第4話 ここに来た理由は?

「魔獣反応を確認!第四地区南エリア!その数およそ20です!」

「該当地域に避難アラートを発令します!消防・警察への誘導依頼も同じく!」

「分かった。はるひ、菜摘くん、すぐに向かってくれ。それから…輝子くん、すまないが手を貸してもらえないだろうか?」

「「了解!」デス!」

「もちろんです。私の力でよければ、喜んで!」

オペレーターのお二人から情報が飛び交って、先に飛び出していった二人に続いて、私も司令に一つうなづいて外へ走り出した。この力で守れるものがあるなら、守らなきゃ。それはここが異なる世界であっても変わらない。


「行きますよ、忠輝さん!」

杖を構えると大きくジャンプして私は町を急ぐ。その先で、すでに交戦に入った二人が見えた。

「!榊か、増援痛み入る!本条、後れを取るわけにはいくまいぞ!」

「合点承知の助デス!」

すらりと伸びた青い刀身を構えたはるひさんの所作には一点の無駄もない。質素な白の法衣を纏い、動くたびに首に下げた数珠がわずかに揺れて。そして、カラスや白ザルの爪や牙を交わして舞うように切り裂いていく。

「龍ノ鏡月、参る」

そのささやきに応じて刀はぐっと伸びたように見えた。進み行くはるひさんの刀の切っ先が龍の牙となって、魔獣を食いちぎっていく。

「そこデス!投擲α式・ホトケノザ!」

そこへ一帯のカラスが音もなくはるひさんへ突進を仕掛けて、どこからともなくさせじと大鎌が貫いた。鎌の持ち主の菜摘ちゃんが、両腕・両腿についた石垣模様の大盾の後部ユニットのバーニヤを吹かせて着地する。髪色に負けないビビットピンクな西洋的な鎧とドレスを纏った彼女が、バーニヤを吹かせると同色の鎌を振りぬいた。

「一気に行くデスよ!裁断β式・セリナズナ!」

「龍神乱舞、参る」

続いて両手に刀を構えたはるひさんの刀身に炎が宿る。燃え上がる刀身を手に、まるで儀式でも行うように炎でからめとった魔獣を薙ぎ払った。


そして、私は―――

はるひさんも菜摘ちゃんもどちらかと言えば近接型の武装だから、きっと空中戦は分が悪いはず。だったら私の相手は空中。空にはいまだに六匹ほどカラスがいて、隙あらば仕掛けよう、という構えを見せている。

「こっちに来ないなら、私から行きますよ!ライトニング・バインド!」

まずはビルの屋上に鎖を刺して急上昇。気づいたカラスが狙いを変えて、私に向かってくるところを鎖を駆使して迎え撃つ。

「ようこそこちらへ。バインドクロス!」

私の目の前に縦横に鎖を組みなす。突進してきたカラスはそのまま網目にかかって切断されて。通称:ピタゴラ殺人網、向こうのはるひさんの名付けた得意なアレンジ魔法がうまく効いてくれた。続いてしり込みしたカラスの残りにスパークル・レインを放って、空中の魔獣は何の問題もなく片付いた。

そうして地上に戻ろうとすると、菜摘ちゃんの声が響く。


「これでラスト…デェス!」

大鎌を突き立てて、魔獣を消し飛ばした菜摘ちゃんがビルの上にいる私に向けてピースサインを放つ。それに遅れて本部から通信が入った。

『反応消失しました。メディカルチェックもありますので帰還してください』

「了解。本条、榊、引き上げるぞ」

「は、はい。あの…被害は・・被害の方はどうですか?大丈夫ですか?」

私は役に立てたのだろうか。少し不安になって、おずおずと尋ねるとオペレーションルームの面々の笑う声が聞こえてくる。

「あ、あの…司令…?」

『案ずるな、輝子くん。人的被害はなかったと報告が上がっている。もっとも町の修理は多少は要るだろうが、文句なしだ!』


「そうですか…。うん、よかったです…。」

『今回の戦闘では本当に輝子くんに助けられた。改めて礼を言わせてくれ』

「え、ええっ!?わ、私は何も…」

その言葉にほっとしていると、司令がとんでもない一言を放った。その司令を擁護するようにはるひさんが肩を叩いた。

「いや、榊が上空の魔を払ってくれたからこそ私たちも地上の相手に専念できたのだ。そこは胸を張ってもらわねばな」

「そうデスよ!あたしもはるひさんも空を飛ぶ奴の相手は苦手デスから…輝子さんのおかげデス!」

「あ・・・ありがとう・・・ございます」


いつもなら真っ先にはるひさんが敵陣に突っ込んでいって、菜摘ちゃんが空中やはるひさんの死角の敵を狙撃して。私はどちらかといえば二人のバックアップが基本だからこうやって戦線の一部を担うことは少なくて。だから、きっとこうやって褒められることにも慣れていないから。自分でもわかるくらい顔が熱くなりながらなんとかそれに応える。

こんな立ち回りもできるんだな、って考えながら。


「案外…こういうことなのかも」

「榊?引き上げるぞ」

「はい。はるひさん、私、わかったかもしれません。ここに来た理由がほんの少し、ですけど」

「理由…デスか?一体何なんデス?」

首をかしげた菜摘ちゃんに私はうなずく。

「多分…私にしかできない何かがこちらであるんです。何を守らなきゃいけないのか、助けなきゃいけないのか…それが何かは分からないんですけど…。まずはそれを見つけるために。そのために今私に守れるものを絶対に守って見せます。絶対の、絶対にです」


「…なるほどな。ならば私をそれに付き合うまでだ」

「あたしもデスよ!」

答えてくれる二人。その二人と私は本部へひとまず引き上げていった。



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