第4話 NEW GAME
宿題が終わってから2日後…
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Strings:海老原陸とのチャット
海老原陸:今日、俺の家に来てくれ、頼む!
吉川波蓮:何でしょう?また喧嘩ですか?
海老原陸:俺が喧嘩だけの人だと思うか?
吉川波蓮:思う
海老原陸:【鬼のように怒っているスタンプ】
海老原陸:今日は
海老原陸:違うぞ!
海老原陸:いいから
海老原陸:俺の家に来い!
海老原陸:【welcome!というスタンプ】
吉川波蓮:【了解というスタンプ】
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私は今、同じ住宅街にあるアパートにある陸くんの部屋の前にいる。スマホを見ると、今は朝の10時のようだ。陸くんが家に私を呼ぶなんて珍しいな、と思う。昔は1月に1回は互いに家に呼びあった仲だったけど。
呼び鈴を鳴らす。しばらく待つとドアが開き、陸くんのお母さんが迎えてきた。
「あらいらっしゃい。陸が『波蓮を呼んだから、代わりに出迎えてくれ』って。よほど他の人に顔を見せたくなかったみたいね。」
「お邪魔します。陸くん、どうしたのでしょうか。」
「詳しいことは本人に聞いたほうが良いわ。さぁ、入って入って。」
家の中に入る。陸くんの家は、玄関から真っすぐ行った所にリビングがあり、途中左には陸くんの部屋、右には両親の部屋がある。陸くんのお母さんからの頼みで、瓶のコーラを2本持って陸くんの部屋に入る。
部屋の中には顔がボコボコになった陸くんがいた。思わず吹き出しそうになる。
「ちょ、クス、あなたが、クスクス、そんな顔になるなんて」
「なんだよ、この顔がこんなにおもしろいかよ」
「ハハ、思わず笑っちゃったわね。今治してあげるから、そこに座ってて」
と言うと、陸くんが正座したのを待ち、彼に癒やしの水を掛ける。ある程度顔の腫れは引いたけど、完治するには1日は掛かりそうね。
瓶コーラを開けながら、陸くんと話す。
「ところで、どうしてそんなにボコボコになったのでしょうか?」
「昨日、新しい漫画を買いに街に行ったんだ。思いのほか遅い時間になったから、近道をしようと裏通りに入ったら、練習をしていたダンサーチームがいたんだ。よく駅前でダンスをしている連中だよ。知ってるだろ?」
「まぁ、たまに見るくらいは」
「邪魔しちゃ悪いと思って横を通ったら一方的にガン付けられて、囲まれてこのザマさ。」
「まさか。見た感じあの人達はそんな暴力的じゃないと思うけど」
「俺が嘘を付いてるってのか?」
「まぁ、そんな傷を自分で付けたとは考えづらいわね。そう考えると、一度本人たちと会って話をした方が良いんじゃないです?」
「俺は嫌だぜ、あんな奴らともう一度会うなんて」
「その傷がそのダンサーたちに付けられたものだったら、一度謝ってもらったほうが良いじゃないですか?見た感じ一方的にボコボコにされたみたいですし。あなたが先に攻撃していたとしても過剰防衛だと思うわ。」
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二人でコーラを飲みながらそんな話をして、翌日昼過ぎに駅前で会う約束をして陸くんの家を出た。つまり、明日そのダンサーチームに話をつけることになったということね。
明日は平和にことが済めばいいわね、と思いながら帰路につくと、不意にスマホが鳴った。Stringsの通知が光る。
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Strings:@1年3組女子会
山中弥千代:夏休み直後に来る文化祭・10月の体育祭を控え親睦を深めるため、夏休みの終わりに1年3組女子会で東京に旅行に行こうと思います。
山中弥千代:男子も呼ぼうと思いましたが、男子たちは先に別の予定があったため、呼ぶのは断念いたしました。その代わり、1年3組総合ルームに互いの写真を上げることにいたします。(男子は海近くの合宿所で1泊2日の旅行に行くようです。)
山中弥千代:詳しくは添付したファイルをご覧ください。
山中弥千代:「1年3組女子会夏休み旅行概要(仮).txt」
山中弥千代:この予定はまだ仮決めかつ書き殴りです。なにか意見があれば、ためらわずにお書きください。
山中弥千代:参加したい場合は、8月初頭にアップロードする参加届けに必要事項を書いて8/10までに専用フォームで提出してください。(必要事項には両親の記入が必要なものもあります。)
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添付されていたファイルを開く。すると、以下のようなことが書いてあった。
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1年3組女子会夏休み旅行概要(仮)
・日時:8/28(水)~8/30(金)
・参加費:一人10,000円
・宿泊場所:プリンス428ホテル
・日程(概略)
・8/28:上越新幹線で東京へ・20人で東京観光
・8/29:4人の班に分かれて自由に東京を観光(各班には山中家から私服ボディーガードを同行させます)
・8/30:班別に観光・上越新幹線で新潟に帰る
・備考
・観光中はStringsの女子会ルームを用いて、思い出の共有に努めること。
・参加する場合、夏休みの宿題のうち一行日記以外は終わらせること。
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東京かぁ…行ったことはないし、参加した方が良さそうね。と、行く意思があることをスタンプで伝える。ルームを見ると、他にも同様のスタンプが乱れ飛んでおり、行きたい人が多いことを思わせる。ひぃ、ふぅ、みぃ…って、20人全員行きたいんじゃないの。もし全員が行けるのなら、楽しい旅行になりそうね。夕食の時に両親に言ってみようか。
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「ただいまー」
当然声は返ってこない。両親は二人とも仕事場にいるからね。それでもただいまを言うのは、防犯のためって聞いたことがある。
今は11時半、昼食を食べるには若干早い時間だ。12時になるまで小説の続きを読み、昼食にはチャーハンを作ろう。
もし明日荒事になったときのために、今日は体を休めよう。
その夜、クラスの夏休み旅行について話をしたら、両親は二つ返事で了解してくれた。どうやら、ボディーガードが同行する話が安心感を与えたようだ。
今から東京旅行に対して期待を膨らませながら、床につく。
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