第4話 準備

 登録も終わり、依頼をこなそうと東の森に出発した僕だったが、外へ出る前にある問題が発生した。


「おい、君! 何処に行くんだ?」

「東の森の近くまで行こうと思ってます」

「その格好でいくのか?」

「不味いですかね?」

「不味いも何も武器も防具も無しで外に出るなんて自殺行為だぞ? それじゃあ外に出る許可は出せない」


 あれ? 凪の月だから魔物は居ないんじゃ無いの?


「魔物は少ないが全然居ない訳では無い。それに妖獣や野生の獣も出るからな。備はしておくもんだ。東の森なら採取だろうが、その為の道具は持っているのか? 素手で取っても時間が掛かるから危険度が増すぞ?」

「あはは、何も考えていませんでしたよ」

「まったく、いいか? この道を戻ると左手に武器を扱っている店がある。そこは初心者用の物を多く扱っているから、まずはそこで必要な物を揃えるんだ。外を甘く見るもんじゃない」

「はい! そうします。忠告してくれてありがとうございます」


 衛兵さんの言葉通りに進むと武器屋はすぐに見つかった。


 店内には様々な物が置いてある。剣、斧、槍なんかの武器から革製の防具、鉄製の全身鎧なんかもあるけど、僕じゃあ、あんなの重くて動けないだろうなぁ。


「いらっしゃい、何かお探しですか?」


 店員さんは若い女の子で僕と同じくらいの年齢の子だ。笑顔がとても可愛らしい、その上、頭の上にある耳がピコピコ動いている。獣人てやつか?


「お客さん、そんなに気になりますか私の耳?」

「あっ、ゴメンなんか可愛いなぁと思ってさ」

「へぇ、お客さんは獣人は嫌いじゃないの?」

「嫌いも何も初めて会ったからね」


 女の子の名前はレヴィ、人属と獣人のハーフらしくて今は出稼ぎでスターチスの叔父さんが経営しているこのサグザー商会でアルバイト中だそうだ。


「それで何を探しているの?」

「ギルドの仕事で東の森に採取に行くんだけど、そのために必要な物を買いにね」

「ふーん、ギルドに登録してからどの位の日数が経っているの?」

「まだ登録したばかりだよ」

「本当? 確認してもいい?」


 別に確認されて困る事も無いのでライセンスを見せた。設定で簡易表示にしてあるので見れる項目は名前と登録場所くらいだしね。


「今日登録したばかりじゃない! お客さんついてるわね。なんと、今日から発売開始した初心者応援パックがあってね、採取用ならナイフとシャベルに革製のブーツに発火布まで付いてなんと! 銀貨三枚で売っているのよ。お買い得だよっ!」


 おっ、おぅ、なんか突然セールストークが始まったけど、銀貨三枚て安いのかどうか分からないよ。でもそれを買っておけば間違いは無いだろう。


 銀貨をポーチから取り出して、さぁ支払いをしようとした時、ふと下に目線を向けるとガラスケースの中にある物に気がついた。これは、拳銃だよな?


「あのさ、レヴィ。これなんだけど」


 指差して聞いてみる。


「おおっ! お目が高いね。それは二百年前に召喚された三賢人の一人、大賢者様が作ったガンて言う武器なのよ」


 ヤッパリそうだよな。遠距離から攻撃できるのはいいな。欲しいけどなー


「これさ、いくらで売ってるの?」

「ごめん、売り物じゃないの」

「ああ、非売品か残念だな。欲しかったんだけど」

「お? じゃあ挑戦してみる?」

「挑戦? なんのこと?」

「これはね、大賢者様がいつかこれを必要とする人が現れるからそれまで人の目に付く場所に置いておいて欲しいって依頼された物なのね」


 大賢者様ねぇ。その三賢人て多分僕と同じ様にここへやって来た人達なんだろうな。拳銃があるなら刀とかもありそうだね。ゲーム脳にも程があるかな?


「ちょっとハルト聞いてる?」

「うん、聞いてるよ。それで挑戦て何?」


 レヴィはガラスケースから拳銃が入った箱を取り出す。箱は豪華な装飾がなされていて、上蓋は透明で中がしっかり見える。


「この箱はどれだけ叩いても壊れないし、刃物で斬ろうとしても刃こぼれするだけで、どうやっても開けることができないの」


 開けられないか。鍵とか掛かってるのか?


「ただ、ここを押すとメッセージが流れてくるのよ。何か喋っているみたいなのだけど、誰にも判らないの。どうする試してみる?」


「うーん、そうだなぁ。ペナルティとかは無いの?」

「あるわよ。一回押すと二回目はそのメッセージが流れなくなるの。別の人が押すと流れてくるから、一人一回だけしか挑戦できないみたいね」


 ふむ、それならやってみてもいいか。一回限りか、緊張するな。


「挑戦してみるよ、何処を押せばいいの?」

「ここよ。三角形が描かれている所」


 よく見ると箱の横に確かに三角形があるけど、これ再生ボタンだよな? 録音メッセージが流れるのかな?


 まぁいい、押してみるか。


 そのボタンを押すと男の人の声が聞こえて来た。


「やぁ、これを聞いているのが誰かは知らんが、俺はこの世界で三賢人と呼ばれている者だ。賢人なんて笑ってしまうが自分から名乗った事は無いからな、勘違いするなよ?」

「ね? 何を言っているのか分かんないでしょ? まるで魔法の詠唱みたいでさ」


 どうやらレヴィには理解出来ないみたいだ。僕は普通に分かるけど、何故だ?


「さてさて、これを手に入れる為に少しだけ試練を用意してある。全問正解すると箱は開く。頑張って答えなよ? さあ第一問だ」


 テーレッッ!


 第一問 上は洪水下は大火事これなーんだ?


 なぞなぞかよっ!


 しかもテーレッッて口で言ってるし!


「風呂……」


 ピンポーン!


 箱からは正解の音が出る。


「えっ!? なになに?」


 テーレッッ


 第二問 パンはパンでも食べられないパンは?


 マジか。これいつまで続くんだ?


「フライパン」


 ピンポーン!


「ハルト凄い! こんな反応してるの初めてだよっ!」


 レヴィが興奮気味で近づいてくる。


 その後も問題は続き、後半になってくると段々とやっつけ仕事になってきている。


 テーレッッ


 第九十九問 赤巻紙青巻紙黄巻紙 ハイッ!


 ハイッ、じゃねーよ! 問題じゃなくて早口言葉じゃねーか!


「赤巻紙青巻紙黄巻紙……」


 ピンポーン!


 第百問 おあやや親にお謝り ハイッ!


 くそぅ、何気に高い難易度を持ってきやがって……


「おあやや親にお謝り……」


 ピンポーン!


 第百一問……


 いやいや終わんないのかよ! どこまで続くんだ!


 もう面倒臭いし、これに答えているのも疲れたわ。


 すると箱からのメッセージに雑音が入り始める。


「ザッ……ザザっ……んー? おお? 誰だよこの問題をここまで答える強者は?」


「えっ!?」

「えーと場所はスターチスか! 日本人か?」

「はいそうです。誰ですか?」

「あー、そのな、賢者だよ! 違うからな。発症してないぞ?」

「あはは、その気持ちはわかる気がしますよ。ライセンスを出すのも少し恥ずかしいくらいですからね」


 あれは慣れないよ、凄い恥ずかしいもの。


「解ってくれてありがたいぜ。その銃が欲しかったのか? 欲しけりゃくれてやるぞ?」

「本当ですかっ!」

「ああ、この世界の奴に渡すには過ぎた武器だが、日本人ならその武器の威力は分かるだろう? 但しだ、まぁ、人に向けて撃つなとは言わんが、使い方に気を付けろよ?」

「はい!」

「ふむ、素直な奴だな。同郷のよしみで少し鍛えてやってもいいぞ? 俺は普段はエスカ大神殿に居る。賢者の弟子だぞ? 光栄に思い……な…ザッ…ザザ」


 その後は箱からは何も聞こえなくなった。


「ねぇねぇどうなったのよ?」

「レヴィ、賢者ってどんな人なの?」

「賢者様よ。そうねー? エスカ教の信者でどんな魔法でも使える凄い方かな?」

「エスカ教?」

「うん、わかり易く言うと人属至上主義! 私はハーフだからあまり好きではないかな? 批判はしないけど、でも何で?」

「その人とさっきまで話をしてた。それで弟子になれってさ」

「ええ!? とんでもない事よそれ。弟子なんて絶対に取らない事で有名なんだから! 何人も断られていたのに何でよ?」

「さあね? 僕には何がなんだかさっぱりだよ」


 レヴィに確認したところ、エスカ大神殿はこの国の帝都にあるらしく、その帝都までは順調に進んでも約一ヶ月はかかる。


 因みにこの国はジニア帝国と言うらしい。自分のいる国の名前も知らないとレヴィに呆れられてしまったけどね。


 賢者は興味はあるけども、焦って行動する程でもないから帝都に付いてはひとまず棚上げしておく。


 それよりもこの銃だ。鑑定した結果、魔力を弾丸に変えて打ち出す物でかなりの優れ物だ。


 僕は光属性しか使えないのでさしずめレイガンて所だな。後はリュックの中の革の防具を身に付けるだけで装備は大丈夫だろう。


 それでは東の森へ出発! 出来ませんでした。


 防具を身に付ける事が出来なかった。


 ありがとうレヴィ。君がいなかったから装備出来なかったよ。


 何でこんなに難しいのさ!


 そんな顔で見ないでよ。もう覚えたからさ。


 結局、今日は出発を取り止めて、明日になってから森へ向かう事にした。


 仕事したいのに……

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