第2話 これが噂の異世界転生なの?
あたしがあたしとして目覚めた時、そこは琥珀色に光輝くビロードで覆われた一室だった。
ふかふかのベッド、ふかふかのお布団。天蓋にもキラキラとした宝石が散りばめられているそんな豪奢な寝室。
まるで夢のようなそんな場所に居たあたしは、自分の身体が縮んでしまっていることにまず驚き。
ベッドから飛び降り近くにあった鏡台を覗き込んで二度驚いた。
金色でふわふわとしたお姫様のようなかわいい髪。蒼い
左目だけ少し金色っぽく見えるけどこれって左右で瞳の色が違うって事かな?
年の頃は……。まだ五つくらい? 小学校にも上がってないかなって年。
鏡の前でほっぺたをつまみ、その痛さにこれが夢では無くて現実だと認識する。
はう。これ、もしかして噂の異世界転生?
窓の外には長閑な田園風景が覗き、乗り出してみたお城のようなこの建物の下には細々した街並み。
どう見ても現代社会の何処かには見えなかった。
小鳥のさえずりが聞こえ、風の音が気持ちいい。真っ青な空には雲ひとつなく、昇り始めたばかりのような朝日がそこにあった。
あたしは
ううん。そうだったはずなんだけど。
どうやら今は違うらしい。とはいっても「この子」としての記憶もぼんやりとしてあるんだけどね?
亜里沙としての最後の記憶は大学からの帰り道。バイト先のドーナツ屋さんに向かってた最中だった。
今日はシフトが4時からで、3時に講義が終わったから急いで帰ってバスを降りて。
駅前のお店に向かう途中で。
あんまりギリギリだとアルバイトリーダーの右田さんがうるさいしなぁって思いながら交差点を渡り切った時。
背後できゃぁって声がした。
小学生? 高学年だとは思うけどそんな少女が躓いて転んだのだ。交差点の横断歩道の信号の点滅が終わり赤になった。
見えたのはものすごい勢いで右折しようとしてくる車。そりゃあ右折信号は出てるんだろうけどあんまりだ!
そう思った時には足が出てた。
右折車のあの勢いだと転んだ女の子が見えてないかも! そう思ったあたしは横断歩道に飛び出して、その女の子を抱き上げ……。
車の運転手と目があった。
あたしに気がついたその男性は急いでブレーキをかけハンドルを切った、ん、だろうな。
そんな表情が見えた所であたしの腰に車の端っこが当たった。
日本人としてのあたしの記憶はそこまでだ。
これがもし異世界転生なのであればあたしはあそこで死んだのかな……。
ああ、もっと色んなことを経験したかった。
もっともっと色んな小説を読みたかった。
だいたいさ、あたしがwebの小説サイトに連載してたお話にも少ないけれど読者さんがいた。あのお話を完結させられなかったことはほんと心残りでしょうがないよ。
まあ、でも。
死んじゃったものはしょうがないか。
こうして生まれ変わった? のならこの人生をちゃんとまっとうしなくちゃいけないよね。
そう思って深呼吸をしたら。
なんだか空気がとっても美味しかった。
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