第6話 The One Star(前編)

 私と陸は背中合わせになり、周囲を取り囲むダンスチームのメンバーを見張る。誰か一人でも突っ込んできたらすぐに戦闘を始められるようにするためだ。

「思い切りぶっ飛ばしなさい、骨は拾ってあげます」

「おい、それって俺がボッコボコにされること前提で言ってるんじゃないのか?」

「そうはさせませんよ」

「よく分かんないけど全力で行くぞォ、俺は3人までなら一度に相手できそうだ」

「つまり、合計であなた3人分、ってことですね」


「そっちから来ないんだったら、こっちから行くわヨォ」

 と言って、ナイフを持った女性が、こちらに走り寄って袈裟斬りの体勢になる。速い、陸くんには劣るが、十分「速い」といえる速さだ。しかも初速から最高速になっているようだ。さらによく見ると、妖精(男だけど)、しかも炎の妖精、が炎を射出する準備をしている。とすると、ナイフを防ぐと死角から炎弾が飛んでくるって寸法ね。


 対応するように杖を地面に突き、自身の後方を除く方向に水の壁を貼る。するとナイフ持ちの女性はこの壁に突っ込み、身動きが取れなくなる。直前に炎弾が曲がって飛んできて自分の上方と側方を狙っていたが、それも壁で防がれる。でもこれだけじゃないのよ。


 もう一度杖を地面に突くと、水の壁が外向きに向かって爆発し、ナイフ持ちの女性を吹き飛ばす。彼女は壁にぶつかり、すっかり伸びてしまった。耐久力は無かったみたいね。

「これで一人ですね。さぁ、どんどん行きましょうか」

「貴様ー!許さん!」


 と同時に、後ろから狼とライオンが走ってくる。そういえば相手の中に飛べる人は1人しかいなかったわね、と考えると、私は水を巧みに操り上空に飛び出す。妖精もつられて上に飛び出す。これで1対1ね。タイマンだったら負ける理由はない。


 そう思っていた矢先、下半身に衝撃が走る。下方向から瓦礫がぶつかったようだ。水を通ったために減速されて軽傷ですんだが、もしまともに当たっていたらどうなっていたことか。射線の先を見ると、そこには熊がいた。さしずめ、こいつがそのへんにあった瓦礫を投げたってところね。

「そこの熊!お前の相手は俺だ!彼女の邪魔をしないでくれ!」

 と言いながら、陸くんが熊にパンチを繰り出す。熊はそれをうまくかわし、陸くんに向き直る。助けてくれるじゃない、あとで感謝の言葉でも言いましょう。


 傷を癒やしの水で治しながら妖精に水弾を放つ。下からの攻撃を防ぐために足元の水をより広く、より厚くする。炎相手に水が負ける道理がないってーの!

 しかし、妖精は一向に近づいてこない。そう考えると、もしかしたら戦闘では炎魔法がメインで、腕っぷしはからっきしなのかもしれない。

 その確信を得るために、前方に水でバリアを貼りつつ接近する。すると妖精は逃げるように離れていく。やっぱり炎魔法頼りなのね。


 とはいってもどうやら私と妖精では飛行速度が同じなようなので、一向に近づけない。とはいえここは狭い路地裏だ。いかようにもやりようはある。

 周囲を見ると、4辺にあるビルのうち、1つにだけ外階段がある。これを利用すれば、彼を追い詰められそう。

 先程と同様にバリアを張りつつ妖精に接近する。彼も同様に炎弾を撒き散らしつつ逃げるのみだ。私は彼を外階段に追い詰めるように空中を追う。そして…


「痛って!背中打っちまった!」

 妖精は外階段の踊り場の部分に盛大に背中を打ち付けてしまった。私は、彼をそこの床と手すりに追い詰めるように移動する。

「やっと追い詰めましたよ。さて、これからどうしましょうか」

「待ってくれ、見逃してくれよぉ」

「駄目ですよ。飛び出した拳の責任は自分で負わなくてはいけません。それに、私の友達を暴行した罰も受けてもらいましょう」

 私はそう言うと、縦に1回転し、尾っぽの部分で踵落としをぶちかました。妖精は床に盛大に体を打ちつけて気絶してしまった。もしかしてちょっとやりすぎちゃったかしら、後で治してあげないと。


 ひと仕事終えて陸くんの方を見ると、闘牛の牛のように熊を投げ飛ばしているところだった。熊は頭から地面に突っ込み目を回している。陸くんもなかなかやるわね。熊を倒し終わった彼は、空中を泳いでいる私を見つけると、腕を上げてアピールをしている。まだ相手がいるのに、と少し呆れていると、彼の足元にラミアの尾っぽが這う。もしかして、陸くんを締め上げようとしているの!?


「やめなさーい!」

 と、陸くんに向けてバブルジェイルを超高速で放つ。瞬く間に彼の姿が泡に包まれた。しかし以前使ったときとは逆に、外からは割れにくいようになっている。

「何だよこの泡は!?」

 ラミアの人も驚いてるみたいね。陸くんを締め上げたと思ったらフニフニの泡を締め上げているんだもの。


「これで、仕上げです!陸くんは耳でも塞いでください!」

 と、泡を外側に発破させる。

 ドゴォーーーーーン!

 と、轟音を轟かせながら泡が爆発する。

 煙が晴れると、陸くんが腕を上に上げながら怒っている。

「うるさいなぁ波蓮!もうちょっと抑えられなかったのか!」

「だから耳を塞いでって言ったでしょう?反応できない方が悪いのです。」

「お前なぁ~」


 ラミアの方を見ると、尾っぽがボロボロになっているものの未だに戦闘態勢だ。腕を上げた後、地面に叩きつけると、陸くんに向かって地面を隆起させた。彼は反応が遅れ、空中に打ち上げられる。

「うおっ」

 この高さは落ちたらただでは済まない。急いで彼の方に駆け寄り、腕で抱きかかえた。…重っ、改めて思うと凄い筋肉ダルマね。

「お前、これってお姫様抱っこってヤツじゃないのか?ちょっと恥ずかしいんだが…」

「あらすみません。今すぐ降ろします。」

 私はそう言うと、地面に降りて陸くんを降ろした。


「そこのお前!ようやっと追いついたぞ!」

「仲間の仇だ!ぶっ飛ばしてやるよ!」

 と、狼とサーバルが叫ぶ。さしずめ、私を追って外階段を上り下りしたってところかしら。


 再び敵に取り囲まれる。だけど3人倒したから、前よりは楽そうね。

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