第7話 The One Star(後編)
相手の残りは、狼、犬、ライオン、サーバル、ラミア、あと鉄パイプを持った人ね。
陸くんに前者3人を相手するように目配せすると、余所見をするのを待っていたかのように鉄パイプの人が突撃してくる。
「おおりゃぁ!さっさと片付けるぞ!」
と叫びながら。ただ、動きが遅いように見える。心なしかセリフも遅い気がする。これなら防御をした後カウンターを決めれば良さそうね。と思い、杖を斜めに構えてガードをすると、
「そんなちゃちな棒じゃぁ、俺の攻撃は防ぎきれないぜ」
と振り下ろされた鉄パイプは、私の杖をまるで剛力で鉄をひしゃげるように両断した。私は
「うっそぉ!」
と叫び、後ずさった。後ろにスペースがあるところを見ると、どうやら陸くんは私から離れたところで戦っているようね。私は杖を再形成し、鉄パイプの人に向き直る。
「フッハハァ!私は亀の能力者だからな!固さとパワーには自信がある!」
「亀とパワーって、そんなに関係ないでしょう?」
「遅いくせにパワーがないって言われたから、鍛えたんだ」
「…」
こいつは後回しにしたほうが良さそうね。
ヒュッ ヒュッ
「ん?」
不意に飛んできた岩を水弾で撃ち落とす。
「こっちも見ろよ、人魚のネーチャン。他のやつばっか見てると怪我するぜ」
振り向くと、ラミアの女性がそう叫んでいた。確かにそうだけど、あいにく人間にも人魚にも目は正面に2つしかついていない。とすると、やはり活路は――
水を使って空中で滝のようなライン――ただし水は下から上に流れている――を描き、私は空中に飛び出す。空中からなら下を見れば相手3人が同時に視界に入る。
「お前が空中に飛び出したんなら、私はお前を撃ち落とす。そうしてから、ゆっくり袋にしてやるぜ」
「どうぞしてみなさい、出来るものならね」
「お前ーー!」
と叫びながら、ラミアは連続で岩を射出する。岩はそれぞれ緩急が付けられており、避けるなら難しそうだ。
しかし私は避けず、回転させた杖から射出した水弾で岩を撃ち落とす。杖を回すのはただの雰囲気付けではなく、威力と連射力を上げるための所作である。そのまま左手を杖から離し、左手から他の相手に向かって水弾を射出する。威力は下がるけど、牽制あるいは疲れさせる目的ならなら十分なはず。
「くそっ!相手が片手だっていうのに押されてやがる!」
弾同士の応酬は、こっちが押し始めてきたようだ。ここで杖を持つ手を両手に戻し、一気に押し切る。
「ぐっ!」
「これで終わらせましょう!ウォータービーッム!」
あのときと同じように5つの水球を発生させ、そこから強烈な水流を巻き起こす。ラミアは手負いだったからか、水流を避けきれずに直撃し、そのままダウンする。
そのまま水流を回転させ、サーバルを狙う。彼はあまりの威力に足がすくんで動けないようだ。すると鉄パイプの人が、
「ミナミさん!私がお守りします!」
と言い彼をかばうように走り、亀に変身して背中の甲羅をこちらに向けてその前に立ちふさがる。私は
「亀の甲羅だろうと、私は打ち砕いてみせましょう!」
と言い、更に水威を強める。
亀は水流にしばらくの間耐えている。これはあんな口を叩く程はあるわね、このままではあの亀を倒せなさそう。そこで私は賭けとして、水流を保てる最後の一瞬だけ、威力を大幅に高めた。
「これで最後です!」
着弾点は土煙と水滴の粒で覆われる。すると亀は、
「うわぁ~~」
と情けない声を上げながら吹っ飛んで壁に激突してしまった。見たところ甲羅にヒビが入っているみたい。後で治してあげないと…
ところでサーバルは?と思い、目を凝らして土煙の中を見ると、そこには誰もいない。
「え?どこに行かれたのですか~?サーバルさーん」
と叫んでいると、不意に右腕に痛みが走る。
「!?っ…」
右腕を見ると、前腕にサーバルが噛み付いていた。ここは上空よ、どこから来たの、と思っていると、近くにある外階段が目に入った。私が水弾発射の反動で階段に近づいてしまっていたのを見て、階段を登って私より高い位置になる踊り場にたどり着き、そこから跳んで噛み付いたのね。
左手と右腕を使って離そうとするも、サーバルの顎の力はすごく、とても離せそうにない。そこで左手に杖を持ち、おおきく振りかぶって彼の頭を叩…こうとしたがすんでのところで止めた。なぜなら、叩く直前で彼は気絶してしまったからだ。歯は腕から外れ、彼の体は私の足元にある水に着水する。
「最高に勇気と責任感がある人ですね、あなたは」
右腕に癒やしの水を掛けつつ、サーバルをゆっくり降ろしてから陸くんの方を見ると、未だ3人と戦っていた。私は彼にハンドサインで、私のことを3人の相手に感知させないように伝え、再び上空に上がる。左手に杖を持ち、深呼吸をする。魔力を使い切りそうなため、撃てる水弾はあと6発くらいだ。
まだ右手は使えないため左手だけで杖を握り、杖の上部についている月形の飾りを使って狙いを定める。そしてライオンを狙い…水弾を射出する!
しかし、慣れない左手で狙ったせいで手ブレが発生し命中しなかった。
「「「!」」」
これは完全に気づかれたわね…
しかし相手の目がこっちに向かった隙に、陸くんは相手に突撃を仕掛けた。
「はっはー、貰ったぁ!」
相手が全員打ち上がる。この距離なら――
私は水弾を連射し、無防備に打ち上がった相手それぞれに命中させた。相手は高さこそ差があるもののそれぞれビルの壁にぶつかりダウンした。
「俺たちの…勝ちだよな?」
「そ…そうみたいね。でも、このダンスチームのメンバーって、あと一人いたような気がします」
「そうなのか?俺はあの時しか見たことないからよくわからないが」
「あともうひとり、髭面のおじさまがいたような」
「それってぇ、俺の事かい?」
「「!?」」
路地の奥から、丁度話に上がったような人が出てきた。まさかまた戦うんじゃないでしょうね!?
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