池の海月に傘をさす
野坏三夜
三傘と池本
(今日の塾は3時間あるし、あと1時間は自習でもしようかな。世界史の復習でもしよう)
スマホで時間を確認すると、まだ電車は来ないようだった。ふと見上げた空には、突き刺すような寒さに答えるような白く輝く月と星々が見えた。
(もう12月か)
試験まではもう、少ししか残っていないこの時期。推薦組の受験が終わり、はやく始まった人達には既に合格を決めている人達だっている。一般組には少しの焦りも見え始めている。
(あーあ。勉強、しんどいな)
白い息を吐き出す。
すると、隣から声が聞こえた。
「あー、もう、……つらい! 」
意外にもおおきい声で、思わずそちらの方を向く。ぱちっと目が会う。
「あ」
「あ、……えと」
彼女は視線を泳がせたかと思うと、思い出したように口を開いた。
「って、
声の主は一年生の時に同じクラスだった、
「久しぶり」
「お久しぶりです」
そんなに仲が良かった訳では無いけれど、席が近かったりすると、話しかけてくれたりしてくれた、優しい人だ。
(あんまり変わっていなさそう)
少し微笑むと、池本さんはにっと笑った。
「三傘ちゃんは勉強捗ってる? 」
(あー……、それ聞かれるかぁ)
「……ま、まぁまぁかな、悪くないけど」
「よくもないって感じ? 」
うっ。痛い所を突かれる。
「そう、だね」
そう言って私は少しだけ下を向く。
「そっかー、……いいな」
(え? いいな? )
「な、なんでいいな? 」
不思議に思って私はすかさず聞く。訳が分からなくて、混乱する。
「だってさ、そしたら周りの変化と同じように成長してるってことじゃん」
(確かに? )
首を傾げると、池本さんは笑った。
「あははっ、三傘ちゃん正直だね」
(そんなに面白い? )
益々混乱して顔を顰めると、池本さんが落ち着いた様子で話し始めた。
「私の志望校レベル高くてさぁ、このままじゃ行けないよってめっちゃ言われたんだよね。……いや、分かってたけど」
(そう、なんだ)
少し悲しげに俯く池本さん。そんな彼女はいままで見たことがなかった。私は無言で聞き続ける。
「だからさあ、自分では今までにないくらい頑張って勉強してるのに上がらないの、点数。それが辛くて」
(だから)
白い息を長く吐いて、池本さんは上を向く。
「だから、三傘ちゃんが羨ましい」
少し泣きそうな彼女に思わず言葉をかける。
「きっと、伸びるよ。だから、大丈夫、だよ。……根拠は無いけど、でも、きっと、上手くいくよ。踏ん張ろう? 」
(……無責任だったかな、? )
黙り込む池本さんに不安になる。そしたら、ふっと笑って彼女は言った。
「そうだね、うん。踏ん張るわ」
穏やかな笑みだった。すると、
「間もなく三番線に電車が参ります。黄色い線の……」
アナウンスが響き、電車が到着するようだった。
「電車来るみたいだね」
「うん」
「やっと暖かいとこ行ける〜」
その言葉に私は微笑む。
「そんでさ、電車の中で色々話そ? 久しぶりだし、ね? 」
「! そうだね」
プシュー
電車が到着して、私たちはそそくさと暖かい空気の中に入り込んだ。
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