第53話 帰還
ウクシス大森林にある山の中腹にある洞窟で無事レッドドラゴンを倒した僕達は戦闘を終えて、小休止を行っていた。
「しかし、君は本当E石ランクなのかい? ドラゴンをいとも簡単に退治するなんて……」
「スチュアート、ハルトはねギルドの依頼をほとんどやった事が無いだけなのよ」
そうだっけ?
確か、レッドベアーとナゲキダケと……あれ?
「ハルト、そうでしょ?」
「思いついたのは二つだけだった……」
「まったく……実際にはメンバーが受けた仕事を手伝っているからもう少しあると思うけど、二桁はいってないわよね?」
「うん、色々あり過ぎたからね」
なんかイベントが多すぎるんだよなー
「だから、ランクが上がらないのよ。私たちのリーダーなんだからもうちょっとしっかりしてよね!」
リーダーか……
「そう言えば、君達のパーティー名はなんて名前なんだい?」
「あー、特に決めて無いです」
「それはいけないな。パーティー名は上に上がっていくには必要不可欠だよ。名前があると周りに認識され易くなるからね」
パーティー名ねぇ。考えた事も無かったな。
これを機に何かを考えてみますかね。
小休止も終わり、ドラゴンも無事に回収を終えて、さぁ帰ろうとなった時に問題が発生した。
僕達は転移を使用すればすぐに帝都まで帰れる。だが白の衝撃がそうさせてくれない。
「この森は危険が多い。是非同行させて貰いたい。せめてもの恩返しだよ」
「僕らは大丈夫ですよ?」
「そうはいかないよ。せめて森の入り口まで護衛させて貰うぞ!」
「はい……じゃあお願いします……」
くそう、面倒くさいなぁ。
これだから熱血漢は嫌なんだよ。話を聞きやしないんだから。
「心配はいらんさ。森の入り口までなら一日も掛からないからな」
「え? ここまでは歩いても七日は掛かりますよね?」
「ふふふ、まぁ黙って着いてきたまえ!」
自信満々のスチュアートの後を皆で着いて行く。山裾までは約二時間程の時間を掛けて到着した。
道中に出た魔物はやけに張り切った白の衝撃が全部引き受けてくれた。
少しは戦わないとみんなの経験にならないから僕達も戦いたいんだけどなぁ。
スチュアートに案内された場所にはミステリーサークルの様な石柱が立ち並ぶ場所。
「ここは、先人達が多大な苦労をして作成した魔法陣が設置してある。ここで帰還石を使用すれば森の入り口近くにあるもう一つの魔法陣へと一気に飛べるという訳だ」
「へぇ、ダンジョンから脱出する帰還石と同じ物ですか?」
「そうだ、原理も全く同じだよ。ダンジョンと違い、場所を指定する事がかなり難しかったと言う話を聞いているがね」
なるほどね。ダンジョンはただ入り口に戻ればそれでいいが、外だとどこに飛ばされるか分からないんだな。
「それで、帰還石は一人一つ必要なんですか?」
「いや、パーティー単位で一つだけだ」
「誰か帰還石って持ってる?」
僕のパーティーメンバーからは返事が無かった。
「誰も待っていないのか? 仕方ない、ウチから一つ提供しよう」
「ありがとうございます」
「良いんだ、気にするな」
提供して貰った帰還石を握りしめ、パーティー全員が魔法陣に乗っている事を確認してから帰還石を使用する。
「あれ? 帰還石ってどうやって使うの?」
「……ハルト私がやるから貸して」
「よろしく、レヴィ!」
ああ、またレヴィの蔑んだ視線を受けてしまった。この顔も久しぶりだね。
レヴィが石を握り何やらブツブツと唱えている。その右手に持った石から赤い光が漏れ始める。
その光が強く光ったかと思うと、レヴィの右手の石が粉々に砕けた。
一瞬の浮遊感の後、景色が深い森の中から開けた場所へと移り変わる。
「ここは……」
「森の入り口だね」
どうやら全員無事に転移出来たみたいだ。
僕たちが転移した後、しばらく経ってから白の衝撃も転移して来た。
「どうだい? 便利だろう?」
「ええ、でもこんな魔法陣の話なんて聞いた事が無いですね」
「うん? ギルドで聞いていないのかい? 主要なダンジョンの近くには必ず設置してあるんだが……」
思わずレヴィを振り返って見る。
その途端にさっと顔を晒すレヴィ。
「レヴィ、知らなかったの?」
「初めて聞いた……」
「ギルドに申請をしておけば誰でも使えるから帰ったら申請しておくといい」
「はい! そうします」
レヴィでも知らない事があるなんてな。ちょっとだけビックリだね。
「さて、我々はここから馬車で帰るよ。そっちはどうするんだい?」
「僕たちもすぐに帰ります。帝都で会いましょう」
「そうだな、報告もあるしな。後で会うとしよう。それじゃあな」
白の衝撃は三人とも僕たちに手を振りながら馬車へと乗り込み出発して行く。
「しかし、疲れたね」
「一日に二匹もドラゴンと戦う事になるなんて思わなかったわ」
「そうそう、春人の勘違いの癖もいい加減にして欲しいものよねー」
むぅ、事実だけになにも言い返せないや。
「ふふふ、ハルト。そんな顔をしないの。どっちも倒せたんだからいいじゃない。さぁ帰りましょう?」
「うん。そうだね!」
約一日半のドラゴン退治は何とか終わった。依頼達成で資金も潤沢になる。
これで家も建てる事が出来たら最高だな。
しかし、体中がミシミシいってるよ。なんだかんだで疲れているんだろうな。
熱いお風呂が恋しい。
「よし! みんな帰るよ!」
転移!
ジニア帝国首都ディルティア、その近郊にある東の森へと僕らは転移して来た。
転移できる事をあまり大っぴらにする事も出来ないので誰にも見つからない場所を選んでいる。
「やっと帰って来れたわね」
「みんな、疲れているだろうけど、後少しだから頑張って」
ここからは帝都まで歩いても一時間と掛からない。だが、疲れた体には少々堪える。
しかし、女子四人はどこからそんな元気が出てくるのか、キャイキャイと騒ぎながら僕と康太の後をついて来る。
「ねぇねぇレヴィ。上手いことやったわよね」
「うんうん、本当よね」
「確か、新しい服と指輪だったっけ?」
「ふふん、首飾りもよ。良いでしょう?」
ああ、そういえばそんな約束をさせられたな。お金足りるかな?
「大変だな春人」
「そうだね。約束したんだからしょうがないけどね」
それにしてもレヴィだけで済むんだろうか? レヴィに何かを買ってあげるなら風香も欲しがるだろうし、シャルにも何かあげないと不公平だよなぁ。
三人にプレゼントをあげるとなると、金貨二十枚は覚悟しておかないといけないな。
そんなこんなで帝都まで到着し、二手に別れる事になった。
ギルドへの報告の為、リーダー兼雑用係である僕に風香とレヴィが同行してくれる。
康太達は本当に疲れているらしく、宿に直行するみたいだ。
「二、三日は休みにするからゆっくり休んで良いよ」
僕のその言葉にみんな大喜びだ。
まぁ今回の依頼では久しぶりに大きな金額を稼げるんだから休みくらいはあげないと不満が溜まりそうだしな。
僕も少しのんびりしますかね。
―――――――――――――――――――――
その頃、日本にある朝霧邸では当主である朝霧巌が娘である風香と萃香の行方不明事件の事のあらましを執事の秋山から聞いていた。
「それで?」
「今、説明した通りです」
「ふーむ、中々面白い事になってるな」
ソファーに身を預け、グラスに注がれた琥珀色の液体をゴクリと飲む。
「まずは最初は春人が居なくなったと、その時にお前は春人をトラックで轢き殺そうとしたみたいだが、どういうことだ?」
「私はお嬢様の命令に従っただけです」
「ふむ、では契約違反では無いと言い張るつもりなんだな?」
「その通りです」
顔を伏せ、全く悪びれない秋山の背後で一人の女性が声を上げる。
「私がもっと強く止めるべきでした。申し訳ありません」
秋山の孫娘であり、風香専属メイドの美月である。
「良いのよ、美月。風香達が居なくなった事は特に心配していないから」
巌の向かい側で優雅に紅茶を飲んでいる巌の妻、アイリが美月を慰めている。
「秋山、風香の命令で仕方なくトラックを運転したと言ったが、良い機会だからと春人を亡き者にしようとしていないか?」
「とんでもありません」
「だが、お前は春人を風香と結婚させる事に強硬に反対していたようだが?」
「あの男ではお嬢様を幸せにはできません!」
「誰なら良いと言うんだ?」
「不肖、この秋山にお任せくだされば必ず幸せにして見せます」
「歳を考えろよ、ジジイ」
「恋愛に年齢は関係ありませんが?」
「まったく、もういい。お前は俺が良いと言うまで部屋で謹慎していろ」
「はっ!」
巌に謹慎を言い渡された秋山は大人しく部屋を出て行った。
「しょうがない奴だな。老いらくの恋なんぞ悲劇しか生まんだろうに……」
「そんな良い物ではありませんよ。あれはただの身分違いの懸想ですよ」
「その前はお前だったしな」
「ただ若い女が好きなだけですね。ろくでもないジジイです!」
アイリは思い出したかの様に怒りをあらわにする。
「だが、解き放つ訳にはいかないだろう。別の意味で危険人物だからな」
「元暗殺者でしたね?」
「ああ、あっちの世界でな。捕らえたものの、解き放つ事も出来んからな。無理矢理誓約をさせて能力を使えない様にして仕方なく従者にしたんだが……」
「従っている様には見えませんね」
「まぁ、完全に逆らう事は出来んから何とでもなるが、それよりも問題なのは風香達だな」
「どうなさるの?」
「迎えに行くしかないだろうな」
「そう、でも向こうに行けるのは確か……」
「使えるのは三回までだな」
「私も同行しますよ?」
「ああ、久方ぶりの里帰りだな」
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