第47話 勝利の報酬


「それでは、始め!」


 康太の初めての対人戦。


 まぁ、魔物とすら戦った事がないから実質、初めての戦いなんだけど、何処までやれるかは康太が修行の成果をどれだけ出せるかなんだよな。


「ハルト。彼奴は勝てるか?」

「五分五分ですかね?」

「そうか……」

「エドさんは次の試合の準備をしておいて下さいね」

「なる程、彼奴の勝ちに掛けているのか」

「闘う前に負ける事考える馬鹿がいるかよ!」

「ふふん、良い言葉だ。行って来るわ」


 エドさんも気合充分だね!


 さて、康太なんだけど……


「何だその無様な避け方は? 臆病者が!」

「うるせぇ! 大きなお世話だ!」


 成る程ね。こうなるかー


 違うんだよな。


 そんな事教えて無いぞ、康太。


「康太! 避けるのと逃げるのは違う! ちゃんと教えただろう?」

「そんな事言ったって……」

「木刀なんだから、当たった所で悪くても骨が折れるだけだよ。怖がっていたら勝てるものも勝てないって。こんなに情けない試合をこの後も続けるなら、三日間特別メニューをやらすぞ!」

「止めろっ! やるから! ちゃんとやるからそれだけは勘弁してくれ。死にたくねぇ!」

「だったら思い出せよ。七日間、何をしていたのか」


 あの程度の奴に負ける程、ぬるい修行をさせた覚えはないんだよね。


 康太が全力を出せば最悪、引き分けに持っていけるくらいの強さは身に付けているはずなのに、相手に呑まれている。


 慎重なのは良い。


 だがそれと臆病なのは全く違う。


 康太は今、攻撃が当たる事を恐れている。


 だからこそ、ここぞという時に突っ込んで行けていない。


 このままだったら康太の負けは確定だな。このままだったらね……


「うぉぉぉぉぉ! 特別メニューは、絶対に嫌だー!」

「お、やっと行ったか。まったく世話の焼ける奴だよ」


 康太は叫びつつ、相手に向かって突進する。


「お、おお?」


 その勢いに相手が怯んでいる。今がチャンスだな!


「おらぁ、喰らえやぁ!」

「なんだと? 馬鹿な!」


 康太の力任せの大振りは受け止められてしまったのだが、毎日筋トレをやっている脳筋を甘く見たな。


 受け止められても意に介さず、そのまま振り抜く事で相手を吹き飛ばした。


「だっしゃゃゃゃゃあ!」


 康太……掛け声が酷いよ。


 だが、その声に押された相手はすっかり受けに回ってしまっている。


「オラオラオラオラオラオラ!」


 康太、それアウトだよ?


 今回だけは見逃すけどね? 次は無いよ?


「ドラァ!」


 そして、康太が全力で攻撃をする事で、ある変化が起こり始めていた。


 そしてそれは遂に起こった!


「馬鹿な。俺の剣が砕けるだと?」

「どうだ、見たか!」


 そして、相手の持っている木刀は僕達が想像する木刀とは全くの別物であった。


「あっれれー? おっかしいぞぉ? 木刀って言っていたのに中心部分には鉄が入っているんだー。ふーんそれが木刀なんだー。へぇー!」

「うぐぐ」

「さてと……まったく同じ物であるなら僕に渡されているこの木刀にも鉄が入っているはずだよねっ!」


 グシャア!


 地面に向けて思いっきり叩きつけた木刀は跡形もなくバラバラになったが、中には何も入っていない。


「へぇー、そうかそうか。これが同じ木刀ねぇ。ふーん。中に鉄の棒が入って威力が増したやつと、このただの木刀が同じものなんだー? なるほどねぇ」

「あ、いや、これは違う!」

「いや、言い訳は要らない。ただアンタは卑怯な真似をする奴だって事が分かっただけだからねぇ」

「違う!」

「何が違うのか分からないけど?」

「この木刀は俺が用意したものでは無い!」

「だから何さ? そんな物、持てば重さである程度分かるだろう? それを分かっていながら使っているんだからさ。アンタはただの卑怯者だって事だよ!」

「むむむ」

「何がむむむだ! 卑怯者に剣を持つ資格は無い! アンタの負けだ!」

「無念……」

「勝者、アズマコウタ!」


 やっと一つ勝ったか。あと二つ……


「俺の出番の様だな」

「ええ、どうですか。勝てそうですかね?」

「やってみなければ分からんさ……」


 なんだか余裕があるな。どうするつもりなんだか。


「次! 副将戦始め!」

「さぁ、俺の逃げ足を見せてくれるわ!」


 おぃぃ! あの強者の風格を見せてた癖にやる事は全力逃げかよ! オッサン!


「はぁはぁ、貴様卑怯だぞ! 戦士の面汚しが!」

「残念だったな、俺は魔道士だ。ふはははは」


 その後、二時間に渡り、ただひたすら逃げ続けるエドさん。


 相手側の戦士は執拗にエドさんを追いかけるだけの大マラソン大会を延々と見させられた。


「もう良い! 引き分けだ引き分け! そっちもそれで良いな?」

「へーい。良いですよー」

「はぁはぁはぁ、どうだハルト?」

「良く逃げ切りましたねー。周り見ました? ドン引きですよ?」

「勝てばいいのさ!」

「引き分けだわっ! 勝ってねぇし!」

「俺に出来ることはアレくらいさ。散々ダンジョンアタックをこなして来た体力を活かすくらいしか思い付かなかったんだよ」

「上出来だと思いますよ?」

「そうだろう? はっはっはっ」


 引き分けに持ち込めた事で上機嫌のエドさんだが、僕以外の人からは白い目で見られている。それはもう、これ以上無いくらいの真っ白さだ。純白だよ!


「卑怯な真似ばっかりしやがって……」

「あははは、それ、そっちが言います?」

「喧しい。勝てばいいんだよ勝てば! 現在、こちらの二勝一敗一分だ! 次で勝負を決めてやるぞ!」

「ハイハイ、さっさとやりましょうねー」


 何とかここまで持ち込んだか……


 後は僕が勝てば引き分けだな。その後の事は決められていないけど、どうするんだろう?


「質問がある!」

「何だ?」

「次の試合でそっちが勝てばそっちの勝ちなのは分かるが、僕が勝った場合はどうなる? 引き分けで終わりか?」

「万が一にもそんな事は起こらんが、その時は代表を一人づつ出してもうひと試合行う!」

「おけ、把握。僕が勝てばそれで良いんだね。簡単なルールだね」


 さてさてここからが楽しみなんだよなぁ。


「さてレスリー。話がある」

「何でしょうか?」

「いくら出す?」

「は?」

「次の試合僕が負けたらそれで終わりだよ?」

「分かっています。頑張って下さい」

「んー? 頑張るかどうかはレスリー次第だなー」

「私? 意味が分かりません。はっ、まさか私の身体が目当てなんですか!?」

「いや、残乳はちょっと……」

「残乳言うな! じゃあ何なんです?」

「あー、どこかに金貨でもないかなー? 五枚くらい有れば次の試合やる気出そうだなー。どこかに落ちてないかなー?」

「酷い演技を見せられたっ! あからさまな賄賂の要求ですか! 八百長ですか! そうなんですね?」

「ナンノコトカナ?」

「とぼけ方が下手すぎなんですけど!?」


 今日は仕事が出来ない。お金を稼ぐ方法があるならそこで稼がないとな。


「1試合勝利で金貨五枚でいいけど?」

「鬼! 悪魔! 人でなし! ロリコン!」

「おい、最後のはダメだろう!」

「1試合で五枚ですか……」

「そうだね。次で引き分け、その後もうひと試合で十枚だよ!」


 レスリー相手に値段の釣り上げを行っていると意外な人物が話に割り込んで来た。


「春人、それはいくら何でもひどく無いか?」

「コウタさん……」


 康太は割りかし真面目な奴だからなぁ。


「十枚じゃ三人で割り切れないだろう? ひと試合六枚で十二枚にしようぜ!」

「突然の値上がり!?」

「康太……ナイス!」


 二人でハイタッチを行う。


「全くお前らという奴は……」

「ああ……エドさん。貴方だけが頼りです。やっぱり大人の男の人は素敵です!」

「俺にまで金貨をくれるなんて最高だぜ!」


 エドさんの会心の笑みにサムズアップ。


「素敵じゃなくて、ただの敵だった!? 分かりましたよ! ええ、払えば良いんでしょ、払えば!」

「ウェーイ、金貨だぜ! ヒャッハー」

「春人、絶対勝てよ! 今夜は外へ出て美味い物食おうぜ。俺、肉がいい!」

「俺も賛成だ。肉は良いよな!」

「よっしゃ、肉だぜー!」

「最低です……」


 これで金貨十二枚なら中々の稼ぎだな。康太の初仕事がこれなら最高の部類に入るな。


「テメェ、俺に勝てるつもりか?」

「あー、多分……」

「良いだろう。身の程を知れ!」

「つ、次! 大将戦始め!」


 金貨、金貨、金貨ったら金貨!


 いやー、この程度の相手を二回倒すだけでこんなに儲かるなんて異世界はぬるいねぇ。


「おらぁぁぁ!」


 あーあ、怒りで動きが直線的過ぎるんだよなぁ。そんな見え見えの大振りが当たるもんか!


「これで、終わりだよ!」


 相手の攻撃を避け、渾身の力を込めて顔面を狙い振り抜く!


「プギャ!」


 木刀が顔にめり込んで、そして砕け散った。


「し、師匠ー!」


 少しやりすぎたかな?


 顔が変形してしまっている。あーあ、股間から液体が漏れてるよ。


「おーい、審判さん。僕の勝ちでいいのかな?」

「あ、ああ」

「それで、次の試合の相手は? 勿論、こっちは僕が出るよ」


 相手側は誰が出るのかでかなり揉めている。


「お前行けよ!」

「いやいや、ここはやはり一番強い師範代が行くべきでしょう?」

「待て待て、俺はだな……」


 まぁ、頼りの綱の師匠があんな負け方をしたんだから、誰も出たくないのは分かるが時間かかり過ぎ!


「ちょっと、まだ?」

「も、もう少し待ってくれ!」

「もう、待てないって。これ以上時間がかかるならこっちの不戦勝にするけど?」


 僕の言葉を聞いた瞬間に全員の顔が輝いた。


「「「どうぞ、どうぞ!」」」


 あ、良いんだ?


「それじゃあこっちの勝ちだね!」


 勝利宣言をした後、そそくさと帰ろうとする所を捕まえて、今後このブラックフォード剣術道場には手出しをしないという、誓約書を書かせた。


 勿論、魔法による誓約書なので破る事はできない。


「ありがとうございます。ハルトさん」

「うん、これでこの道場も安泰だね」

「ハイ!」

「それで、レスリー。報酬の話だけど……」

「あー、それなんですけどね」

「うん?」

「ウチにはそんなお金ないんです!」

「えっ!」


 おいおい、今更それは無いだろう?


「ゴメンなさい。お金は無理ですけど……わ、私の身体で払います!」

「いや……残乳はちょっと……」

「なんでですかー! 酷いです! 乙女の純情を踏みにじるなんて、ひど過ぎます!」


 レスリーは僕をポカポカ叩いて来るけど、それだけは無理だよね?


「決めました。道場は兄上に任せます!」

「おい、レスリー?」

「今までずっと道場を放っておいた罰です! 私はこの人達について行きます!」

「ゴメン、ウチのパーティーの募集要項に残乳は入っていないんだよ」

「残乳を職業みたいに言うなー! あと誰が残乳だ! もう決めましたから、絶対に着いて行きます!」


 どうやらレスリーは本気で僕たちのパーティーに入るつもりの様だ。


「春人、肉は?」

「肉の代わりはアレみたい」

「マジで? あーあ、肉食べたかったなぁ」

「新しいパーティーメンバーに可愛い女の子が入ったんですよ? 少しは喜んで下さい!」

「いや、レスリー俺達より歳上だろ?」

「うっさいわ! せめてもっと歓迎しなさいよ!」


 こうして、めでたく? 新たなパーティーメンバーが勝手に入ってきた。


 なんで、こうなるんだか……


 まぁ、金貨十二枚の借金を払うまでせいぜい働いてもらいますかね?

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