第48話 家を建てよう!


「これから宜しくお願いします。レスリーです」


 レヴィの帝都の家で大きな荷物を抱えたレスリーがペコリと頭を下げてみんなに挨拶をする。


「春人、どういう事なの?」

「んー、話の流れで仲間になってしまった。ちなみにレスリーは僕に金貨十二枚の借金がある。それを払うまで、馬車馬の様に働いてもらう」

「それ聞いてないです!」

「うん、言ってないからね」

「それ、大事な所!」


 何故だか分からないがレスリーはこんな扱いになってしまう。


 前世で何か因縁でもあったんだろうか?


「ハルト、でも何処に住んでもらうの?」

「それなんだよねー。今日は取り敢えず台所で寝て貰うとして、これからもメンバーは増えて行きそうだしさ、いっその事、家でも建てようかな?」

「それが良いかもしれないわね」

「何気に私、酷い扱いを受けてません?」

「気のせい気のせい、じゃあ、今日は不動産屋を回ってみるか。レヴィなら良いお店知っているよね?」

「うん、何軒か知ってる」

「じゃ、他のメンバーはいつも通りお仕事よろしく。僕はレヴィと一緒に良い物件が無いか探してみる」

「「はーい」」


 そんな訳でレヴィと共に不動産屋へ向かったのだけれど……


「高くない?」

「うん、良い値段するわね」


 何軒か回ってみたがどれもこれも高すぎて、とてもじゃ無いが手が出ない。


「金貨五千枚とか……」

「ハルトは今、いくらくらい貯まっている? 私は百枚が良い所だけど」

「全然無いよ。この間みんなの宿代を支払ったばかりだし」

「宿代も馬鹿にならないのよね……」


 これは困ったな。宿代が勿体ないから家を建てたいけど、家を建てるにはお金が足りない。


 結果的に宿代が嵩み、家を建てる資金を貯められない。


「詰んだ」

「ハルト、諦めないで!」

「でも、どうしよう?」

「誰かに相談するとか?」


 相談? 相談か……


―――――――――――――――――――――


「で?」

「家を建てたい」

「何で俺の所に来た?」

「何となく?」

「俺は便利屋じゃ無いんだがな?」


 やって来たのは、困ったときのエドさんの家。


「まぁ、いくつか案はあるがな」

「流石ですアニキ!」

「だれがアニキだ! まったく、こんな時だけ頼って来やがって……」

「それで、その案ていうのは何ですか?」

「一つ目はギンに話を持っていく。彼奴らには貸しがあるだろう?」

「却下です!」

「何でだ?」

「国と関わり合いになると、あとが面倒になりそうだからです」

「ふむ、それもそうか……それなら金を借りる方法もあるぞ?」

「借金はしたくありません!」

「我儘だな。それならクランを設立するしか無いな」


 クラン?それ何だ?


「ハルト、クランはね。いくつかのパーティーの集合体の事よ」

「それと家を建てるのに何の関係が?」

「ギルドではクランを作る事を推奨している。実力のあるメンバーが揃えばギルドの依頼をこなしてくれる人材が増えるからな。その為に格安でクランハウスの貸し出しもしている。まぁ、クランの設立には色々面倒な事があるがな……」


 クランか……メンバーもかなり増えて来ているし、実際今は二つのパーティーで仕事をこなしている。


「それにクランを設立するとギルドを通さない依頼を受ける事も出来る、仲介手数料が掛からないからその分身入りも良い。勿論トラブルもあるがな」


 今のところ、それが一番良さそうだな。


「分かりました、やってみますよ。ギルドに申請したら良いんですね?」

「ああ、お前さんがクランを立てるなら、俺も参加させてもらうよ」

「えー?」

「何だよ?」

「エドさん必要かな?」

「今もこうして相談しに来てるじゃねぇか!」

「あはは、冗談ですよ」


 エドさんは確かに頼りになる。相談役として、居て貰うのはアリだな。


 その後、エドさんの家をあとにして、ギルドに向かいクラン設立の申請をしたのだけど……


「クランですか……」

「はい!」

「パーティーメンバーは十人と……」

「はい!」

「うーん? 少しだけ弱いですね」

「はい?」

「例えば、リーダーのギルドランクが高いとか、もっと有名な人が居るとかですかねぇ。確かハルトさんのランクは……」

「Eです……」

「それじゃあ認める訳には……」


 どうにかして、ギルドランクを上げるしか無いのかな?


「レヴィ、ギルドランクってどうやったら上がる?」

「依頼をこなすしか無いわよ?」

「むー、具体的には?」

「だから、依頼をこなすの! 採取依頼とか……」


 採取か、基本的に買い取りの値段が安いからなぁ。


「後は護衛とかさ」


 他の場所までの道程で魔物や妖獣に襲われた際の身の安全の為に雇われるのだけど、これは時間がかかり過ぎる。


「それに、魔物退治とかかな?」


 魔物退治か……


 それなら何とかなるかも知れないぞ?


 パーティーメンバーに戦闘の経験を積んでもらう良い機会だし、それしか無いようだな。


「レヴィ! それで行こう」

「魔物退治ね? どれどれ、条件が良さそうなのはと」


 だけど魔物を倒したただけでそこまで稼げるのか?


「ハルト、これ見て!」


 レヴィの顔がこれまでに無いくらいに輝いている。何を見つけたんだろう?


 レヴィがカードに表示されている依頼書を見せてくれた。


レッドドラゴン退治


帝都の南、ウクシス大森林に生息するレッドドラゴンを退治し、可能であればその素材を持ち帰る事。


報酬   金貨三千枚


依頼期限 無し

種別   特殊

買取   持ち帰った素材を鑑定後、査定


「ウクシス大森林て僕が鍛錬で良く行く場所だな」

「ふーん、他の魔物の強さはどうなの?」

「レヴィなら大丈夫かな? 他のメンバーだとキツそうだけど、経験を積む為に何人かは連れて行こう」


 その依頼を即座に受けて、レヴィと連れて行くメンバーの相談をしていると背後から肩を叩かれた。


「君もその依頼を受けるのかい?」


 その声に振り返ってみると真っ白な鎧で身体を覆って、白いマントを纏った男が僕を見つめていた。


「どなたですか?」

「やれやれ、この私を知らないとはね」

「アンタ本当にギルドに所属しているの?」

「帝都で知らない者はいないBランクのハンターなんだけど?」


 いや、知らんけど?


「長い間市民を苦しめていた害獣の退治をこの私が引き受けたんだ。ギルドからの要請があったからな。そしてこの依頼を達成し、Aランクへとランクアップするんだからな。邪魔をしないで貰いたいな」

「だから、誰?」

「ハルト、この人はね。スチュアート = アーチボルト、白の衝撃と言うパーティーのリーダーよ。それと、戦士のジェナ = シスレーと魔道士のドリス = カータレット」

「これはこれは、レヴィじゃ無いか!」

「ええ、久しぶりね。スチュアート」


 へぇ、レヴィは知り合いなんだ。どんな関係なんだろう?


「私が少し前に臨時で入ったパーティーなの」


 ああ、大発見をして大金を稼いだって言っていたやつか。


「偶々入って来てウチのパーティーに寄生してお金を掠め取っていったのよねー」


 ピキッ!


 んん? 何か凄い音が聞こえたぞ?


「そうそう、運が良かっただけよねー」


 ピキピキッ!


「あんた達こそ、スチュアートに寄生しているだけのお荷物じゃない。あの時はアンタ達が騒ぐから魔物がわんさか寄ってきて散々苦労させられたのに、その事も覚えていないの?」

「何ですって!」

「何よ、媚を売るだけしか取り柄の無い能無しの癖にさ!」

「アンタこそ、薄汚い寄生虫じゃない!」

「誰が寄生虫よ!」


 おおう、これが女の戦いか。レヴィの顔が今までに見た事も無いくらい怖い。


「その言葉、取り消しなさいよ!」

「そっちこそ謝りなさい!」


 うわー、火花がバチバチ散っているなー


 そこへスチュアートが僕の側へとやって来た。


「なぁ、レヴィは君のパーティーメンバーなんだろう? 何とかして貰えないか?」

「いや、あの間に入って行くなんて自殺行為じゃないですか。僕はお断りですね」

「しかしだな……」

「スチュアートさんでしたっけ? あの二人は貴方の仲間なんでしょう? 貴方が止めたらどうです?」

「流石の私もあそこに近づきたいとは思わないよ」

「それを僕にやらせようとしてませんでしたっけ?」

「それはそうなんだがな……」

「ここは静観しているのが一番ですよ」

「ふむ、そうするか」


 しばらく時間が経てばレヴィの頭も冷えて来るだろう。それまで待つとしますかね。


「こうなったら勝負よ!」

「はん! 望む所よ!」

「同じ依頼を受けたんだから、どっちが先に達成するかで決めましょう」

「それで構わないわ」

「それでは、負けた方が」

「暴言を吐いた事を」

「「「土下座して謝る事!」」」


 おいおい、なんか話が面倒な事になっているぞ?


「負けてから吠え面をかくんじゃないわよ!」

「そっちこそ、吐いた唾飲まんとけよ!」

「顔はヤバいよ、ボディにしときなボディに」


 ふた昔まえの不良みたいな事言ってるし、それと最後の台詞は違うからね?


 何処で覚えたんだよそれ?


「ハルト、さっさと準備して行くわよ!」

「レヴィ、ちょっと落ち着いて」

「落ち着いて? そんな暇ないの! 行くわよ!」


 完全に頭に血が上っているなぁ。


 ギルドを足早に出て行ったレヴィを追いかけながら白の衝撃の方を伺うと、あちらもかなりヒートアップしている。


 宥めるのが大変そうだな。


 まぁ、それは僕も一緒なんだけどね。


「ハルト、遅い!」

「何をそんなに慌てているのさ?」

「何をですって? ハルトは私が侮辱されたのになんとも思わないの?」

「そうじゃないよ」

「だったら早くしなさいよ!」


 ここまで怒っているなんて珍しいね。だけどこれは良く無いな。


「レヴィよく聞いて?」

「何よ!」

「今の状態のレヴィを連れてウクシス大森林に連れて行くわけには行かない」

「なんでよ!」

「それは自分で考えれば分かるだろう?」

「絶対について行くから! アイツらに負ける訳にはいかないもの!」

「あそこはそんなに甘い所じゃないよ。勝手に勝負にしたレヴィが悪い。頭に血が上ったままなら、連れては行けない。危険だからね」

「でも……」

「でも、じゃないの! そのままであの森に入ったら間違いなく大怪我をする。少しは頭を冷やしなよ」


 僕の言葉を聞いて、目を閉じて微動だにしないレヴィ。


 意志の力でなんとか怒りを抑えようとしているが、上手く行かないみたいだな。


 しばらく待ってみたがまだ顔が強張っている。


「もう大丈夫」

「全然大丈夫じゃないよ。それじゃあお留守番は決定だね」

「逃げる訳にはいかない!」

「まったく、困ったもんだね。そんなレヴィにいい事を教えてあげるよ」

「なに?」

「レヴィはかなり怒っているようだけどね」

「うん、怒ってる!」

「レヴィをあそこまで侮辱されて僕が怒っていないとでも思ってるの?」

「ハルト……」

「それに言っただろう? あそこは僕の鍛錬の場所、庭みたいなもんさ。だから先を越される心配も無い。レッドドラゴンの居場所にも心当たりがある。後はレヴィが少し冷静になるだけだね」

「そうね……ゴメン。落ち着いた」


 うんうん。ちゃんと反省してすぐに軌道修正出来るのがレヴィのいい所だよね。


 それにせっかく見つけた大金を稼ぐ方法を逃す訳には行かないね!


 ウクシス大森林、楽しんでいきますかー

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