第9話 感情の色。

 美味しいお菓子。目の前にある美味しいお茶になかなか手をつけることもできずに俯いていると、


「まあまあアリシア。このお茶、美味しいわよ? ほんとはそのまま香りを楽しんで欲しいけどアリシアにはまだ早かったかしら? ミルクもお砂糖も用意してあるから甘くしていただきましょうか?」


 そうお姉様の声。


 周りの敵意? に打ちのめされてたけどちょっとほっとした。


 レイア姉様には本当に悪意のカケラも存在しない。何故か相手の心の色が見えてしまうあたしにはこういう人のそばにいられるのは嬉しい。ううん。こういう心の綺麗な人があたしのお姉様であったことがほんと幸せに感じる。


 いつからだったろう。あたしには人の心の色が、感情の色が見えるようになっていた。


 最初は気のせいだと思ってた。ああこの世界では人のオーラが色になって見えるのかな? そんな風に思ってただけ。


 でも。


 違った。


 いつしか、他人があたしに向ける感情がその色となって見えるのだと確信した。


 表向き普通を装っても、あたしの事を快く思っていない人の色はなんだか汚い気分の悪い色に見え、メーベラのようにどんなことがあってもあたしの事を愛おしく思ってくれる人の心は赤っぽい暖色系の色に見える。


 たぶん、幼い頃からそういうのはあったんだろう。あたしは『人を選ぶ』子供だったらしい。


 懐く人と嫌う人の差が激しかったってメーベラにも聞いたことがある。


 きっとそれはお父様もそう感じ取っていたんだろう。っていうかあたしの事を変に思ってたのかな。


 彼は、あたしに人を近づけようとはしなかったから。


 一人王宮から距離の離れた文字通りの離宮で育ったあたしは、でもそのおかげで人の悪意を見ずに済んで良かったのかもって思ってる。




 姉様の好意で集められた今日のメンバー。


 公爵家令嬢に侯爵家、伯爵家の子もいるのか。


 あたしに歳の近い子が集められたのもみんなあたしの為を思ってくれたお姉様の気持ちはすごく嬉しいしありがたいとは思うんだけど、それでもね。


 こうもあからさまに悪意を向けられるともう何処を向いて良いか分からなくなって。


 あたしはずっと俯いていたのだった。




「ありがとうございますレイア姉様」


 そう、ちょこっとだけ顔をあげてお礼をいうあたし。だって、姉様にはダメな子だって思われたくは無いのだもの。


 にこっとこちらを見て微笑む姉様。


「ねえアリシア。そちらのクローディアさまは貴女と同い年になるのよ。きっと気が合うと思うわ。仲良くしてあげてね」


「よろしくおねがいしますねアリシアさま。わたくしフーデンベルク公爵家のクローディアと申します。お見知りおきくださいね」


「はい。アリシアですよろしくお願いしますクローディアさま」


 そう答えるけど怖くてクローディアさんを直視できないよどうしよう。


 渦を巻くようなその感情のうねりに酔いそうで辛い。


 レイア姉様に対してはたぶん普通? でもあたしに対しては憎しみ? 侮蔑? 平民のくせにとよく陰口を言われたそんな人からあてられる感情に近い。


 他の三人とも挨拶だけは交わしたけど精神的に疲れてしまったあたしは結局早々にお茶会を辞してセバスに抱きかかえられるようにして離宮まで戻った。


 姉様は体調が優れなかったのねと優しい言葉をかけてくれたけど、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

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