第49話 ウクシス大森林へ

 ウクシス大森林。


 帝都の南にある広大な森。


 その森の中では錬金術の素材になる各種薬草が多く自生している。


 また魔物や妖獣もかなりの数が生息している為、ギルドに登録したての低ランクパーティーから、歴戦の高ランクパーティーまで様々な人が訪れる場所である。


 そのウクシス大森林に生息する一匹のドラゴンの討伐依頼を受注し、達成する為にメンバーの選考を行っているのだが、これが難航している。


 僕とレヴィはもう決定している。それに紗羅を回復役として連れて行くまでは決定的したのだが……


「私は確定でしょ?」

「いやいや、俺が行く!」

「待ってよ! 私も行きたい」


 名乗りを挙げたのはこの三人。風香と康太、それと蒼羅だ。


 萃香は帝都にある大図書館を見つけ、そこに通う為に残るみたいだ。


「本当はボクも行きたかったけどね」


 シャルは居残りメンバーのお守り役を頼んであるので今回は見送りとさせて貰った。


 シャルとレスリーが揃っていれば大概の事に対応出来るだろう。


 問題は誰を連れて行くかなんだけど、大人数で行っても危険度が増すだけなので四人でパーティーを組む予定だったが、三人が三人共譲ろうとしない。


「絶対にいくの! ドラゴンを見たい!」


 風香は行きたがるのは分かるがなぁ。


「康太はこの間、剣術の試合をしたんでしょ? 私なんてまだ何もさせて貰ってないもん!」


 蒼羅の意見も最もなんだしなぁ。


「俺はもっと強くなりたいんだよ! その為に経験が必要なんだよ」


 全員の意見を聞いているが、誰一人間違ってはいない。


「ハルト、もう諦めるしかないんじゃない?」

「そうかな?」

「みんな行きたがっているんだから連れて行ってあげたら?」

「だけどなぁ。安全が保証出来ないんだよね」

「魔物退治に危険は付き物よ。ハルトがみんなを守ってあげれば良いじゃない」


 だが、経験の浅い四人を守りながら戦うのは少しばかりキツく無いか?


「私も精一杯フォローするからさ」


 この一言で僕の心は決まった。


「分かったよ。全員連れて行く」

「本当?」

「やったぜ!」

「私、頑張るからね?」


 三人とも嬉しそうだ。


 だがこのメンバーで行くなら大森林へ行く前にどこかで軽く訓練しておく必要があるな。


「みんな集まって!」


 素早く集合する四人。


 普段からこんな風に素直でいてくれればいいのに。


「みんなの気持ちは分かった。だけど、今のままではやはり危険が大きいのも事実だ」


 戦闘経験値が浅い四人をフォローするのは勿論の事パーティーで戦うのであれば、連携を取る事が何よりも大事だ。


「大森林までは歩いて行くと三日程かかる。その間で戦闘訓練をする! 異論は?」

「はい!」


 即座に手を挙げた者が居る。


「はい、レヴィ!」

「そんなにのんびりしていたらアイツらに先を越されてしまうわ。せめて馬車で行こうよ」

「却下! それよりもメンバーの安全を最優先する。命に関わる事なんだからさ」

「でも……」

「それに歩いて三日かかるけど、三日かけるとは言ってないよ?」

「どういう事?」

「大森林まで走る! これでかかっても一日半だね」

「「「「「えー!」」」」」


 全員の大合唱が心地よい。


「みんなは上級職なんでしょ? 職業の補正で体力は上がっているはずだよ。無職の僕が出来るんだからそれくらいやって貰わないとね。出来ないと言うなら、連れては行けないよ」


 僕の言葉に全員が渋々うなずく。


 やっぱり修行の基本は走り込みだよね!


「私、お留守番で良かったです。ついて行っていたらどんな目に遭わされるか分からないですからね」

「レスリー、借金増やすぞ?」

「ゴメンナサイ。今のは嘘です!」

「嘘をついたから借金を金貨一枚増やしておく」

「突然の理不尽! こんなに謝っているのに何で増やすんですかー!」


 ああ、今日もレスリーは最高だ! その残念さが日に日に磨かれている。


 プンスカ怒っているレスリーは放って置いて、お仕事と訓練に行きますかね。


「さあ、それじゃあ出発!」


 今回の依頼のメンバーの役割分担を考えると、康太が最前線で壁役をこなして貰う事になる。


 康太の適正はと。


名前 コウタ


種族 人属


年齢 17


職業 聖騎士


技能 長剣LV1  盾術LV1


「康太にはこれを渡しておく」

「お? 剣は案外重いな。それと、何だよこれ?」

「盾だけど?」

「ほぼ木製じゃないか。こんなの使えるのか?」

「表面が金属で補強してあるから、ある程度は大丈夫だよ。肉壁を頼むな」

「へいへい」


 次いで近接アタッカーは風香と蒼羅だな。


名前 フウカ


種族 人属


年齢 17


職業 侍


技能 刀術LV1 抜刀術LV1 心眼LV1



「風香はこれを使ってくれ」

「春人これさ、刀じゃないよね?」

「うん。僕もまだ刀は見た事が無いんだ。だから使用感が似ている物で代用して貰う」

「そう、今はいいけど後でちゃんとした刀を買ってよね!」


 刀か……武器屋には何度も行っているけどどこにも無かったんだよなぁ。


 蒼羅の方はと。


名前 ソラ


種族 人属


年齢 17


職業 忍者


技能 短刀LV1 忍術LV1  


「蒼羅はこれね」

「これ、風香のよりも短いのね」

「それが一番使いやすそうだったから。レヴィも使っている短刀だよ」


 最後は紗羅か。


名前 サラ


種族 人属


年齢 17


職業 高位僧侶


技能 聖魔法LV1


 確か僧侶は刃物を持たないんだよな。


 そうすると現在待っている物で使えそうなのは……


「紗羅、これ持てる?」

「ええっ? 春人君。これはいくら何でも無理だと……あれ軽い?」


 持てるんだ?


 そのハンマーは僕でも重くて持てないんだけど?


 何なら100tとか書いてありそうな奴なんだが?


「あはは、これ楽しい!」


 笑顔でブンブンと巨大ハンマーを振り回す紗羅。癒し系、怪力少女か……


「ハルトあれ、もしかして……」

「そう、クラーキアのダンジョンで拾った奴」

「あんなに重たいのに、何で?」

「んー? 多分だけど、職業補正かな?」

「高位僧侶よね?」

「そうなんだよね。まぁ僕は無職だからよく分からないけど」


 僕の話を聞いていた風香がしかめっ面で側に寄ってくる。


「なによ春人? まだそんな事言っているの?」

「違うよ。無職なのはもう諦めているから。そうじゃ無くて、職業に就けないからどのくらい身体能力に変化があるのか検証出来ていないって事だね」

「なる程ね。まだ気にしているのかと思った」


 今回の依頼ではそっち方面も検証して、メンバー全員の鍛錬のメニューを見直しみよう。


 帝都を出発して、軽いランニング程度の速度で走って約二時間、初めての戦闘が始まる。


「ハルト! 接敵!」

「りょ」


 流石はレヴィだな。常に警戒を怠っていない。


 だが、その他のみんなは戸惑っているみたいだな。実戦経験の少なさが如実に現れている。


「みんな、敵を見つけたら今みたいに全員に知らせる事! それと返事が無いと気付いているか分からないから必ず声を出して返事する事。いいね?」

「「「「はい!」」」」


 うんうん、いい返事だね。


「レヴィ、距離は?」

「まだしばらくは平気よ」

「魔物かな?」

「多分ね。数は十体以下」


 これはもしかすると……アレか?


 ゴブリン。


 異世界もので大体初めての戦闘に出てくる。緑色の小鬼の姿をした魔物。知性は高くはないが、集団で人を襲う事で低い戦闘力を補っている。


「あれは……ゴブリンね」

「ヒャッハー! 初ゴブリンだー!」


 長かった……苦節四ヶ月、やっとゴブリンと出会えた。


「ハルトは何故そんなにゴブリンが好きなのよ?」

「何故だって? 初めてはゴブリンって決めていたのにさ、他の奴に奪われたんだよ?」

「う、うん……初めてを奪ってゴメンナサイ」


 いや、レヴィそうなんだけどそうじゃ無いよ。


「春人、来たわよ!」


 赤いレンガの街道の脇にある茂みをかき分けて三体のゴブリンが僕らの方へとやってくる。


 その後方にはまだ何体か潜んでいる。


「どうしたらいいんだよ?」

「私は何処に居ればいいの?」


 康太と蒼羅が混乱している。おかしいな? ゴブリンが混乱魔法を使うなんて聞いてないぞ?


「ハルト、指示を!」


 ああ、そうか。何をしたら良いのか分かっていないだけか。


「康太、前へ! 攻撃は必要無いから、防いで!」

「任せろ!」

「風香は僕の側に来て!」

「うん!」

「レヴィは紗羅と蒼羅を任せる。ここは三人でやるから!」

「りょ」


 ここで意外な行動に出たのが紗羅だ。祈る様な仕草をしてから魔法を発動した。


 祝福ブレス


 パーティー全員が淡い光に包まれていく。


「物理防御を上げる魔法よ! みんな頑張って!」


 いい仕事をするね。心なしか康太を包む光が強いのは気のせいだろうか?


 初手はゴブリン。ボロボロの剣を振り上げ康太を襲う。


 康太はなんとか攻撃を受け止めたが……


「おう、結構な衝撃があるな」

「康太、まともに受けるんじゃなくて、受け流すように心掛けて。予備はあるけどそれじゃあすぐに駄目になるから!」

「分かったぜ!」


 しかし、いつまでも防御だけをさせてはおけない。


「風香、まずは僕が何体か始末するから、その次に風香にも攻撃して貰う。よく見てて!」

「うん!」


 康太が盾で受け止めて体勢を崩したゴブリンに近寄り、腹パン!


 ブシャッ!


「うそん、案外脆いな」


 僕が殴ったゴブリンのお腹に大きな穴が空いた。


「春人、後ろ!」


 風香の声に咄嗟に振り返ると、後方に控えていたレヴィ達にゴブリンが向かっている。


「レヴィ、任せた!」

「りょ」


 近づいて来るゴブリンに短刀が吸い込まれて行き、一撃で首が落ちる。


 紗羅を守る様に立ち塞がる蒼羅へゴブリンが襲いかかる。


「蒼羅!」


 すぐさまレヴィが二人に駆け寄るが、蒼羅がそれを制する。


「任せておいて!」


 蒼羅が先程のレヴィ寸分違わない短刀の一閃を披露し、ゴブリンは血を流し地面に倒れる。


「やったわ!」


 あっちは大丈夫みたいだな。


「さてと、康太。左のゴブリンの攻撃を防いだら攻撃してみて」

「おうよ! おりゃー!」


 しかし、見事に避けられる。仕方なく僕が対処。


「大振りにも程があるわ! 盾で弾いて体勢を崩してから、もっと小振りで!」

「うお、こうか!」


 シールドバッシュからの長剣の一撃が決まる。


「今のは良いな。その調子!」

「春人、私も私も!」


 風香がはしゃぎ始めた。最後の一体は任せてみるか。


 仲間をやられ、激昂したゴブリンが前に出た風香に襲いかかる。


 その力任せの攻撃を難なく躱し、一閃!


 チンと、静かに剣を納める風香。


 それと同時にゴブリンが倒れる。


「風香、お見事!」

「ふふん、当たり前でしょ。私を誰だと思っているのよ?」


 おー、風香はご機嫌だね。


「全員集合! みんな、怪我は無い?」


 全員がうなずく。


 幸いみんな怪我は無いようだ。


 だが、反省点も多くあった。これを指摘しないで終わる訳には行かない。


 今後の為にも反省会を開くとしますか。

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