第10話 命の責任。

姫様ひいさま、貴女がお買いになった奴隷の件ですが」


 離宮のお部屋に戻るなりセバスからそう声をかけられ一瞬「買ってない! 奴隷でもない!」と反発しそうになったけど踏みとどまって。


 あたしの考えを察してくれてあの冒険者から助けてくれた魔族の少女の事を思い出した。


「あの子は……、今どうしているのです!?」


 情けないはなし、今まで忘れてた。


 義憤に駆られ行動しておいて、その結果について考えてもいなかった自分自身に自己嫌悪。


 でも。


「自由にしてあげたのではないのですか!?」


 ほんと奴隷とか買うとかそんなつもりじゃなかった。


 ただ助けたかっただけで……。


「今は侍女らに風呂で洗わせ、そして食事を与えている頃でしょうか?」


 ああ。それなら良かった。


 ひもじい思いをしていないのなら……。


「貴女さまはあの奴隷に責任を持たねばなりません」


 へ?


「だって。自由にしてあげたらいいのじゃなくて?」


「それは出来ません。あの魔族の少女を野に放つということは、あの少女の命の保証が出来かねるということなのですよ?」


 あう、


「街には先ほどのような粗野な男どもが大勢います。彼らにとって魔族の人間など人間として扱われる存在ではないのです。見つけ次第殺しても罪には問われませんし奴隷にしようが売り飛ばそうがそこに罪の意識はないのです。むしろ、害虫駆除をした程度の感情しかありません」


「だって、生きているのに……、子供なのに……」


「ですから……、この国に魔族が自由に生きることのできる場所はないのです。例えばそれが動物等であった場合、食や害以外の理由で無闇に殺すのは避ける、そういった鳥獣保護の道徳が私たちには存在します。しかしそれが魔獣や魔物であった場合はどうです?」


「あ……」


「そう。魔獣や魔物を殺すのに理由はいりません。その時点で危険かどうかすら理由にはなりません。ティムされ所有者が確定していない魔獣や魔物はそれが魔というだけただそれだけで駆除の対象になるのです」


 納得はできない……。納得はしていない……。でも……。


「あの少女は魔というだけで駆除の対象となるのです。ですから、貴女さまが真に助けたいと思うのであれば、あれの命に責任を持たねばなりません」

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