第1章 青き人魚と赤き竜

第1話 The Beginning of a Happy Life

「コラ~!水泳の授業は人間の姿に戻って受けなさーい!」

 先生の怒号が飛ぶ。これ絶対私に向けて言ってるよね…

「すいませ~ん!私、水に濡れると人魚になっちゃうんです~!」

「んなわけあるかーー!毎度のことだろーがぁ!早く人間の姿に戻りなさーい!」

 あわわ、先生の指先が帯電してるじゃん、ここままじゃ比喩じゃなく本当に雷が落ちちゃうよ。

 とりあえず人間に戻るように念じる。すると、下半身が二股に分かれ、次第に足の形になる。水着が変身に反応し、人間の形に沿うように変形する。それと同時に鱗が剥がれ、光の粒子となって消える。耳は……ヒレのままでいいか。

「これでいいですよね、先生!」

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 今日は1学期の最終日。いつもなら終業式のあとはすぐ帰るんだけど、今年は梅雨が酷くてプール授業の回数が少なかったから、特例として終業式の後に特別授業としてプールの授業が2時間あるのだ。とはいえ前半は普通の水泳の授業で、自由時間は後半だけなんだけどね。

「それでは、これから10分間の休憩の後、自由時間とする!私は狼藉者がいないかここで監視してるぞ!」

 ようやく練習の時間が終わったわね。さーて、ここからが私の独壇場よ!


 今度は人魚に変身するように念じる。するとさっきとは逆に二本の足が癒着し、下半身が青い魚の尻尾の形になり、次第に鱗が浮き出る。

 変化が完了すると、プールの対岸にいる男子の集まりからヒソヒソと声がする。この距離じゃよく聞こえないわね…

「『やっぱり波蓮はれんさんの人魚姿は可愛いなぁ』『結婚しよ』『でも、喧嘩に勝たないと告白を受け入れてくれないって噂があるぜ』って言ってるわ、波蓮ちゃん」

「志保ちゃんいつの間に、って最後の人、何という言い草よ」

「『そんなに女の水着姿をじろじろ見るな』って言ってこようか?」

 と、志保ちゃんが狐の耳を伸ばし尻尾をぶわっとさせながら話す。

「別にそんなことしなくても良いですよ、プールや海は人魚をよりきれいに見せると言いますし」

「まぁ波蓮ちゃんが良いなら良いけど、っと休憩時間が終わったみたいね」

 先生のホイッスルが鳴り響いている。

「さぁ、一緒に泳ぎましょう」

 と言うと同時に、自分とプールの間に水を厚くカーペットのように敷き、その上を泳ぐようにしてプールへ飛び込む。と同時に、敷いた水はすぐに乾燥するかのように消える。こういう時魔力で作った水は便利ね。



 後からプールに入った志保ちゃんと手を繋いで一緒に泳ぐ。全速力を出しちゃうと腕がちぎれちゃうから速さは抑えめにね。とはいえ人間の姿で泳ぐよりは明らかに早いのだけれど。

「どう?これが人の姿では辿り着けない速さよ!」

 彼女はコクリコクリと頷いている。


「さーて、」

 速度を落として志保ちゃんをおんぶする格好になり一度息継ぎをさせてから、プールを周回しながら速度を徐々に上げる。そうしながら、プールの中央高所に水で輪っかを形成する。

 十分速度が上がったら中央レーンに行き、少し沈んでから輪っかめがけて…飛び上がる!

 空中できりもみ回転をしつつ、輪っかをくぐる。私の浅葱色の髪が風になびいて揺れる。そして頭から、しかしなるべく水しぶきを上げるように着水する!


 二人で顔を水面から上げると、周りの人々が滝のような拍手をしていた。

 志保ちゃんの方に振り返ると、こっちの方を見ていて、ガッツポーズをしていた。

「まるで水族館のイルカショーをしているみたいだったよ!」

「まぁ、私のお母さんの方がもうちょっとうまく泳ぎますよ」

「本当!?いつか一緒に泳いでみたいなー」


 その後、私たちは泳ぎが苦手な人に教えて回ったり、友達同士でとりとめのない会話をしたりしていた。そんな時、胸に何かが触れる感触があった。

「誰ですか今のは!」

 急いで辺りを見回すと、クロールで急速に離れる男子の姿があった。

「こらー!待ちなさいこの男子!」

 と言いながら追いかけようとした矢先、つんざくような雷の音が鳴った。雷に打たれた男子は、

「ぴぎゃーーーーーーっ!!!!」

 と叫び、トビウオのように飛び上がりながらプールサイドに着地した。

「そこっ!ちょっと触るくらいなら見つからないとでも思ったか!」

「あの先生だけは敵に回してはいけないわね…」

「そうね…」


 自由時間の終了後、ストレッチをして着替え、教室に戻った。

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 帰りの会の途中…

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 Strings:@1年3組女子会


 平野志保:明日は土曜日で夏休み初日だし、新潟駅の方に行かない?


 中山たまき:いいね♪


 天地香世:いいですな、一緒に参考書とか買いませう


 南方由香里:それはいい


 天地香世:ぴえん


 天地香世:【泣いている表情のスタンプ】


 吉川波蓮:ごめんなさい、私、夏休みの宿題は早めに終わらせたいタイプで


 津々木綾子:そこは妙に真面目なのね、じゃまた次の機会に行きましょう


 吉川波蓮:また次の機会にー


 吉川波蓮:【サムズアップをしているスタンプ】


 平野志保:【手を振っているスタンプ】

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 こんなふうに、種族を超えて全ての人々が仲良くなればいいのに、と思う波蓮なのでした。なーんて。

「コラ!先生の話はちゃんと聞く!」

 先生がチョークを構えるとともに殺気が突き刺さる。

 ヒュッ     カツーン

 先生が投げたチョークは、水で防御する隙すら与えず私の額にクリーンヒットした。

「いたーい」

「次はもっと痛いわよ」


──────────────────────────────────────

 Strings:@1年3組女子会


 吉川波蓮:いたーい


 久志有里:【「残念だったな」とセリフが書かれたスタンプ】


 平野志保:【「わぁ」と驚いているスタンプ】

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