第50話 到着
今後の為にも反省会を開くとしますか。
パーティー単位での初戦闘は誰一人怪我をする事なく無事に終了したが、いくつかの反省点が残った。
「みんな、反省会を開くよ!」
「えっ、どこかいけないところでもあった?」
「そうだよな? 上手く行ったじゃないか!」
戦いの後だから気分が高揚しているのだろうな。風香と康太が不満そうだ。
「たくさんあったさ。まずは僕からだ。全体を見て指示を出さなくてはいけなかったんだが、ゴブリンを見てテンションが上がってしまい、指示出しが遅れた。これはかなりの減点だ。みんなゴメン」
素直に頭を下げてみんなに謝る。
「ハルトがリーダーなんだから、しっかりしてもらわないとね」
「レヴィには助けられたよ。声を掛けられるまで気付かなかったからね」
初戦闘だとあそこまで戸惑うものだとはな。次からはもっと上手くやろう。
「次は康太だな」
「俺かよ……敵は倒したぜ?」
「一番最初の大振りは悪手にも程がある。アレを避けられて攻撃されたら?」
「うっ……」
「だけど、その後はかなり良くなっていた。康太は最前線で敵を防ぎ、更に攻撃にも参加する難しい立ち位置だから、常に冷静に周りを見ながら戦わなくてはいけない。攻撃よりも防御。これを常に頭に叩き込んでおいて欲しい」
「分かった」
難易度の高い仕事を任せている自覚はある。
だけど、僕の仲間でこのポジションをこなせるのは康太しか居ない。何度も何度も繰り返していればそのうち身につくだろう。
「風香と蒼羅の一撃は凄く良かった」
「ふふん。当然よ!」
「ありがとう!」
「人型の魔物に斬り付ける事に嫌悪感は無い?」
「「無いわ!」」
ふむ、二人とも大丈夫の様だな。
「最後は紗羅だね」
「わ、私?」
「初手に防御アップの魔法は驚いたよ。いつの間に使える様になったの?」
「この間、エドさんと話していて、魔法は自分の思い描いた物が使用可能って聞いて、みんなを守りたいって思ったら使えたの」
「効果はかなり高いみたいだけど、魔力の残量にだけは気をつけて。紗羅は回復の要だから」
「うん!」
さて、こんな所かな?
「ねえねぇ、私は?」
うん? レヴィか。
そうか、一人一人反省をしているのにレヴィだけ何も言わないと不公平か。
「そうだな……非の打ち所無し! 僕も助けられたし、一番の功労者だね!」
「うふふふふ、じゃあご褒美に何か頂戴!」
うん? 何か欲しいものでもあるのかな?
「そうだね。帝都に帰ったらなんでも……」
「ちょーっと待った!」
「風香?」
「一回の戦闘でそれを決めるのはおかしい。それなら今回の依頼が全て終わってから決めるべきだわ!」
ふむふむ。それも一理ある。
「もう、せっかくのご褒美だったのに!」
「一人だけ抜け駆けは許さないわ!」
「こうなったら勝負ね!」
「負けないわ!」
うーん。二人共、やる気に満ち溢れるのは構わないけど、気持ちが先行し過ぎて空回りしそうだな。
レヴィにはフォロー役を頼んでいるのに、あの顔は駄目だな。まぁ四人が五人になった所で余り変わらないか……
精一杯フォローさせて貰うよ。
その後何度か戦闘を行った。康太の大振りの癖は何とか直ったのだが、風香の前に出過ぎる癖はどうにも修正し切れなかった。
「風香、ダメだって!」
「私は覇王! 全ての者が私にひれ伏すのよ!」
「風香は侍だからね?」
「ただの通過点よ!」
あかん。完全にイってるわ。
これはこのまま攻撃特化で行った方が本人の為にもなるか。
でも、それなら防御効果が高い防具を揃える必要がある。
今はどこにでもある普通の防具しかない。何処かで買えたら良いんだが、そんな掘り出し物がそう簡単に転がっているはずが無いよな……
まてよ? 今回の依頼はレッドドラゴンを退治する事だろ?
ドラゴンの鱗なんかは良い素材になるんじゃないかな? 全員の強化の為に素材を残しておくか。
その後、六度の戦闘をこなし、走り続けていると、やがて空が赤く染まり始める。
「よし! この辺りで野営をする。みんな準備をして」
バッグからテントを出して設置。その間に薪を集めて貰い、火を起こす。
食事に関しては何の心配も要らない。出来立ての食事をマジックバッグから出して全員に提供する。
「交代で見張りをする。最初は紗羅と蒼羅だね。その後はレヴィと風香、最後が僕と康太で行く」
全員が頷く。皆、思い思いに体を休める。
自覚は無かったが疲れが溜まっていたのか、僕は知らない間に眠っていた。
「ハルト、ハルト!」
身体を揺さぶられて目を開ける。
「見張りの時間よ」
「レヴィか、何も無かった?」
「ふふ、あったらとっくに起こしているでしょ?」
「それもそうだね」
何事も無くて良かった。
焚き火の元へ行くと、すでに康太が座っていた。
「遅刻だな」
「あはは、寝坊したよ」
「しっかり頼むぜ、リーダー」
リーダーか……
別に望んでやっている訳じゃないが、頼られるのは嬉しいもんだな。
「そんなリーダーに相談がある」
「何?」
「紗羅と蒼羅の事だ」
「何か問題あり?」
「元の世界に帰りたがっている」
それは分かっていた事。風香からも聞いていたんだ。
「帰還方法はあるのか?」
「今の所は見つかってないよ」
「探すつもりはあるんだな?」
「僕はみんながこっちに来ている事を知らなかったからね。帰るのは当然だった……」
「だった……か。今は違うのか?」
この間までとは事情が全く違っている。何よりも違うのが風香が側にいる事。
これだけで僕は満足してしまっている。
「まぁ、春人が考えている事は分かる。だが、紗羅と蒼羅の気持ちも考えてやってくれ」
「うん、帰還方法は今も探している。だけどさ、康太の気持ちはどうなんだ?」
「俺か……ここは楽しい所なんだがな」
「なんだが?」
「紗羅が帰るなら、俺も帰るさ」
おっと、これは意外だな。
「もしかして、気付いてた?」
「俺だって朴念仁じゃないからな。いくらなんでも気付くさ」
「紗羅の気持ちに応えるつもりは?」
「それはお前でも教えられないな」
「本人にちゃんと伝えなよ」
「分かってるさ」
紗羅の恋の行方は、良い結末を迎えそうだ。
「手伝う事はある?」
「ねぇよ。手出しは無用だ」
「応援はするよ?」
「ああ」
普段康太とはこんな話はしない。
僕らの周りには必ずみんなが居るから。
だけど、今は男二人。康太の決意は僕に伝わった。後は紗羅と蒼羅の望みである帰還を実現させてあげなくてはいけないな。
しかし、そうすると三人とはお別れになる。それは少し寂しいな。
「春人、そんな顔をするな。どうせそんな簡単に見つかるはずが無いだろ? まだまだ先の話だ」
「うん。そうだね!」
のんびりした時間が流れて行く。
こんな風にずっとみんなと過ごして行く、そう思っていたが、いつか別れが訪れるのだろう。
願わくば、その時ができる限り遅く来て欲しいと思うのは僕のエゴなんだろうか?
―――――――――――――――――――――
翌朝、みんなを起こして出発の準備を整える。
残す道程は約半日。
よほどのことが無ければ、お昼過ぎにはウクシス大森林へ到着出来るだろう。
みんなで街道を走っていると、後方に砂埃が上がり始めた。
「馬車のようだね。みんな道を空けて!」
街道の端に寄り邪魔にならない様に歩きだす。砂埃が近づいて来て、一台の馬車が僕らの横を通り過ぎて行く。
そのまま走り去ると思っていたが、何故か馬車が止まった。
「乗せてくれるのかしら?」
「蒼羅、僕達は鍛錬の為に走っているんだよ? 例え乗せてくれるって言われても乗らないからね?」
「もう充分鍛錬はしたじゃないの!」
「全然足りて無いよ?」
ブーブー文句を言う蒼羅だが、馬車が止まった理由は僕らを乗せてくれようとした訳では無かった。
「クスクス、走って向かうなんてご苦労様ね」
「これだから貧乏パーティーは駄目なのよ。あんなに遠い場所に徒歩なんてねぇ」
馬車から顔を出したのは白の衝撃のジェナとドリスだった。
「私達が先に行ってドラゴンは退治してくるわ! 貴方達は諦めて帰ったら?」
「そうそう、今から向かってもドラゴンなんて居ないわよ! 報奨金は私達、白の衝撃が頂くから!」
それだけを言うと高笑いを残して馬車は走り去っていった。
「ハルト、急ぐわよ!」
レヴィの目が鋭く光る。
この表情をしている時のレヴィに逆らうなんて僕には出来なかった。
結果、昼過ぎに到着予定だったがそれよりも早く到着する事になる。
レヴィ以外のメンバーは僕を含めてヘロヘロになってしまったけどね。
「さぁ、さっさとドラゴンを退治するわよ!」
「レヴィ、周りを良く見て? この状態で森に入るなんて無理だから!」
森の入り口でへたり込んでしまっているメンバーを見てレヴィが一喝する。
「だらし無いわね! ほら、早く立って!」
「レヴィ……無理だって。ここで小休止するから」
「そんな暇は……」
「リーダーの決定だよ?」
「分かった……」
うーん、これは少し話をする必要があるな。レヴィは何をそんなに焦っているのだろう?
「レヴィ、どうしたのさ。らしく無いよ?」
「だって、アイツらがもう先に森に入っているんでしょう。負ける訳にはいかないの!」
「ああ、それか。大丈夫だよ。まだ間に合うから」
「なんでそんな事が分かるのよ?」
何故って? それは……
「ドラゴンの居場所を知ってる!?」
「うん。この前来た時に見つけたから。ちゃんと言ったでしょ。この森は僕の庭みたい物だって?」
「その場所はここから遠いの?」
「うん。かなり奥まで行かないといけないからね」
「そうなんだ……大変そうね」
普通に行けば七日は掛かるかな? 普通に行けば、だけどね。
「転移できる!?」
「うん。一度行った場所なら何処にでも行けるからさ、今から行っても先を越される心配は無いよ」
「もしかしてさ、この森も一瞬で来れる?」
「当然だね! そもそも修行の為に何度も来てるんだから。ほぼ毎日来てるよ?」
朝、まだみんなが寝ている時間にここで修行をしている。早朝だと誰も居ないし、魔物は夜行性の奴が多いから修行にはもってこいなんだよね。
満足したら転移で戻ればすぐだからね。
「じゃあ何でこんなに時間を掛けてここまできたのよ?」
「修行!」
全員から盛大な溜め息がもれる。何故だ?
「ハルト、何もこの依頼で修行しなくても、もっと時間がある時にやったら良かったんじゃない?」
「うん?」
「ハルトと私、二人で転移してさっさとドラゴンを倒してから別の場所で修行をしたらいいじゃない!」
「それは思いつかなかったな」
「時間の無駄じゃないの……」
「そうかな? 修行も出来たし、野営なんかも経験出来たし、良い事尽くめじゃない?」
「まぁ……それもそうね」
「それでどうする? すぐにドラゴンの所へ向かう?」
相談の結果、一旦修行を中止して依頼達成を優先する事になった。
ドラゴンか……戦うのは初めてだから楽しみだな。
それじゃあ行きますか!
転移!
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