第59話 オークション 下
刀を求めてオークションに参加したものの、出品されているのは呪いが掛かった物しか無かった。
「うーん、悩むなぁ。刀入手の手掛かりとして買うのもアリだしなぁ」
「いっその事、金額で決めちゃえば? いくらまでは出すとかさ」
うん。それは良いかもしれないぞ?
「それじゃあ、金貨十枚までは出す事にしてオークションを楽しむ事にしようか?」
「「賛成!」」
なにせ、初めてのオークションなんだから楽しまないと損だよね?
雑談を交わしている内に思ったよりも時間が経っていたらしく、会場の大扉が開かれ始めた。
「ハルト、始まるみたいだよ」
「うん、慌てなくても大丈夫だよ。席は決まっているみたいだし」
扉の前で再度受付を行い、中へと入る。僕達の席は丁度中央部にありステージもよく見えるとても良い席だった。
流石はファニーさんだ。良い仕事するね!
「ハルトさん、さっき渡された物はなんですか?」
「ああ、これ? 僕も良く分かって無いんだよね」
「でもこれ、オークションに使うやつじゃ無いの? ハルト、大丈夫?」
目録に何か説明が無いかとペラペラとめくっていると、隣の席から話しかけられた。
「ハルト君じゃないか! こんばんは」
「あれ? ボックさん。ご無沙汰しています」
以前もお世話になった商会のボックさんだった。相方のタリーさんとお店を開いており、そのお店の名前が、ボックタリー商会と言う。
ちなみにヤバイお店ではなく、普通の品物を扱う、とても良心的なお店だよ?
「オークションは初めて参加するのかい?」
「そうなんですよ。だから良く分からなくて……」
「ははは、せっかく隣の席になったんだ。良かったらお手伝いしようか?」
「ありがとうございます! 助かります」
突然の心強い味方を得る事が出来た。これでオークションは万全の体制で望む事ができる。
「何か欲しい物はあるのかい?」
「えーと、これですね」
周りに聞かれない様にボックさんに目録を見せる。
「これかい? 随分と変わった物が欲しいんだね?」
「ええ、色々と訳ありなんですよ」
「だが、これならなんとかなるだろう。私に任せておきたまえ」
おお、流石は大きな商会を取り仕切る商人だ。完全にお任せモードでオークションを楽しむ事ができそうだ。
しばらく待っていると、ステージにスーツを着た男性が現れた。
その男性はなんと、花柄模様のスーツを着こなしている。
あんな服どこで売ってるんだよ! そのお店に少し興味が湧いて来たわ!
「皆さま、お待たせいたしました! 第百八十六回オークションを開催致します!」
会場からは割れんばかりの盛大な拍手が巻き起こっていた。
「世界中からありとあらゆる物、さては珍品から世界に一つしか存在しない貴重な物まで取り揃えております。心ゆくまでオークションをお楽しみ下さい!」
再びの大拍手に加え、スタンディングオベーションをしている者もいた。
「それでは最初の品物を紹介します。まずは……」
オークションは何事もなく進行して行ってボックさんはいくつもの品物を落札していた。
「結構な量を買うんですね」
「オークションには掘り出し物が多いからね。これをさらに私のお店で売れば大儲けだよ」
何度も言うが、ボックさんのお店は普通のお店だ。何であの名前にしたんだろうね?
「おっ、ハルト君ご所望の品物が出てくるみたいだ」
ステージを見上げると、アシスタントの人がかキャスターの付いたワゴンを押しながら出て来ている。
ワゴンの上にはガラスのケースに納められた刀。
ケース越しでも分かる位に禍々しい感じがする。
「さて、続いての商品はこちら。ある鍛治士が作った刀と呼ばれる片刃の剣だ。何とこれには、ある呪いが掛けられているのではないかと噂されている。しかしそれはあくまでも噂であり、それを証明するのはこれを手に入れた貴方だ! さぁ、開始金額は金貨一枚からだ。それでは……スタート!」
司会者が始まりを告げるが、会場は静まったまま、誰一人として声を上げる上げる者は居ない。
「ハルト君、その札を上げるんだよ」
ボックさんに言われるまで全く気づかなかったが、僕の最大の目的はあの刀の入手だったよ。
「えーと、これですか?」
「そうそう、それを上げれば良いからね」
1と書かれている手札を高々と上げた。
「おーっと、金貨一枚だ! 他には居ないか? 居なかったら落札ですよ? 誰も居ませんか?……では締め切りです! 金貨一枚で落札!」
司会者がハンマーを叩く。
「良かったじゃないかハルト君。最低金額で落札出来るなんて滅多にないからね」
「はぁ……意気込んでいたのに、拍子抜けしちゃいましたよ」
手に入れらたのは嬉しいけど、もう少し誰かと競り合うかと思っていたのに、刀ってこの世界では人気が無い武器なのかな?
「ボックさん。受け取りはどうやってするんです?」
「えー、ああ来た来た。この落札証明書を持って行ってお金を払えば良いからね。オークションが終わってからでないといけないけどな」
アシスタントのお姉さんが渡してくれた証明書をバッグへ仕舞い込む。
目的の刀をあっさりと手に入れた事で安心してオークションを楽しむ事ができる。
僕が出品した天竜の鱗は一番最後になるみたいで、まだまだ時間がかかりそうだ。
「ハルト、他には何も落札しないの?」
「そうだね、これといって欲しい物は無いかな」
「えー、ボクにご褒美は?」
シャルのおねだり攻撃が始まった。
「買ってもいいけどさ、お金足りないよ」
「ぶー、ハルトのケチ!」
「それに、シャルだけに買うと不公平だろ? 買うなら三人分買わないといけないし、今回は無しだよ」
天竜の鱗がどのくらいの金額で落札されるか分からないうちは無駄にお金を使う事は出来ない。
そもそも、師匠にお金を取られてお金なんてほとんど残ってないからね。
レッドドラゴン退治の報酬は後々家を買うための貯金。それを使う事は出来ない。
何かを買うでもないオークションははっきり言って退屈なの一言だった。シャルやレスリーは宝石類が出て来るたびにキャーキャー騒いでいたけど、あんなのただの綺麗な石だろ? 何処が良いんだろう。
「あっ! ハルトさんそろそろ最後みたいですよ」
「やっとか……長かった」
はしゃぎまくっていた二人に付き合っていて少しだけ疲れていた僕は最後の品物が出てきてホッとしていた。
ステージ上では派手なスーツを着た司会者が最後の盛り上げを演出している。
「さて、本日最後の品物はなんと! 幻と言われている天竜の鱗! 何処に生息しているのかすら分かっていない伝説の生物。その強度はどんな鉱石よりも硬く、しなやかさも兼ね備え、武器の素材としては最高峰の天竜の鱗です! どうぞご覧下さい!」
派手な音楽と共にステージへ運ばれてくるワゴンの上に鎮座する鱗。
真っ白なその鱗は光を浴びてその輝きを増している様に見える。
「それでは、始めます! 開始金額は千枚からです。それでは……スタート!」
司会者の声が掛かるとそこら中から札が上がる。
「現在の金額は金貨八千枚だ! 他には居ないか?」
かなりの高額になった事でリタイアする人が続出する中、最後まで残ったのは二人。
二人だけになった後も競り合いは続き、最終的に金貨一万五千枚まで跳ね上がり、オークションは終了した。
たった一枚の鱗がこんな金額になるなんてな。後七十九枚残ってるんだけど……
結果としては僕の大儲けでオークションは終了、ボックさんに連れられて買取と受け取りへ向かう。
「いやー、しかし凄かったね、天竜の鱗は。あんな凄い物を一度は扱ってみたいものだよ」
ふむ、やっぱり商人の性みたい物なんだろうか?
「ボックさん。これを差し上げますよ」
自分のマジックバッグからボックさんのバッグへ天竜の鱗を直接入れる。
「これは……」
「内緒ですよ? 今回手伝ってもらったお礼です」
「本当に良いのかい?」
「入手経路を誰にも言わない事が条件ですけどね」
「分かった! 誰にも言わないよ。ありがとう」
ホクホク顔のボックさんとは一旦別れる。
オークションのお手伝い賃としては少し高額過ぎただろうか?
ステージ横の扉をくぐり狭い通路を抜けて受付まで進み、二枚の書類を渡す。
「左手の三番の部屋へどうぞ」
言われるがまま、奥の通路を進み、三と書かれた扉を開ける。
「どうぞお入り下さい」
「失礼します」
部屋の中は簡易の応接室で、机とソファが設置されていた。
「まずは落札品から手続きを開始します。こちらが落札された品物になります。どうぞご確認下さい」
机の上に置いてある刀。
遠目で見るのとは全く違い、禍々しいオーラをひしひしと感じる。
鞘に納められているというのに立ち昇る黒いもやが目視で確認出来るほどだ。
もっと良く調べてみようと手を伸ばしてみるとやんわりと止められた。
「直接手に取るのはお勧めできませんな」
「えっ、何故ですか?」
「説明文にも書いてある通りその刀にはある呪いが掛けられているという鑑定結果がでています。その刀に触れた者は見境なく人を襲う。なるべくなら触らない方が宜しいかと……」
呪いねぇ。
どんな風になるのか分からないまま、調べるのは危険か。
助言通りにバッグの中へと仕舞い込み、金貨を一枚支払う。
「お聞き届けていただき感謝します。それでは続いてですが、天竜の鱗の方へ参りましょうか。落札金額は金額一万五千枚です。ここからオークションへの出品やその他経費と手数料として三千枚を私達にお支払い頂きますので、ハルト様へは一万二千枚のお支払いになりますが宜しいでしょうか?」
「はい、構いません」
一万二千枚だから日本円に直すと一億二千万円か。鱗一枚でその値段になるならもう何枚か出しておけば良かったかな?
支払いはライセンスに一万枚、現金で二千枚貰う事にした。これで懐も大分暖かくなったな。
手続き無事に終え、会場を後にした。
「大儲けだったね!」
「うん、これだけあればしばらくはのんびりしても良さそうだね」
「ハルトさん、それだけ儲けたんだから私の借金は無しにして貰えますよね?」
「レスリー……そんな訳ないだろう? レスリーは今回、何もしていないんだし、そもそも普段の生活費が掛かっているから借金は増えているからね?」
「えっ? 生活費も取るんですか?」
「当たり前だ!」
「大金持ちの癖に! ハルトさんはケチンボです! 私の面倒を見てくれても良いじゃ無いですか!」
「甘えるな! ケチって言ったから金貨十枚を借金に追加だな」
「何でですかー!」
レスリーの借金が増えた所で背後から声をかけて掛けて来る人がいた。
「あの……貴方があの刀を手に入れたと聞きました。宜しければお譲り頂けませんか?」
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