第57話 別離
全員で相談の結果、すぐに三人は元の世界へ帰る事になった。
早く帰りたいという気持ちが大きいのもあるが、最大の理由はズルズルと引き伸ばすと別れが辛くなるからと言うものだ。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「はい、師匠。お気をつけて」
「なーに、時間にしたら一瞬だよ」
これで最後なんだから、三人にお別れを言わないといけない。
「康太!」
「ああ……」
「康太がそんなんじゃ、帰してやる訳にはいかないからな? 強引に拘束してこっちに残すぞ?」
「それはダメだ!」
「だったらそんな顔するなよ」
「春人はあっさりしたもんだよなぁ」
「だってさ、絶対に会えない訳でも無いだろう?」
「ん?」
「師匠が出来たんだから、僕にだって出来るさ。本当に必要なら世界だって時間だって何だって超えてやるさ」
「そうか……そうだな!」
「元気でな……」
「お前もな……」
がっちりと握手を交わす。
「康太? あのさ、力入れ過ぎじゃない? 痛ぇよ!」
「お前の力はそんな物か?」
「うるさいわ! 何で、強者感出してんだよ! さっさと離せ。筋肉ダルマ!」
「誰が筋肉ダルマだ! うりゃうりゃ!」
僕達二人が全力握手をしている傍らでは女子メンバーが泣きながらお別れをしていた。
「ぶうがー! ざみじいよー!」
「はいはい、分かったから泣かないの」
「本当、あんた達姉妹はいつでも変わらないのね」
「蒼羅さんこそ、いつも通りですけど?」
「これでも我慢しているのよ?」
そう呟く蒼羅の目からポロリと涙が落ちる。
「泣かないつもりだったのに……」
その後は我慢しきれずに号泣する蒼羅。ひとしきり泣いた後、みんなで抱き合っていた。
「紗羅、蒼羅、二人共元気でな」
「そっちこそ、元気でね」
「うん。じゃあ、またね!」
「また?」
「康太にも言ったんだけど、またいつかどこかで会えるさ。だから、またね」
「うん……」
「そうね、またね!」
紗羅と蒼羅。ふたりとも握手を交わし、お別れの儀式は終わる。
「師匠、お願いします」
「おう、じゃあ行くぞ!」
師匠の周りに三人が集まる。一瞬で四人が消えたかと思うと、そこに師匠が一人で立っていた。
「終わったぞ」
「は、早いですね……」
「あん? こんなもんだろ?」
「みんなは無事に?」
「ああ、送り届けたぞ?」
これで、もうしばらくは会えないんだ。その現実を理解すると、途端に寂しさが湧き上がって来た。
「春人……お前が自分で決めた事だろうが。後悔しても始まらんぞ?」
「分かってはいるんですけど……」
「だぁー! ジメジメするのは性に合わん。こんな時は体を動かすに限る。春人、修行だ!」
「今からですか!?」
「軽く手合わせをするだけだ。来い!」
「押忍! お願いしまぶっ!」
試合開始前の一礼をしていたら下顎に拳を入れられた。
「油断大敵だぞ!」
「ちょっ、師匠? 軽くって……」
「わはははは! 春人よ、弱くなったんじゃないか?」
その後は師匠の攻撃を存分に受けた。攻撃が速すぎるっての! 避けれねぇよ!
十分後、僕が師匠から受けたぼうこ……修行のせいで体中の至る所の骨を折られて、身動きが出来なくなってしまった。
「春人、大丈夫?」
「いくら何でもこれは……」
「足、足が変な方向に曲がってますって!」
「あん? 人間には二百を超える骨があるんだ。百本くらい折れたって大丈夫だろ?」
師匠……一本だけでも結構な大事ですよ?
治癒!
自分で魔法を使って治す。
「おお? 何だそんな事まで出来る様になったのか? これなら手加減なんて必要無かったな」
「まぁ。いつもよりは優しかったですよね?」
「久しぶりだからな」
「あれで!?」
「普段はどんな事をしているのよ……」
「ハルトの物理耐性ってこれのせいなんじゃ……」
ふむ? 風香から受ける突然の奇行で怪我をする事もあるけど、師匠との修行の方が酷い怪我をする事が多いからな。
「まぁ、こんなのいつもの事だよ」
その日は修行を久しぶりに行ったお陰で、寂しさも紛れて穏やかな気持ちで就寝する事になった。
ちなみに師匠達は何処かの宿に泊まるらしく僕からお金を巻き上げて去っていった。
僕のお金……無くなったよ、トホホ。
翌朝、伸び伸びになったレッドドラゴンの査定結果を聞きにギルドまで足を運んだ。
誰かのせいでお金が全く無いからね!
ギルド内に足を踏み入れた瞬間に中にいた人達全員が僕達を注視している。
何かしたかな?
「やっと来たか……」
「遅かったのね」
「それより、どう言う事よ!」
ウクシス大森林から帰還して来た白の衝撃が僕達を睨みつけている。
「あ、無事に着いたみたいですね。良かった」
「良かった、じゃないわよ!」
何をそんなに怒っているんだろう?
「君は一体何を考えているんだ?」
「何の事です?」
「レッドドラゴン退治よ!」
「はい?」
「何故、合同でやった事になっている? お情けのつもりなのか?」
ああ、やっと分かったよ。それの事か。
「えーと、合同で退治しましたよね?」
「君は……」
「僕の記憶だと最初に白の衝撃の皆さんがレッドドラゴンと戦っていて、その後遅れて僕達が戦闘に参加して、少数の軽い怪我人は出たものの、無事討伐したと思いますけど?」
「うむむ……」
「どこか訂正する箇所はありますか?」
僕の言葉にドリスが叫ぶ。
「トドメを刺したのは貴方でしょう!」
「そうなんですよ! 美味しい所だけ貰った感じで申し訳無いです」
「私は貴方に命を助けられたのよ? 報奨金は貴方達の物だわ!」
ジェナがそう言って僕を諭そうとする。
「合同で依頼をするんだから助け合うのは当然ですよね?」
「貴方ね……」
更に言葉を続けるジェナに近寄り耳打ちをする。
「お願いですから話を合わせて下さい。理由は後で説明しますから」
その言葉を三人が共有した後は渋々受け入れて貰えた。
報奨金の金貨三千枚とレッドドラゴンの買取金額を全て合わせると全部で五千枚にもなる。
それを二つのパーティーで分け合い、僕達の取り分は二千五百枚。
家を建てるにはもう少しだけ必要になるが、残りはオークションの収入でなんとかなりそうだ。
ホクホク顔で家に帰り報告しようとギルドを出た所で、出待ちをしていた白の衝撃に捕まってしまう。
「さてと、説明をしてもらおうか」
「分かりましたよ……何処か静かな場所で話しましょう」
四人で連れ立って近くの喫茶店へと足を運ぶ。
席に案内されるまで、三人とも無言であった。
「それで理由とは?」
「僕のパーティーメンバー全員が納得しているから、じゃあダメですかね?」
「その理由なら私達は報奨金の受け取りを辞退する」
「仕方ないですね。僕達は目立ちたくないんですよ」
「どう言う事?」
「僕のギルドランクはEランクです。その僕が率いるパーティーメンバーもほとんどが同じEランクでした」
「それは分かっている」
「その僕達がレッドドラゴンを単独で退治したらどうなると思います?」
途端に考え込む三人。
「ギルドは君たちを期待の新人として全力でサポートしてくれるだろうな」
「そうよね! 将来有望なパーティーとして色々と便宜を図ってくれるかな?」
「僕達はそれを望んでいないんですよ」
「何故だ?」
「メリットとしてギルドのサポートが受けられるかも知れませんが、それを鑑みてもデメリットの方が大きいでしょう? 例えば、他のパーティーから陰湿な嫌がらせを受けるとか……」
黙り込む白の衝撃。思い当たる事がある様だな。
「僕のパーティーメンバーはご存知の通り女性が多いです。いや、多いと言うよりも今は女性しかいないと言った方が良い。全員が揃っている時なら対処できる事も、一人になった時が危ない。人間の嫉妬と言うものは恐ろしいですからね」
「それじゃあ、メンバーの安全の為に私達をスケープゴートにしようと言うのかい?」
スチュアートが不満顔で睨みつけて来る。ジェナやドリスも同意見の様だ。
「悪く取ればそうなりますけどね。良く取れば未来への投資かな?」
「意味がわからないわ」
「合同で依頼をこなしたのなら、僕達があまり目立たなくなります。白の衝撃の皆さんとも良好な関係を築いている。周りのギルド員達はそういう風に認識する筈です」
苦虫を噛み潰した様な顔のスチュアート。
「僕達はまだまだこれからの弱小パーティーなんですよ。ここで変に目立って面倒ごとに巻き込まれたくないだけなんです。今回の件はもうすでに手遅れな程目立つでしょう?」
「確かにな……」
「僕達にはこれがベストな選択なんですよ。だから今回はこれで折れてくれませんか?」
「だけど、助けられた上にお金まで貰うなんて、私達にもプライドって物があるのよ?」
ふむ、これでもダメか。
「それじゃあ、依頼料として受け取ってもらえませんか?」
「依頼?」
「ええ、僕達と白の衝撃は仲のいいパーティーだと発言しても良いと言う権利を下さい」
「それは……」
「仲悪かったでしたっけ?」
「それは無いが……」
「真実を言うだけですよ。別に悪い事に使う訳じゃありませんし。ただ一度、一緒に仕事をしたと言うだけです」
「それなら……まぁ」
「決まりですね!」
「なんか、言いくるめられたみたいね……」
余り納得はして貰えていないみたいだけどこれで商談成立だな。
「今回はそれで良いけど、私は命を救って貰った恩は忘れていないわ。かならず返すからね!」
ジェナが僕にそう宣言して、白の衝撃の面々は去っていった。
まったく、律儀にも程があるよね。
後、やり残した事は……レノか。
正直、あまり気は進まないがメンバー強化の為に武器防具だけでも揃えておきたい。
諦めてレノに会いにいきますかね。
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