三傘と倉下と池本

 電車が来る少し前の時間。まだかな、と待っているこの時間が最後かと思うと胸に来るものがあった。

 私は今日、この高校を卒業した。校長先生から代表が受け取ったシーンでは、実感は湧かなかったけれど、担任からのメッセージと共に渡された卒業証書を見た時にじわじわと「卒業」の二文字が染み込んできた。

 今思えばなんの変哲もない三年間だったと思う。本当に、特におかしなことがあった訳では無い。それでも、輝いていたと思う。……楽しかった。

 感傷に浸って、少しの涙が浮かぶと、ゆうちゃんがハンカチを差し出す。


「ありがとう」

「いーえ! 」


 元気な、変わらない笑顔で、彼女は言う。


「しっかし、これで私たち卒業だってさ」

「なんで他人事なの」

「いやぁ、うん。なんとなくね、実感わかなくて」

「そう? 私はそうでも無いけど」


 涙を拭いながら、私は言った。


「三傘ちゃんは、そうでしょうねぇ〜 」


 悠ちゃんが渋い顔をしていると、ちょうどそこにかけるが来た。


「悪い! 遅くなった」

「大丈夫だよ」

「何してたのこんな日にさ」

「……女子が」


 ああ、翔モテるからなぁ。第二ボタン争奪戦でもあったのかな?


「って、三傘ちゃん! きょとんとするんじゃないよ! これあんたの彼氏よ!? 」


 悠ちゃんの言葉に少し、笑う。


「うん。でもね、なんとなく、大丈夫な気がするんだ」


 驚いた表情をして、深い息をつく悠ちゃん。


「ラブラブそうでなにより」


 けっ、そんな言葉が彼女から見えた。


「さすが璃子りこ。第二ボタンは死守しといたよ」


 そう言って、差し出されたのはボタンだった。


「はい、あげる」

「ありがとう」


 その様子に悠ちゃんはこういう。


「このまま結婚でもしちゃうんじゃないの?

 そしたら披露宴私も呼びなさいよ!? 」


 その言葉に私と翔は笑った。



「そういえば悠ちゃん、第一志望受かったんだってね! おめでとう」

「おめでとう」

「え、なんで」

「同じクラスの子が言ってた」

「なるほどねぇ、まぁ、ありがとう」

「あそこ行ったら英語喋れないとやってけないんじゃない? 」

「うるさいなぁ、倉下。わかってるわそんなん!! てか、三傘ちゃんはどうなのよ」

「結果はまだわかんないから、なんとも言えないけど、私立は受かってるところあるから浪人はしないかな」

「そっかそっか、試験自体は終わってるんでしょ? 」

「うん。……悠ちゃんおでかけしようね」

「もちろん!! 」

「あの、一応彼氏は? 」

「もちろん、デートしようね」

「うわあ、可愛い三傘ちゃん。倉下には勿体ないよ」

「なんだと! 」

 !! ………

 私たちは、高校生活最後の電車に乗り込んだ。

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池の海月に傘をさす 野坏三夜 @NoneOfMyLife007878

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