第54話 報告

 帝都ディルティアにあるギルド本部。


 ジニア帝国にある全ての支部を従えるギルドの総本山である。


 毎日の様に大勢の人間が訪れ、依頼を受注して達成を報告し、お金を稼ぐ。


 この世界には無くてはならない存在であるこのギルドの一階に僕達はやって来た。


 その理由は、レッドドラゴン退治の達成報告の為。


「はい、次の方どうぞー」

「こんにちは、ファニーさん」

「あら? ハルト君じゃない。今日はどうしたの?」

「はい、依頼の達成報告です」

「えーと、ちょっと待ってね。ハルト君の受注した依頼はと……」


 カウンターの中で何度もお世話になっているファニーさんが端末を操作している。


 前から思っているんだが、あれ、絶対にタブレットだよな?


「レ、レ、レ」


 うん? 掃除のおじさんかな?


 今帰って来たばかりだからお出かけはしませんよ?


「レッドドラゴンを退治したの!?」


 ザワッ。


 ファニーさんの一言でギルド内部に居る人達が一斉に振り向いた。


「ちょっとファニー! 不用意に情報を漏らさないでくれる?」

「あっ……ごめんなさい」


 うーん、どうもファニーさんはドジっ子属性が付いているみたいだな。


「それで本当に倒したの?」

「はい。白の衝撃と合同で、ですけどね」

「ああ、なる程ね。サポート役をしたと……」


 こんな反応になるのは想定の範囲内だ。ギルドに入る前に三人で相談して決めていた。


 依頼を合同で受けて達成したと報告する事で、僕達が目立たない様にする作戦だ。


 報奨金が減るのは痛いけれど、変に目立つ事は避けたい。


 その作戦が功を奏したのか、ざわついていたギルド内が再びいつも通りの騒がしさへと戻って行く。


「それで取り分の分配はどうするの?」

「白の衝撃の報告待ちですけど、僕達は半々で良いと思っています」

「半分ね。素材の持ち帰りは?」

「全部持ってきました」

「全部?」

「はい、丸ごとですね」

「レ、レ、レ」


 おお? まさかの掃除のおじさん再降臨。


「レッドドラゴンを丸ごと持ち帰った!?」

「ファニー!」

「あっ!」


 せっかくの作戦がファニーさんの叫びで台無しになってしまった。


「おい、聞いたかよ?」

「レッドドラゴンってウクシスの森の?」

「それならアイツら相当な金額を稼いだって事か?」

「合同で受けたらしいから、相手のパーティーに寄生しただけだろう?」

「白の衝撃だからな」

「ちっ、上手いことやりやがったな」


 あーあ、なんか不穏な空気が漂ってるな。後で変な言いがかりを付けられなければいいけど……


「ハルト君。ゴメン」

「まあ、良いですよ。それより素材のドラゴンはどうしますか?」

「裏の解体場へ運んでもらえるかしら? 連絡は入れておくから」

「はーい。じゃあ行ってきます」


 解体場は何度か行った事があるので誰かに因縁を付けられる前にさっさと移動する。


「こんにちはー」

「うん? 何か用かい?」

「素材の持ち込みです」

「ああ、じゃあそこに置いてくれるか?」


 そこって、こんな小さな台の上に?


 そうか、これはギルド特性の解体台で丈夫に作られているんだな。流石に世界規模の組織だけはあるな。


「じゃあ出しますね!」

「ハルト、待っ……」


 ドォォォン!


 あれ? 解体台、潰れたよ?


「待ってって言ったのに……」

「ええっ、そうなの? 全然聞こえなかったよ」

「何の騒ぎだ!」


 これはもしかして僕が怒られるパターンなの?


「レッドドラゴン……」

「凄い……初めて見た!」

「デカイな、それにこれは……」


 あれ? なんか大丈夫そうだな?


「おい、これはお前が持ち込んだのか?」

「はいそうです。そこに出してって言われたんで出したんですけど、解体台潰れちゃいましたね。すみません」

「はっはっは。そんな台なんてどうでも良いさ。お前さん中々やるじゃないか!」

「ハルトです。覚えて貰えるとありがたいんですけどね……」

「ハルトだな。覚えておこう。おい! 全員今日は朝まで残業だぞ!」


 うわぁ。マジで? なんか申し訳ないな。


「ヒャッハー! ドラゴンなんて久しぶりだぜ!」

「おい、見ろよここ! どんな攻撃をしたらこんな痕が付くんだ?」

「それよりもだ。まだ血が新鮮だぞ? 早く回収するんだ!」


 この人達はもしかして残業を喜んでいるのか?


「こんな大物は久しぶりだ! みんな生き生きしているだろう? お前のお陰だよ。小僧!」


 やっぱり覚えてないのかよ……


「ハルトです。覚えて下さい!」

「おう! 分かったぞ小僧!」


 だめだこりゃ。


「それより、貴方はここの責任者の方ですか?」

「そうだ。カール = ストライサンドだ。覚えておいてくれ」


 いや、まずアンタが覚えろよな。


 それにしても、このカールという人をよくよく観察すると、小柄な身体に筋肉質で顔には豊かな髭を生やしている。


「ドワーフ?」

「おお! よく知っているな。その通りだ! ワシらの種族は数が少なくての。絶滅する寸前だったんだが、この国の皇帝が保護してくれておる」


 へぇ、居るんだ、ドワーフ。そうするとエルフとかも居るのかな?


「カールさん。エルフって知っています?」

「何じゃ、お前はアイツらを知っておるのか?」

「いえ、直接は知らないですけど」

「その方が良い。あんないけすかない奴らとは知り合わん方がいいぞ?」


 あ、仲悪いんだね。エルフともいつかどこかで出会うかもしれないな。


 それにしても、朝まで残業となると、レッドドラゴンの査定はまだまだ時間が掛かるだろう。


 一旦、家に帰りのんびりと過ごそうと思ったが、一つだけ忘れていた物がある。


「カールさん。ついでにこれも査定をして欲しいんですが構いませんか?」


 バッグの中から一枚の鱗を取り出す。


 山頂に居た白いドラゴンの鱗だ。


「うん? 鱗……か?」


 その大きめの盾程もある鱗を繁々と見つめていたカールさんだが、突然目を見開き、身体をワナワナと震わせ始めた。


「小僧……コイツを何処で手に入れた!」


 どうしようかな? 素直に喋るか? いや、この反応だしな。少しだけぼかしておくか。


「この前、他の依頼をしていた時に偶然拾ったんですよ。貴重な物なんですか?」

「貴重かだと? コイツの価値が分からんのか! これはな天竜の鱗だ。昔一度だけ鑑定した事があるから間違い無い。他のドラゴンの鱗よりも硬く、しなやかで、武器にしても防具にしても最高の素材になる。千年前の勇者が残した伝説の武器の素材だぞ?」


 ほう。これは良い物を手に入れたみたいだな。これでみんなに良い装備を渡せそうだ。


 後、八十枚もあるからね!


「それで、その鱗ですけど買取はしてもらえます?」

「買い取りだと? これを? 無茶を言うな!」


 ええ? ダメなの?


「これを買い取るなんて、ギルドにはできん。これ一枚でギルドの資金が全て吹き飛ぶくらいの値段がつくからな」


 そうか……残念だな。これを売って大儲けかと思っていたけど、買い手が付かないなら自分達で使うしかないな。


「これほどの物ならオークションに出すと良い。幸い次の開催はすぐだからな」


 オークションとな?


「レヴィ。オークションて何?」

「世界中から貴重な物が集められてセリに掛けられるのよ。珍しいスキルオーブとか武器とか防具なんかが多いわね」


 へぇ、面白そうだな。


「じゃあ出品してみます。いくらぐらいになりますかね?」

「これほどの物だからな。金貨一万枚は付いてもおかしくはないだろうな」


 一万枚!? て事は金額にしていちおくえん!?


 これは是が非でも参加しなくては。


「これが受取証だ。コイツを受付に持っていって申請をしておけ」

「はい、ありがとうございます」


 再び受付に戻りファニーさんにオークションの手続きをしてもらう。


「あら? ハルト君どうしたの?」

「カールさんからこれを渡す様に言われました」


 素材の受取証とオークションの申請書を手渡す。


「て、て、て」

「ファニー!」


 また叫ばれそうになったがレヴィの一喝で何とか飲み込んだファニーさんだった。


「あ……ゴメン。オークションの受付ね。ちょっと待ってね。はい、終わりっと」

「案外簡単なんですね?」

「まぁね。端末にデータを入力するだけだからね。それにしてもハルト君は将来有望よねー。ねぇ、お姉さんの事養ってみない?」


 おう、ガツガツ来るなこの人。


「ファニー? ハルトに手を出したら……ブッ飛ばすからね?」

「あはは、冗談よ。半分だけ……」


 半分は本気なんだ……


 あまり近づかないようにしておこう。


 ギルドでの手続きはこれで全部だな。後は連絡待ちになりそうだし、家に帰ってのんびりするぞー


 レヴィの家に到着し、中に入ると何やら話し声が聞こえて来る。


「無双の槍騎士団が良いって!」

「槍を使うのはシャルさんだけじゃないですか!」

「えー、カッコいいと思うけどなぁ」


 シャルとレスリーだった。


「シャル、レスリー。ただいま」

「お帰り、ハルト」

「お帰りなさい」

「それで、何の話なの?」

「そうそう。聞いてよハルト。パーティーの名前を考えていたんだけどさぁ。レスリーが反対するんだ。良い名前なのにさ」

「だから、槍はシャルさんだけですし、しかも騎士団でも無いし!」


 パーティー名か、良い機会だし、今からみんなで決めようかな。


「二人だけで決めないでさ。全員の意見を聞いてから決めようよ」

「それもそうだね。ボク達がみんなを呼んでくるね。レスリー行くよ!」

「シャルさーん。待って下さいよー」


 二人が慌ただしく出て行ってしまった。そんなに急いで無いんだけど。


 パーティー名。良い名前になるといいなぁ。

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