第5話 違うチカラ
「全く!どうしてすぐに呼んでくれなかったの!」
「い、いや…それは晴子がだな…」
「休みだったからっていうの!?確かに久しぶりだったけど、異世界から来た子なんてほっとけるわけないでしょうが!」
「う、うむ…。すまない…」
翌朝。
ひとまず本部の空き部屋に泊めてもらった私は、オペレーションルームに向かって…その扉の前で足が止まった。同じように呼ばれてやってきたのだろう二人も事情を察してくれたのか、はるひさんが肩をすくめる。
「おはよう、榊。これは…そういうことか」
「おはようございます、はるひさん、菜摘ちゃん。えっと…これは一体…」
「すまないな。私に任せてくれ」
「はあ・・・」
先頭に立ったはるひさんがゲートを開く。それに続く私の陰に隠れるように、シャツをつかんで菜摘ちゃんがそれに続く。
「な、菜摘ちゃん…?どうかしたの?」
「ちょっとだけ…このままでもいいデスか?…どうにもあの人は苦手のなのデス…」
「いいけれど…大丈夫ですか?顔色もよくないけれど」
上目遣いに見上げてくる菜摘ちゃん。心なしか震えている彼女を連れて先に進むと、司令ともう一人、白衣の女性が口論を繰り広げている。
「大体!詳しい分析は明虎くんだって私に任せるつもりなんでしょ?だったら休みの昨日でも今日でも変わらないじゃないの!!」
「それはそうなんだが…俺だってここを束ねるものとして休日出勤を支持するわけにはいかんだろうが」
「司令」
「それはそうなんだけど!重要度ってものがあるでしょう!?」
「司令…いや、叔父様!叔母様!いい加減にしていただきたい!二人が困っております!」
はるひさんが割って入ろうとしてもヒートアップを続ける言い争い。業を煮やしたはるひさんまでもが声を荒げると、二人の大人ははっとして我に返る。
「す、すまん、はるひ…。菜摘くんも輝子君も見苦しいところを見せてしまったな」
「い、いえいえ…お気になさらず…」
「もう見慣れたデースよ…」
うんざりとした表情で菜摘ちゃんがぼやく。それより、と司令が言い争っていた相手の女性を前に出した。
「彼女は長尾晴子。技術者として入ってもらっている。輝子くんの件についても彼女に調査を進めてもらうつもりだ。輝子君も可能な限り協力してくれると助かる」
「もちろんです。よろしくお願いします、榊輝子です」
晴子さんは私の世界では刀鍛冶、つまり私たちの名刀の整備を担当されていた。こっちでは開発とかもしているのかな、なんて思いながら一礼すると、すぐさま彼女の両手に顔を挟まれる。
「ぷへっ!?」
「見れば見るほどこっちの輝子ちゃんにそっくりよねえ。ドッペルゲンガー?ってくらいだわ。それにしても異なる世界から本当に来ていると仮定して、昨日の戦いの後のバイタルにも異常がなかったってことはこっちに適応したってことなのかしら。そうすると血液以外も確認したいわね。…!もしかしたらここに来る過程で変質したとか…だったらワープゲート?どうやって渡ってきたのかしら」
「あ、あの…はなしてくだひゃい…」
「あらやだ!ごめんなさい!つい止まらなくなっちゃって…」
慌ててその手を放してもらって、ようやく頬が自由になる。ほっとしていると、後ろから菜摘ちゃんがささやいてくる。
「あたしが苦手だっていうの、わかったデスか?」
「な、なんとなく、ですけどね…」
「そもそも菜摘ちゃんが悪いんじゃない。大丈夫デスーって言ってメディカルチェックをさぼるからでしょう?」
「だからって16歳の乙女にやっていいこととダメなことくらいあるデスよ!あ…あたしの体をあんなにするなんて、信じられないデス!」
思い出したのか真っ赤になって菜摘ちゃんが叫ぶ。きょとん、としているはるひさんを置いておいて司令が話を進める。
「それで、休日だというのにデータをよこせと散々騒いで、こちらに差し出させたからには何かわかったのだろうな?」
「もちろんよ、明虎くん!みんなもこれを見てちょうだい!」
晴子さんへ、うなずいた牧野さんがモニターへ2枚の写真を写す。
「左は輝子さんの昨日の戦闘中のもの、右はこちらの世界の榊輝子のものです」
映し出されたのは杖を掲げる私の姿と、遠くへ去っていくもう一人の私。画像の中のもう一人の私は腰の白布が大きく映し出されている。
「晴子さん、これがどうかしたデスか?」
「ええ。ここを見てもらえる?それぞれ比べると、輝子ちゃんの杖は葵の紋、つまり越後松平家のものでしょう?だけど、こっちの彼女は違う。あれは…」
「榊原源氏車…ですよね」
「そういうこと」
晴子さんがウインクする。
「つまり、輝子ちゃん同士同じ高田城の力でも、力の出自が別物になっているの。それが二人の性質の違いになっているのかもしれない。こっちだと力の検知は2年前、だからそのタイミングで榊輝子は力を宿した結果、榊原系の力なのかもしれないわけ。…輝子ちゃんは、いつ力を手にしたの?」
「2年前、私が15歳の時です。幼馴染とキャンプに言ったら魔獣に襲われて、その時、たまたま、偶然に…」
「2年前、ね…」
「タイミングは同じとみるべきか。その、幼馴染というのは?」
「色部ひかり、です。それからもずっと一緒に過ごしていて…。そういえば、こちらにひかりは?」
司令達が目を合わせて、オペレーター2人がモニターを叩き始める。それで私は気づいた。
少なくとも、こちらの私があの姿なのは、こちらのひかりと何かあった結果なんじゃないか、と。
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