スケール7

7.1 75〜77ページ目 お正月

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 十二月三十一日から一月三日


 LIFE:


 大晦日。

 もうすぐ年が明ける。


 私の家のお正月は静かだと思う。


 おじいちゃんやおばあちゃんはもうずいぶん前に亡くなっていて、里帰りすることはなく、お節料理は市販のものを買うので、特別な準備をすることもない。


 お父さんは年末年始も忙しいことが多いから、お母さんができるだけ楽をできるようにするのが、我が家のお正月なのかもしれない。


 お餅が大好きな私は、毎日のように、きなこやチーズ、砂糖醤油をつけてお餅を食べるのが定番のお正月の過ごし方で、基本的にはのんびりするだけで正月三が日は終わる。


 初詣は毎年近くの神社に、私が起きてから行くのが恒例になっていた。


 私は数年前から二年参りに憧れていて、夜の神社で除夜の鐘の音を聞きながら、甘酒を飲みたかった。


 クリスマスの後、私はリリの散歩以外はほとんど家から出ていない。プレミアチケットの副作用なのか、寝ている間だけじゃなく起きている間も身体中の関節が痛くて、リリとの散歩さえもかなりキツくなってしまっていた。


 そして毎晩のように、残りのプレミアチケットを宝箱から出してみては、いつ使うべきかを考えていた。


 世の中には、病気を直す薬がなくて薬がなくてずっと苦しんでいる人もいる。なのに一瞬の楽しみのために、体をボロボロにしてまでプレミアチケットを使うべきなのか、正直なところ、分からなくなっていた。


 もしかしたら、こんな薬なんて使わなくても、幸せに過ごせるんじゃないかな?


 ☆   ☆   ☆


 悩みに悩んで迎えた十二月三十一日。


 夜八時に目覚めた。一階に下りていくと、みんなは思い思いの時間をリビングで過ごしていた。


 空はこんな日にまで、難しそうな英語の本を読んで勉強している。

 お母さんとお姉ちゃんは、リビングの奥のコタツコーナーでコロコロしながらテレビを見つつ、リリと遊んでいる。

 お父さんは、家に帰ってきてからもまだパソコンに向かって仕事をしている。


 みんなの手元には、かれたみかんの皮が転がっていて、私が起きてくるのを待っている間、お腹がペコペコだったのが目に見えてわかった。


 お姉ちゃんは私が起きてきたことに気がつくと、キッチンに行って、すでに準備してあった夜ご飯を温め出した。


 リビングのテーブルにみんなが自然と集まってきて、テーブルの上を片付けて、飲み物やお皿を用意し、あっという間にテーブルの上にご馳走が並んだ。


 夜ご飯の後、お腹がいっぱいだけれど、私は続けて年越し蕎麦も食べた。そして、十分ほど、お母さんとお姉ちゃんと一緒に年末番組を見て笑った。


 夜九時、お風呂に入った。


 みんなにおやすみを言って、部屋に戻った。


 私はプレミアチケットを宝箱にしまうと、あたたかな布団に潜り込んで、クリスマスにもらった万年筆を使ってノートに文章を書いていたら、痛みの世界に落ちていった。


 ☆   ☆   ☆


 翌日、元旦の夜七時半、目が覚めた。


 目覚めた場所は、車の中だった。

 私が起きる時間に合わせて、近所の神社に連れてきてくれていた。


 あけましておめでとう!


 家族みんなで初詣。

 甘酒を飲んで、おみくじを引いたら全員大吉で、こんなことってあるんだって、ちょっと笑えた。楽しかった。

 

 車の中で、お節料理やお餅を食べる。


 家に帰るとお風呂に入って、すぐに寝た。


 ☆   ☆   ☆


 一月二日


 夜、八時過ぎに目覚めた。

 

 ぼーっとしながら、お姉ちゃんとお餅を食べた。


 ☆   ☆   ☆


 一月三日


 私が起きて、夜ご飯を食べ終わると、お姉ちゃんが家を出ていった。

 お姉ちゃんの新居のアパートは歩いて五分ほどの近所にあるから、またすぐに会えるけど、寂しくなるな。




 Will and testament:

 


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 ノートの片隅に、小さな字で、いくつかの計算式が乱雑に書かれていた。


 16×30=480

 1.5×30=45

 480÷45=10.666.....


 36×4=144


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