第3話 メーベラ。

「姫さま。そろそろおきましょうね」


 カチャンと扉が開きメーベラが部屋に入ってきた。


 うん。覚えてる。彼女はとっても優しくて。あたしが大好きだった女性ひと


「あら。今朝は早起きさんだったのですね」


 そう微笑んでベッドを直すメーベラ。


 シックな侍女服に身をつつんだ彼女は「じゃお支度しましょうね」とあたしのところまで来て手を引いてくれた。


 化粧台に座らせて貰って。そのまま顔を拭いたり歯磨きをさせてくれたり髪をとかしてくれたり。


 されるがままのあたし。


 ああ、でも、この髪をとかしてもらってるときはほんと気持ち良くって好き。


 そう。


 いい子ですねって言いながら頭を撫でてくれるこのメーベラが、あたしは大好きだったのだ。


 身支度をされながらだんだんと思い出す今までの子供のあたしの記憶と感情。


 あたしの名前はアリシア。みんなからは姫さまと呼ばれてる。


 ねえさま二人にいさま二人。かあさまととうさまの顔も思い浮かぶけどあまりお会いできなくて。


 お忙しいんだろうとうさまはいつもむすっとしてたっけ。


 寂しかったあたしはいつもわがままを言ってはメーベラを困らせてた。


 でも。そんなあたしに優しく答えてくれるメーベラのことを、ほんとの家族のような気もちで慕ってたの。




 服を整えてもらって気分が良くなって。


 ふふって笑みを零すとメーベラ、


「昨夜は癇癪を起こしてしまわれたから心配してましたけど、もうご機嫌直りましたのね。良かったです」


 と、ニコっと微笑んでそう言った。


 はう。


 そっか。


 あまりにもたかぶった感情。


 昨夜寝るときはそんな興奮した状態でベッドに入ったっけ。


 おねだりして読んでもらった童話の本。


 虐められてる一羽だけ毛色の変わった鳥の子供。


 そんな出だしだった。


 って、あれ、醜いアヒルの子、じゃない? うん、お話のタイトルは違うけど内容は似てた。


 前世にもあったそんな良くあるといえば良くあるお話に憤って。


 虐められてる子と自分が重なった、のかな。


 とにかくそんな感じで興奮してしまった。


 今にして思えばね、最後には幸せになるんだからそんなに怒らなくてもいいのにって思うけど、幼いあたしはそれが我慢できず癇癪をおこしたのだ。


 ああごめん。なだめてくれたんだよねメーベラ。ほんとごめん。


「姫さまは持っているマナの総量も多いのですからあまり感情を昂らせるとお体に障ります。ほんとご機嫌が直って良かったのですよ」


 そう言いあたしの頭を優しく撫でてくれるメーベラ。


 はう。その手に傷があるのを目撃して。


「こめんなさい、もしかしてこれ、あたしのせい?」


 あたしの溢れた魔力によってメーベラを傷つけてしまったのだろうか? だとしたら……、あたし……。


「いえいえ。これくらいどうって事無いのですよ。気にしないでくださいませ」


 そう引っ込めるメーベラの手を追いかけて掴み。


「ダメ、だめ。はうあう、メーベラの傷、治って!」


 あたしはその掴んだ手を胸にあてて祈った。


 あたしのマナの色、金色の粒子が湧き出して胸の中の手を包む。


 そして。


「ああ、ありがとうございます姫さま。もう充分癒されました」


 そう笑うメーベラの瞳。


 離したその手からさっきまであった傷は無くなっていた。

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