三傘と倉下

(今日は塾が無いから、ワーク三週目入れそうだな。あとは、英語の長文を二個くらいやって、あと……)


 あの日、池本さんと話して少しだけ詰め込んでいたものが解れた。かと言って気が抜ける訳じゃあないけれど。

 家に帰ってからの予定を立て、スマホに打ち込む。手持ち無沙汰になって、英単語でもやろうかと、リュックを開けようとしたら、手に持っていたスマホを落としてしまった。


(やば! 拾わなきゃ、ってリュックのチャック開けっぱだ! )


 ワタワタしていると、ねえ、と声をかけられた。


「は、はいっ! 」

「スマホ落としたよ。三傘さん」

「ありがとうございます、って」


(三傘さん? )


 単語帳を出さずに、チャックを閉めて、スマホを受け取り、前を見ると、そこには高一の時のクラスメートの倉下くらしたくんが居た。


「倉下くん」


 びっくりしたのか、思ったよりも高い声が出た。彼は、口に手を当ててふっと笑った。


「久しぶり、三傘」

「お久しぶりです……」


(倉下くんに、こんな所を見られたと思うと、恥ずかしい……)


 倉下くんはすらっとしている長身のイケメンで、すごくモテているイメージがある。

 意識していた時もあるせいか、顔が少し赤くなって、いたたまれなくなって、前髪を整えるフリして、視線を逸らす。


「元気だった? 」

「うん、元気だったよ」

「そっか」


 優しい声で倉下くんは言う。


(やばい隣に倉下くんいるの緊張でしかない)


 がちがちに固まっていると、倉下くんは口を開く。


「三傘はどこ行くか決まったの」

「え、いや、全然決まってないよ。一般で行こうと思ってるし」

「そうなんだ。……国公立志望? 」

「うん、そう。親に負担かけたくないしさ」

「えらいね」

「いやいや、全然」


 そして沈黙。


(気まずい……、どうしたらいいのこれ! 倉下くんの志望校とか聞いていいの!? いいのこれ!? )


 ぐるぐる考えて、結局聞いてみることにした。


「倉下くんは、決まったの? 」

「うん」

「えっ、そうなんだ。どこに」


そこまで言いかけてはっとした。


(って聞いちゃ嫌な人もいるんだ。出しゃばっちゃった、かな)


 遠くで、電車がもう少しでやってくるアナウンスが聞こえた。

 嫌な汗をかいて、少し恥ずかしくなる。下を向いていると、


「三傘になら教えてあげるよ」

「うぇ! 」


(私になら? )


「○○大学だよ」


 と倉下くん。


「凄いね」


(凄いけど、さっきの言葉……)


 視線を上げて、倉下くんを見つめると赤くなっているのが見えた。


「倉下くん? 」


 プシュー

 電車が来たみたいで、彼の髪の毛が風に煽られる。紅潮する頬に私の胸も高鳴る。


(それって期待してもいいやつ? )


「とりあえず、電車乗ろ? ちゃんと、話すから」


 彼は私の手を強引に引っ張った。そして、私たちは電車の中に入ってった。






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