第7話 太陽の行方

ーどうやら劣勢、というわけでもないらしい。

もう一人の私の周りから魔獣が生えてきたときには肝を冷やしたけれど、以前『ただ魔獣を切っただけ』と言ったのは彼女の本心だったらしい。私との戦いに邪魔だと感じたのか、次々と魔獣を切り払っていく。未だ次々と地面から湧き上がっては来ているけれど、その数は減ってきていた。

『何なの…こいつら!」

私がいら立ったように声を上げる。邪魔者のカラスやサルの首を的確に切り飛ばしながら、隙あらば刃だけでなく石突も使ってこちらに仕掛けてきて。前回の襲撃でも感じていたけれど、彼女は偃月刀を自分のものにしている。まともに打ち合うのは、あまりよろしくないはずだ。


「奴らが何なのかはわからないです…けど!ここから出すわけにもいきませんから!手を貸してください!」

「勝手にしな。協力するつもりはない!」

公園の外に飛び出していくサルたちを光の鎖でつなぎとめる。力任せに引きずり戻したところへぱっと偃月刀が踊った。

「!ありがとうございます!」

「っ……そんなつもりじゃないって…言ってるだろ!」

サルを切った刃は私へと揺らめく。

「私は…私のために奴らを斬る。…勝手な解釈しないで」


その瞳がほんの一瞬揺らいだ。自分のために戦う、その言葉に少しの間があって、少しの動きの迷いを受けて、こちらも杖に力を込めて刃を跳ね上げる。そうして、バックステップで下がって彼女へ杖を向け、そして天に掲げた。

「だったら!私は私のために、あなたのことを信じるまでです!あなたの中の光を、誰かのために戦って守ろうとするあなたを、同じ私として!

スパークル・レイン…ラッシュ!」

杖の先から放たれた光球はほんの一瞬、空中で静止して、刹那無数に分裂する。そこから残っていた魔獣たちめがけて一斉に降り注いだ。

「…っ、あんたに何がわかる…。わかるわけ、ない。あんたなんかに…」

一掃された魔獣たち。けれど、その煙幕の中で私も立ち去ったようで、煙の消えた後公園には私しか残っていなかった。




ー「何がわかる…あいつに。私のこと、何も知らないくせに…」

水しぶきが足元にはねて、私はよろめきつつも川を渡って薄暗い橋の下にたどり着いた。

「うっ…うえっ…げっ、がっ、ごほっ…ごほっ…!」

急にこみあげてくる吐き気に耐え切れずに膝をついて、はげしくせき込んだ口を抑えた。…やはり、手のひらにどろりとした血が広がる。

「また…酷くなってる…どうして…」

戦えば戦うほど、症状は悪化して。体を支える気力もなくて、ずるりと壁にもたれこんだ。そうして、荒くなった呼吸を整えていると、あいつとの戦いが脳裏をよぎっていく。

「反撃、してこなかったな…。あいつ…」

いくら切りかかっても受け止めるだけで、何だったら最後の範囲攻撃も私には当たらないように調節していた。

ーだったら!私は私のために、あなたのことを信じるまでです!あなたの中の光を、誰かのために戦って守ろうとするあなたを!ー声が浮かんでくる。

「何なの…あいつ。私の光は…ひかりは…」




「襲われたって…大丈夫だったんデスか!?」

「迎えず済まない。…しかし、黒い魔獣か」

本部からの呼び出しで戻った私も、もう一人の私と出くわした件について報告を上げる。モニターに向かっていた牧野さんが、その事ですが、と振り向いた。

「輝子さんのものと思われる反応は検知できました。しかし…その黒い魔獣の反応はこちらでは確認できていません」

「黒い個体はセンサーをかいくぐる、ということか。晴子、頼めるか」

「お任せあれ。そっちは私に任せてちょうだい」

そしてそちらの問題は司令経由で晴子さんへ。任された、と胸をむんずとはった晴子さんが部屋を出ていくのを見送ると、それで、と司令が続きを切り出した。

「昨日輝子くんの幼馴染、と言っていた色部ひかりさんのことでいくつか分かったのでな。耳に入れてもらおうと思い集まってもらった。長岡」

促された長岡さんがバインダー片手に立ち上がる。それに合わせて、牧野さんがモニターを切り替えて、大きくひかりの顔が映し出される。


「昨日話にあった色部ひかりさん、二年前までは確かに第二地区に住んでたましたね。そこからウサミ・サイトウの両シティを数か月ずつ転々として、いまはアガキタの第三シェルターあたりに落ち着いているみたいです。ご家族も一緒に。彼女もアガキタの高校に通ってるみたいです。あ、一応だけど、これが住所ね」

ペラ理と一枚のメモを長岡さんが差し出す。何でもないようにしていても、一日でここまでわかるなんて。そう思うと自然に頭が下がった。

「ありがとうございます。長岡さん、牧野さん」

「いや別に、大したことじゃないよ」

「これが私たちの仕事だものね」

そういってお二人は首を振って。照れくさいのか長岡さんがポリポリを頭をかく。


「しかし榊、これを知ってどうするつもりだ?」

「そうデスよね。アガキタというと随分遠いデスし」

「とりあえず、アガキタでこっちの光にあってみたいと思います。あって…二年前とそれからの話を聞いてみたいんです。こっちの私と、私の力を手にしたのが同じあの日なら、こっちの私がああなった理由がわかるかもしれないので」

あの時見た私の瞳には孤独な光が宿っていた。それでなんとなく、わかってしまったけれど確証はなくって。

だから、確かめないといけない。私の中で私が訴える。

「そうか…わかった。ならば明後日、土曜は学校も休みだ。こちらのひかりくんと会って、ゆっくり話をしてくるといい。こちらも手はずを整えておこう」

「ありがとうございます、司令」

遠くアガキタの私の幼馴染。彼女に会えば、私の過去もきっとわかる。彼女にとっての”あの日”のことも。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る