第5話 Go Ahead!!

「痛った!」

 考え事をしていたら指に刺繍の針を刺してしまった。部室に備え付けてある救急箱を開き、刺した場所に消毒液をかける。

「大丈夫か~?」

「大丈夫です、それほど深くは刺していませんから」

 そう言って自分の席に戻る。


 今、私は文化祭における手芸部の出し物であるバッグを作っているところだ。桜色を基調とし、桜の刺繍がされたものだ。私は夏休みのうちに四季それぞれをテーマにしたバッグを作る予定である。

 なんでこんな事をしているかというと、今日の午前が手芸部の集合の日だったからである。そのため部にはメンバーのほぼ全員が集まっている。ちなみに、みんな部活のみの用で来ているので私服を着ている。私も、上は白いTシャツに下はフリル付きで膝まで届く長さのスカートだ。


 黙々と集中して刺繍をする。他メンバーも他人のことなんか興味がないかのように(実際はそんなことないんだけど)自分のことに集中する。これは文化祭で売るものだと考えると、集中して手ぶれを抑えることが出来る。


 刺繍が終わり、バッグを組み立てる作業に入る。私も1学期のうちに作業が上手くなったわね。このままいけば夏休み前半のうちにバッグが全て作り終われそう。その次は何を作ろうかしら。王道を行く手編みのマフラーにしようかしら、と思っていると、


 キーンコーンカーンコーン

 と、12時の鐘が鳴った。それに合わせて片付けを始める。作りかけのバッグには紙の名札をつけ、指定された位置に置く。そして編み物に使う器具は全て持ち帰るため、編み物道具用のかばんに入れてそれをショルダーバッグに入れる。椅子から立ち上がり、

「「「お疲れ様でしたー」」」

 と、私を含め半分以上の人が部室を出る。

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 昼食を取るために街に出る。ダンサーチームとは荒事にしたくはないけど、もし荒事になったときのために、と行きつけのラーメン屋「Sunrise」に行く。

「らっしゃーせー」

 店員が叫ぶように言う。選ぶラーメンはもちろん「REDMEN」だ。食券を買い、店員に渡す。

「REDMEN」とは、塩をベースに唐辛子をふんだんに散らした辛いスープに、かきたま、ホルモン、にんにくが入った見るからにスタミナが付きそうなラーメンである。麺はストレートなのでスープが飛びにくい。


 しばらく席で待つと、「REDMEN」が届く。スープは見た目通り辛くて熱く、ストレート麺なのにスープが良く絡む。その辛さを玉子が程よく中和する。そしてホルモンを食べるとまるでチゲ鍋を食べているような錯覚に陥る。さらに多めに入った粗刻みにんにくの鮮烈な匂いが香る。流石に健康に悪いからスープは全部飲まないけど、一通り食べただけで力がついてきそうだ。

 ラーメンを食べ切り、ふとシャツを見ると一切スープが飛んでいない。クリーンレースならぬクリーンイートだ。


 …ちょっとグルメリポーターみたいなこと思っちゃって、誰も聞いていないのにちょっと恥ずかしいわ。


 ラーメン屋から出た後その足でコンビニに行き、エナジードリンク「タイガースラッシュ・トライアド」を買う。万が一荒事になったらこれを飲もうと思うけど…何もなく家に持ち帰れれば良いわね。

 そう思いながら合流場所である路地裏前に向かう。

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 到着すると、既に陸くんがいた。

「おう!遅かったじゃないか!」

「遅かったって…あなたは何分前に着いたのですか?」

「ん?5分前だが?」

「それはあんまり遅れたって言わないんじゃないですか?」

「俺のほうが早かった、それは事実だ」

「それは…そうですね」


 そんな会話をしながら路地裏に入ると、不意に誰かの声がしたような気がした。

「……………………」

 声がしたビルの屋上を見るも、誰もいない。

「波蓮、どうしたんだ?そこには誰もいないぞ?」

「確かに誰かの声がしたのですが…あなたは聞こえなかったのですか?」

「いや?全然」

「…ともかく、ここからは注意して進んだほうが良さそうですね。空が見えなくて暗いですし。」


 周囲を警戒しながら路地裏を進むと、ビルに囲まれた広場に出た。そのまま進もうとすると、人がいきなり出てきて立ちふさがる。

「おっと、ここは通さねぇぜ。」

 立ちふさがってきた人の顔は、影になっていてよく見えない。

「おいおい、後ろを見てみろよ」

 そう陸くんが言ったので後ろを振り返ると、周りから人が出てきて私達を取り囲んでいた。ひい、ふう…合計で9人いる。


「声でわかるぜ。お前ら、一昨日俺をボコボコにした連中だろ。」

 とすると、この人たちはあのダンスチームのメンバーってことね。

「この牛野郎、また私たちにリンチされに来たの?早く逃げ帰ったほうが良いわよ」

「今回は私もいますよ。あなた達は一昨日の暴行について謝ったほうが良いでしょうね。私、強いですよ?」

「へっ、なんで私たちが謝らなくちゃいけないんだよ?先に突っ込んできたのはそっちなんだぜ?」

「突っ込んできたっつっても邪魔しないように横を通っただろ!今はこの子のおかげで治ったけど、アザが出来るまで殴るのはやりすぎだろ!」

 このままでは話し合いで解決できなさそう。どう考えても喧嘩になる流れでしょ。それにしても、この人たちはこんなに暴力的だったっけ。


「しゃらくせぇ!こうなったら二人とも病院送りにしてやる!」

 その掛け声とともに、ダンスチームのメンバーはめいめいの姿に変身する。いや、変身してないメンバーも居るわね。R種は熊に狼、犬にライオン、そしてあれは、サーバルって言うんだっけ。F種はラミアと…人間サイズの妖精といった感じね。そして変身していないメンバーが2人、鉄パイプとナイフをそれぞれ持っている。


「ちょっと!ナイフは銃刀法違反よ!」

 そう言いながら、私も呼応するように変身する、と同時にエナジードリンクを一気飲みする。すぐに効くわけじゃないけど、こういうのは気分よ気分。陸くんの方を見ると、既に変身しており、臨戦態勢だ。


 戦いの火蓋が切られる。

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