第4話 理不尽なんて大っ嫌い。

 あたしの前世の子供時代。


 何が嫌いかっていっても『理不尽』に勝るものは無かった。


 とにかくそんな理不尽なシチュエーションがドラマやテレビで流れるたびにもう見てられなくて。


 そこら中走り回ってしまうようなそんな子供だったのだ。


 今にして思えばほんと恥ずかしいけど。




 普段はいつも妄想ばっかりしていたあたし。


 いろんなお話を読んではそんな世界を膨らませてシチュエーションを思い描いたり。


 いつしか自分でもオリジナルなストーリーでおはなしを書く様になったのだった。


 ノートにコマコマ文字を書き連ね、そしてできたおはなしを仲のいい友達にみせたりして。


 ああ、ゆっこ。どうしてるかな。


 あたしがおはなしを自分でも書くようになったのは親友のゆっこの影響もあったかな。


 幼なじみの辻井幸子。彼女があたしにみせてくれたノートに書かれたおはなしを読んで。真似をしたのがたぶん最初だったっけ。


 なんだかすごく懐かしい。


 前世の世界でもう二度と会えないって思うとほんと悲しくなるけど、まあ、それもしょうがないのかな。



 はうあう。話が脱線しちゃった。



 そんなあたしが高校に上がる頃巷で流行り出したのが「小説家になる!」っていう名前のWEBサイト。


「になる」と呼ばれたそのサイトはあたしみたいなシロウトでも気軽にお話が投稿できて。


 そんでもっていっぱいの人に読んでもらえることのできる夢のような場所だった。


 中学の時は自分でホームページを作ってそこにおはなし載せてたけどそれでも「になる」みたいには読んでは貰えなかった。


 やっぱりね、自分でお客さん呼んでこなきゃいけない自前のホームページじゃぁ限界があるよねと思っちゃったのと、ホームページのメンテナンスに結構時間が取られて肝心のおはなし書くのが止まってたりしてたので、こうしたWEB投稿サイトができてくれてほんと嬉しかったのを覚えてる。


 テキストに自分でHTMLタグつけるのはほんと面倒で。


 まあでも、背景とかデザインには凝れたのでそれはそれで良かったのだけどね。最初はね。


 結局そのうち飽きちゃった。




「になる」は本当に沢山の人が訪れる場所だった。


 あたしのおはなしにもそんな沢山の人のうちのほんの一部、数人であってもそれはそれ。読んでもらえるだけ嬉しい。そう思ってたのだ。



 そう。


 あの時までは。




 あたしはあんまり流行りのおはなしには手を出していなかったせいかランキングとかにほんと疎かった。


 そう。この「になる」には「ランキング」っていうものがあって、読者がつけてくれた評価で順位が決まったりしてたんだけどやっぱりその上位の作品はとにかく目立つ。


 ランキング上位の作品は読者の数が段違いに多いのだ。


 ランキング上位になるから人気になるのか人気になるからランキング上位になるのかもう鶏が先か卵が先かのようなそんなはなしだけど、とにかく目立つにはランキングに載るしかないし、ランキングに載るには目立つしかない。


 目立つ作品には読者がつくし読者がつけばランキング上位につける。そうすればまた目立って新しい読者がつく。そんな感じで。


 でも、ね。


 この、ランキング上位の作品が軒並み「理不尽」なお話で埋まってた時があって。


 もういきなり理不尽に婚約破棄されたり。


 理不尽に虐げられたり。


 理不尽に宮廷を追い出されたり。


 理不尽に勇者パーティーをクビになったり。


 理不尽に処刑されたり。


 最終的にはその理不尽なことをした相手を見返す、いわゆる「ざまあ」っていう系のおはなしの形になってるんだけど、それでもダメ。


 あたしにはその最初の過程が我慢できなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る