戦いの申し出を受けてしまったが、果たして私はネイサンと渡り合えるだろうか。私たちが2人でなんとか倒した相手を1人で、しかも口ぶりからして無傷で、倒したのであろう。
「お前、今『私はあの人を倒せるだろうか』って考えてるだろ」
「若干違いますね。『私はあの人と渡り合えるか』を考えていたのです」
「あいつらはそんなに強くなかったし、案外戦ってみたらなんとか出来るかもな?」
「それは3人でぜぇはぁ言っていた人が言うことではない気がしますが」
「ぐぬぬ」
「あ、この椅子、傾けると簡単なベッドみたいになるわ」
それから私たちはカフェで休みつつ、時間を待った。
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約束の時間、私たちはストレッチをしながら路地裏の前にいた。気力・魔力・体力全て十分。右腕の傷も完治している。
「波蓮、だったか。待ってたぜ。うちのリーダーがお待ちだ。早く広場に来い」
入口で待っていたのは、私がウォータービームで倒したラミアの女性だ。今は人間の姿だが。
「そこの男は…あの時一緒にいた男か。なんだ?観戦希望か?」
「どうだっていいだろ」
「じゃ、『観戦希望』という形で通す。そうだって顔してたからな」
広場に入ると、あのメンバーが端で座っていた。全員ガラが悪そうな座り方だなぁ。その真ん中にネイサンがいた。彼は自然体で、武器は何も持っていない。
「波蓮、来たか。待ってたぜ」
「2時間待ってくれてありがとうね。じっくり休めましたわ」
「まぁ、その方が互いに本気で闘えるってこった。そうだそこの男、名前は?」
「海老原陸だ」
「陸、お前はうちのメンバーと一緒に端っこで観戦しててくれ」
「…分かったよ」
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