第39話 賢者の塔 5

 シャルが僕達の仲間になった。


「でも大丈夫なの? 私達の仲間になって」

「全然平気だよ。ボクが抜けても四天王は揺るがないからね」

「シャルは一番弟子だって聞いてるけど?」

「うん! でも弟子はボク一人だけだからね」


 少なっ! 大賢者は人望が無いのか?


「前はもっとたくさん居たんだけど、いつの間にか居なくなっていったんだ」

「四天王ってみんな大賢者の弟子じゃ無いの?」

「違う違う。あの人達はお金で雇われているだけだから、四天王派遣協会って聞いたこと無い?」


 何だよ、そのピンポイントな派遣は!


「世界中の四天王はそこから派遣されている人が多いんだよ?」


 四天王ってそんなに居るの?


「ボクの部下にも四天王は居るからね。ジニア四天王炎槍のシャルの四天王がね」


 ニヤリと不敵に笑うシャルだが、言っている事はメチャクチャだよ? なんなら四天王がゲシュタルト崩壊してるからね?


「ねぇシャル、この上はどうなっているの? ジニア四天王はもう出尽くしたわよね?」

「ボクはこの階から上に登る権限は持ってないから分からない。でもまだまだ塔は続くから、他にも誰か居るのは確実だよ」


 このままだと、今日中に最上階にたどり着くのは無理かもしれないな。


 さっさと終わらせて、弟子にはなりません宣言を大賢者に突きつけて帰りたかったのに。誰かと戦う事自体は楽しいけれど、先が長過ぎて気分が落ち込んでくるな。


「どうしたのハルト? 気分でも悪いの? ボクのおっぱい揉む?」

「ぶっ!」

「ちょっとシャル! 何を言っているの!」

「えー、揉まないの? つまんない」


 そう言いつつシャルは胸の下に腕を差し込んで軽く揺らしている。


 たゆんたゆん。


 その言葉がピッタリとハマる巨大な胸に僕の視線は釘付けになってしまった。


「イタタタタ! レヴィ痛いって! 耳が、耳が千切れるよ!」

「何を言っているのかしらハルト? 千切っているのよ?」


 ヤベェ。レヴィが激おこだよ!


「ふーん、君達はそういう関係なんだ?」

「そうよ! だからハルトには手を……」

「まぁボクはそういう事はあんまり気にしないから」

「えっ?」

「強い男に女が群がるのは当たり前って事。だからレヴィも気にしないでいいからね?」


 そんなもんなの?


「自分より強い男が居たらどんな手段を使ってでも落とせ、そいつが金を持っていたら尚更だ! ボクの婆ちゃんはそう言っていたから」


 とんでもない祖母だな。孫にそんな遺言を残して逝くなんて。


「ちなみに婆ちゃんは、今でも新しい男を探しているから」

「ご存命でしたか!」

「うん、ハルトなんて婆ちゃんに見つかったらすぐに取られちゃうから、今のうちにボクの物にしておこうと思ってさ」


 シャルの婆ちゃんだろ? 無い無い。


「ボクの婆ちゃんは200年は生きているけど、見た目は完全に20代くらいにしか見えないからね? みんな婆ちゃんの魅力にメロメロなんだから!」

「へぇ、一回会ってみたいね」

「ハールートー?」

「いや、違うから! ほら、シャルが仲間になったんだし、一回挨拶はしておかないと」

「むー、私の時は家族の事なんて聞かれなかった!」

「え、あ、うん、そうだけどさ……」


 気まずい沈黙が訪れる。


「二人とも何か勘違いしてない? ボクはハルトを自分一人の物にしようとはしていないからね?」

「はえ?」

「力と財力がある者が複数の異性を娶るのは当たり前だから。男も女もね」

「じゃあ……」

「そう! だからレヴィを排除するつもりなんて全く無いし、むしろ二人で共有しようって話だね」

「そう、それなら……まぁ分からなくは無いかな?」

「そうでしょ! ねぇねぇ、二人の間のルールを決めておこうよ!」


 レヴィとシャル。二人でキャッキャ言いながら僕の取り扱いルールを次々と決められて行く。


「ハルトよ。苦労しそうだな……」

「そうですか?」

「お前さんはこれからも、なんだかんだで増えて行きそうだからな」

「僕にそんなつもりは無いですよ?」

「ド阿呆! 現にシャルが増えただろうが!」


 確かにシャルにそんな感情は全く無かった。僕は流され過ぎなのだろうか? しかし決まってしまった事はもうどうしようも無いし、これ以上増えないように気をつけておこう。


「それよりもだなハルト。アレを見ろ」


 エドさんの指し示す方には大扉がある。


「どう思いますか?」

「さあな、だが無人って事はないだろうな」

「そうですよね……レヴィ! シャル! 行くよ!」

「「はい!」」


 二人はニコニコしながら、やけにしおらしい返事が返ってくる。


 さてさて、僕の知らない所でどんなルールが決められたんだか。少し怖いな。


 そんな考えは取り敢えず置いておいて、大扉を開け放つ。


「待ちかねたぞ!」

「随分と遅かったんじゃ無くて?」

「尻尾を巻いて逃げ出したのかと思ったぞ!」

「きっとワシらの事を恐れていたのだろうよ」

「です……」


 なんかいっぱい居るんだけど、誰?


「アンタ達何者よ?」


 レヴィ……多分聞いちゃダメな人達だよ?


「よくぞ聞いてくれた!」

「私たちは!」

「大賢者様の一の配下!」

「五人揃ってジニア四天王!」

「です……」


 やっぱりか……一言喋る度に一人づつポーズを取って行くし。コイツら面倒臭いタイプの奴らだ!


「くっ! まだ居たのね、四天王!」

「ボクも聞いていないよ……」

「五人も居るとなると少し厄介だな……」


 えっ? 何でみんな自然に受け入れているの?


「さぁ!」

「私達を」

「倒せるものなら」

「やってみるが良い!」

「です……」


 いちいち五人で喋るのはやめて欲しいな。


「あのー? 一つ聞きたいんですけど?」

「何だ?」

「私達に質問ですって?」

「一つだけなら」

「聞いてやろう!」

「です……」


 うぜぇぇぇぇぇ!


「ジニア四天王ならもう倒してきましたけど?」

「あいつらは」

「四天王の中でも」

「最弱」

「我らが本物の四天王!」

「です……」


 五人目が、ですしか言ってないよ? せめて少しは喋らせてあげて!


「いやいや、おかしいでしょ? まず四天王なのに何で五人なんだよ! 龍造寺じゃないんだからさぁ!」


「いつから四天王が四人だと錯覚していた?」

「私達は」

「最強の五人が集まって出来た」

「最強の四天王!」

「です……」


 あっ、五人目が涙目になってきてるやん!


「ねぇ? 五人目の人? アンタそれで納得してる? 喋る事全部取られて、自分だけ数合わせで、ですしか言わせて貰えないで。アンタはそれで良いのか!」

「私は……」

「実際アンタその中に、要らないんじゃ無い?」

「惑わされるな!」

「私達は!」

「五人揃って!」

「四天王!」


 ほら、何も言うこと残って無いじゃ無いか。


「私だって何か言いたい!」

「「「「おい!」」」」


 ふふ、効いてる効いてる。


「大体何で私が最後なのよ! 私、一番最初が良い!」

「ダメだ! 最初の一言はリーダーである俺の番だ!」

「はぁぁぁ? いつからアンタがリーダーになったのよ! リーダーは私でしょ?」

「いやいや、待て待て。リーダーは俺だろうが!」

「待てって! 一番強い俺がリーダーに決まっているだろう! でしゃばるな!」

「何で私の事無視するのよー! 私も喋りたい!」


 さて、揉めている奴らは放っておいて先に進みますかね。


 三人にこっそり合図を送り、そそくさと部屋を後にする。


「なんとかなったね」

「ハルトは悪知恵だけは働くからね」


 レヴィ、それは少し失礼だよ? 作戦と言って欲しいね。


「アイツらを口先だけで翻弄するなんて凄い!」

「うむ……時間も労力も節約できたな」


 本音を言うとただ単純に絡むのが面倒臭かっただけなんだけどね。言わない方が良いみたいだね。


「さぁ、最上階へ行って全て終わらせよう!」

「「はい!」」


 ジニア四天王をスルーして更に賢者の塔を登り続ける僕達だったが……


「何でこんなにいっぱいいるんだよ! ふざけてんのかよ!」

「この数は流石にゲンナリするわね」

「四天王ってこんなに居たんだ……やめて良かったかも……」

「全部で何人いたんだ?」

「途中から数えるのも馬鹿らしいから数えるのはやめたけど、20人はいたわ……」


 塔内部には数々の四天王が待ち受けていた。最後の方なんて一階毎に居るもんだから、何かを発言する前に全て腹パンで仕留めてきた。


 やってられないっての!


「ゼェゼェゼェ、やっと着いたぜ」

「長かったわね……」

「四天王に誇りを持っていたのに……」

「みんな行くよ……」


 もう何度も見てきた大扉を開ける。


 しかしその部屋は今までとは全く違う感じの部屋だった。広い部屋ではあるが、本棚や机が並べてられていて、いくつもの扉が並んだ部屋だ。その部屋の中央に大賢者ギンが椅子に座っていた。


「よう。やっと来たか」

「ギン! 何なんだこの塔は?」

「エドワルド、これが賢者の塔の試練だ。中々面白かっただろう?」

「いーや! 全く面白くねぇ!」

「ふふふ、よくたどり着いたもんだな。次が最後の試練だ! 俺様の弟子になりたかったら見事成し遂げてみろ!」

「あのー? 弟子にはならないですよ?」

「なん……だと?」


 いやいや、最初からそう言っていたでしょうに!


「人の話を聞かないからですよ! 僕は他に師匠が居るから貴方の弟子になる気は無いって言ったはずですけど?」

「それなら何でここまで来た!」

「途中で帰ろうとしたけど、エドさんが彼奴はしつこいから黙って帰ったら必ず押しかけて来るっていうから……」

「おい? エドワルド?」

「お前なら間違いなくそうするだろう?」

「ああ……まあな」


 押しかけ師匠なんて迷惑な存在なんていらんわ!


「そういう訳なんで僕達はこれで帰ります。もう来ないで下さいね?」

「ふふふ、はーはっはっはっは。そうは行かない!」


 大賢者ギンは僕達に向けて右手を突き出した。


「身体が⁉︎」

「動かない!」

「何のつもりだ? ギン!」

「弟子にならないならお前たちは有効に使わせてもらう。特にハルト! お前だ!」


 僕? 何をするつもりなんだ?


「お前は迷い人なんだろう? それだけで利用価値があるってもんだ! 他の三人はまぁ……諦めろ」

「ギン? お前何を言っている?」

「まさか……今まで居た弟子のみんなは……」

「ああ、俺の魔法の実験体として使わせて貰っているさ。俺様の命令を聞かなかったんでな! シャル! お前は良い実験体になりそうだよ」


 大賢者ギンは何を企んでいる?


 僕達に何をするつもりなんだ?


「おい、コイツらを幽閉しておけ! そこの小僧は別件で使う。くれぐれも殺すなよ? そいつは俺たちの女神様の復活の大切なピースだからな?」

「女神?」

「ふふふ、大人しく弟子になればまだ生きていられたんだがな。拒否するならお前達はもう必要ないって事よ!」

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