第6話 後始末
「そこまでです」
次は誰だよ?
振り返ってみると、そこにはギルド職員の制服を着た、いかにも仕事が出来そうな女性が立っていた。眼鏡を掛けているのもポイントが高い。
「ハルトさんですね? 私はギルドマスター補佐をしているローザと申します。以後お見知り置きを」
おお? まともな人が居た。
「ハルトです。よろしく」
「この騒動の大体の事は理解しています。マスター並びに職員がご迷惑をお掛け致しまして、申し訳ございません」
ピンと伸びた姿勢から深々と頭を下げている。
「少しだけ説明させて頂きたいのですが、お時間を頂戴できますでしょうか?」
「話を聞くだけなら構いませんが、興味が無かったら帰りますよ? それでも良いですか?」
「はい、それで結構です」
ふむ、今のところ減点はない。
「それで説明とは?」
「ここではなんですから、別室を用意してあります」
「レヴィも一緒に連れて行きますよ?」
「承知しました。ご案内いたします」
その場にいる全員を置き去りにして、僕とレヴィはローザの後をついて解体室を出て行く。
案内された部屋は応接室らしく、フカフカのソファーに豪華なテーブル、ご丁寧に飲み物まで用意されていた。
「それでは改めてご説明させて頂きます。今回の件は職員の焦りから生まれた騒動だと認識しています」
焦りねぇ。
「あの依頼を受けたハルトさんはご存知でしょうが、依頼期限が迫っていました。その為、職員全員が総力をあげて達成に向けて動いておりました」
なる程、僕が依頼を受けた事まで把握してるのか。
「そこへ、僕が持ち込んでしまった」
「その通りです。だからと言って許される事では無いと思います。改めて謝罪させて頂きます」
謝罪するのは別に構わない、許すかどうかは別だけどな。
「レヴィはどう思う?」
「ギルドのした事は理解はできるかな?」
「どこが?」
「ギルドは依頼達成率を低下させるわけにはいかないからね。しかも緊急依頼だしね」
「でもあの態度はなく無い?」
「ギルドなんてあんな物よ。基本的に口も態度も悪いけど悪気はないもの」
あれが普通なのか。
「悪気は無いのはわかった。だけどやっぱり、僕にはあの態度を許す事はできないかな」
「それがハルトの考えなら仕方ないよ」
「ちょっとレヴィ、もう少し援護してくれてもいいじゃない」
ん? 随分と気安い態度だな。
「んー? いくら昔馴染みとは言えねぇ。ギルドの事をよく知らない人からしたらあの対応はまずかったと思うけど?」
「返す言葉もないわ」
「そういうわけなんで今回は無かった事にして貰いますね」
すると突然応接室のドアが開かれる。
「そんな事絶対に許さんぞ! 今すぐレッドベアーを渡すんだ!」
やれやれ、やはり罠か。ローザも所詮はギルドの人間だ。信じた僕が間抜けだったというだけ。
しかしこの部屋の中は狭い上に入り口に陣取られてしまっている。レヴィを連れて逃げるのは無理か。
人を傷つけるのは気が進まないが、背に腹は変えられない。まずはギルドマスターからだな。
ローザに視線を向けると、こちらには全く注意を払っていない。
不意にローザがギルマスに音もなく近づいて行く。
何をする気なのかと警戒しながら視線を送っていると突然攻撃体制に入るローザ。
ローザの右手がギルマスの顎を捉え、体を浮かせる。落ちてきた所に華麗なハイキックが顔面に決まる。
「プゲラッシュ」
変なうめき声をあげ壁にめり込んだギルマス。
うわぁ、顔から煙が上がってるやん。
「全く、どれだけ私の邪魔をするつもりなんですか!」
ローザは笑顔だが目が全然笑っていない。これは怒らせたらいけない人種だな。
「重ね重ね、ギルドの人間が失礼な態度を取った事をお詫びいたします」
深々と頭を下げるローザ。
「えーと、あれ大丈夫なんですか?」
「あの阿呆の事は放っておいて構いません」
仮にも上司じゃないのかな?
「ハルトさん、今回は謝罪の意味を込めて買取金額の上乗せを考えています。10%でいかがですか?」
ふむ、悪くはないがそれだけじゃあな。ギルドと揉めるつもりは無いけど。
「ハルト。その辺で折れてあげてくれないかな?」
「そうだね。レヴィがそう言うなら構わないけど、ただ金額を上げれば良いってもんじゃ無いしなー」
「だったらさ、ギルドに貸し一つでどう?」
貸しねぇ。次に何かあったら力を貸して貰うか。
「ローザさんそれじゃあ10%の上乗せとギルドに対して貸し一つで手を打ちますよ」
「ハルトさん。ありがとうございます。それと私の事はローザと呼んで下さい」
「分かったよローザ」
「これからも宜しくお願いします。ハルトさん」
そう言うとローザが一枚の紙を出してきた。
内容は買取金額の上乗せに合意する書類だ。金貨五百五十枚で買取する旨が書かれている。
その書類にサインをしてローザと握手し、手打ちは終わりだ。
だけど書類が用意されているという事は、ローザは最初からこの結末を予想していたという訳で、ますます油断出来ない相手だと心に留めておく。
そして再び解体室へ向かう。
「ローザ! どうなった」
「おい、小僧早く出すんだ!」
おいおい、ここのオッサン達は学習能力を持ってないのか?
「貴方達! その辺にしておかないと全員ギルマスと同じ目にあって貰うけど構わないかしら?」
こめかみに血管を浮かせピクピクさせながら笑顔で激怒するローザの一言で全員が黙り込む。
「ローザ、だけどよ…….」
「ハルトさんとは話が付きました。今から出して貰うから大人しく下がりなさい。ハルトさん、お願いできますか?」
バッグから解体台の上に赤熊を出す。全員から声が上がる。
「でかいな! ここまでの個体がこれまで確認されてないなんて」
「確かに妙だな。一つや二つ目撃報告があってもおかしくはずだが」
赤熊を囲んでワイワイやっているけどいいのかね?
「さっさと解体して! 鮮度が落ちるでしょ!」
ローザの雷が落ち、職員達はやっと動き出す。
「そうそうハルトさん、報酬なんだけどライセンスに振り込みで構わないかしら?」
「振り込み?」
「ローザ、ハルトは今回が初依頼だから分かってないと思うわよ?」
ローザは一瞬考えてから手を打った。
「そうでしたね。レッドベアーを持ち込んでくる人だから忘れていました。ギルドのライセンスにはお金を入れておく事が出来るのです。引き出すのも預けるのもギルドで対応しています。さらに世界中ほぼ全てのお店がライセンスでの支払いに対応していますので現金を持ち歩かなくて済みます。お勧めですよ」
クレカじゃねぇか!
なんか、この世界はちぐはくな所だな。
文明が栄えている訳ではないのに、スマホにWi-Fi、その上クレカと来たもんだ。
「じゃあそれでお願いします」
便利なのは間違いないし、大量の金貨を持ち歩くのも面倒だし振り込んでおいてもらった。
「レヴィ、ある程度稼いだし少しのんびりしようか?」
「なに言ってんのハルト、そのお金で装備を更新するの! そんな貧弱な装備で外を出歩いているのはハルトくらいなんだから」
「えー、別にこれでいいよ。特に困ってないし」
「だめよ! 大体武器すら持ってないでしょ」
レヴィのその言葉を聞いて、ローザが唖然とした顔で僕を見ている。
「武器を持っていない……? どうやってレッドベアーを倒したの?」
「うーん、それは秘密です」
「そうそうギルドがそんな事詮索するのはマナー違反よ。内緒内緒」
こうして慌ただしい一日が終わり次の日。レヴィにサグザー商会に呼び出された。
「さぁハルト! 武器を選ぶからね」
「それは良いけどさ、僕武器スキルなんて何も持ってないよ?」
「うーんそうね? そこまで考えてなかったわ」
おいおい、適当だな。
「スキルが無いと武器は扱えないの?」
「出来ない事はないけど、やっぱりスキル持ちの方が強くなれるのは確かね」
「そうなんだ、スキルはどうやったら手に入る?」
「スキルは教会で買うの、教会はお布施って言い張ってるけどね。それと職業は神殿で、魔法は魔道士の塔ね。覚えておいて」
教会と神殿の違いは何だ?
「レヴィ、全くわからないよ」
「はいはい、説明するね。まずはスキル、これは神様からの贈り物と呼ばれていて教会でお祈りをしてお布施を払うと授けて貰えるの」
ほうほう。
「次は職業ね。こっちはスキルとは違って職業を変える事で体に変化が起きる。具体的には戦士なら力が上がって武術系のスキルが取得し易くなる。魔術士なら魔力が上がり魔法系のスキルね!」
へぇ以外だな。職業でスキルが取得出来るんだ。
「それで最後は魔道士の塔。ここはスキルは取得出来なくて魔法そのものを教えて貰える。詠唱で魔法を使う方法ね。でも覚えるまで時間が掛かるから少し大変なの」
うん、大体分かった。時間を掛ける気はないから選ぶなら教会か神殿だな。
「スキルと職業はどっちが良いかな?」
「そうね、手っ取り早いのはスキルかな? でもお金が凄く掛かるのよねー」
「いくら位かな?」
「スキルによるけどコモンスキルで大体金貨五十枚位で買えるかな」
むむ? また新しいワードが出てきたぞ。
「レヴィ……」
「はいはい、スキルはねコモンスキルとレアスキルがあるのよ。剣術とか魔法とかのスキルがコモンスキルに当たるわ。レアスキルは鑑定とか収納とか上位の武術スキルもあるわ。特に有用なスキルが多いわね。でもねレアスキルなんてとてもじゃないけど買えないわよ。金貨何千枚とかするから」
高いな、でも使えるスキルならそんなもんなのか?
「職業はお金掛からないの?」
「神殿はね、国が運営しているのよ。だから無料なんだけど、平均的に銀貨数枚くらいの寄付はするのよ」
「それで? どっちが良いかな?」
「普通はね、職業に付いてる物なの! 何で無職なのかまったく分からないわ!」
そうなのか、まずは職業か。
「自分で好きな職業を選べるの?」
「神殿に行くと自分がつける職業がいくつか候補があがるから、その中から選ぶのよ」
全部自由って訳でもないのか。
「レヴィは何か職業についてるの?」
「当たり前でしょ!」
「へぇ、教えて貰っても良い?」
「ローグよ」
ローグ?
「どうせ分からないのよね? 戦士とシーフを合わせた感じかな?」
「なんか強そう」
「一応、上級職だからね」
上級職?
「もーまた説明? 職業には下級と上級があるの! 下級職である程度経験を積むと上級職になれるのよ。だけど二つとか三つ経験を積む必要があるし大変なのよ」
そうなのか、レヴィはどんな感じなのかな。鑑定してみよう。
名前 レヴィ
種族 獣人
年齢 18
職業 ローグ
技能
短刀LV3 罠解除LV4 索敵LV3
忍び足LV3 弓術 LV2 鍵開けLV4
鑑定LV2
特殊
固有 精霊魔法 風
称号 トレジャーハンター
うっそ! めちゃくちゃ強そう。
「ハルト、今のぞいたでしょ!」
「えっ、分かるの?」
「何となくしか分からないけど、勘のいい人には気づかれ易いの。気をつけなさいよ。ハルトはもしかして鑑定持ちなの?」
「レヴィだから言うけど、いつの間にか持っていたんだよ。ライセンスを登録した時に気づいたんだけどね」
「鑑定なんてかなりのレアスキルよ。持っているだけで仕事に困らないしね。その他には何かスキルを持ってないの?」
「最近はあまり見てないから確認してみるよ」
自分に鑑定スキルを発動する。
名前 ハルト
種族 人属
年齢 17
職業 無し
技能
鑑定LV1 光魔法LV1 短刀LV1
忍び足LV1 索敵LV1 長剣LV1
格闘術LV1
特殊 物理耐性LV1
固有 ラー#€*
称号
なんか増えてんだけど……理由が分からん!
「レヴィも鑑定持ってるでしょ? 確認してみてよ」
「何よこれ! いっぱい持っているじゃないの。嘘ついたのね!」
「違う違う、最初は二つだけだったんだけど何故か増えているんだよ。なんでだろうね?」
「勝手に増えるわけないでしょ!」
「だけど実際に増えてるしなー」
「ねぇハルト。それよりも固有スキルなんだけど、これ少しマズイかもしれない」
「どういう風に?」
「聞いた話だから正確じゃ無いかもしれないけど、多分それは邪神のカケラ」
邪神て、それだけでヤバそうだけど。
「昔現れた世界を滅ぼす者が読めないスキルを持っていたって言われているの。そのスキルを使うたびにどんどん強くなっていった」
スキルを使う度? まてよ、最初は全く読めなかったけど今ラー#€*になっている。これ絶対にラーニングだよな?
文字が完成したら僕はどうなる?
スキルを使った覚えは無いけれどな。待て待て、僕のスキルをよく見るんだ。
短刀、索敵、忍び足はレヴィが使った所を見たからなのか? 長剣、格闘術は恐らくギルドの修練場で誰かが使っていた? 鑑定は城壁でムカツクオッサンか。光魔法はライセンス登録した時治療を受けた。
このまま何もせずに居ると、どんどんスキルを覚えてしまう。ラーニングを発動する条件を探らないとマズイな。
だけど邪神のカケラか、本当なのだろうか?
「レヴィ。その邪神のカケラの話は誰から聞いたの?」
「私の叔父さんよ」
「紹介して欲しい。もっと詳しく聞きたいんだ」
「分かった。いますぐ?」
「もちろん」
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