第47話 堕天使が私にくれたもの(第一部終了です?)

 宵月レヴィアとしてデビューした時、私……【宵月レヴィア】がクラスメイトにバレないかどうかで怖がってたなぁ。


 しみじみと思い出してから、スマホの画面を見る。

 クラスBINEに【宵月レヴィア】のチャンネルが共有されていた。


 お昼休みの、いつもの校舎裏で、三波くんが顔を覆う。


「そりゃ、悪手じゃろ早乙女ぇ! 

 いきなりチャンネル送っても登録はしてくれねぇ!」

「んーーしてると思う。ばりばり成功してると思~~う」


 BINEの既読がつくと同時にチャンネル登録者の数がぴったり29人増えた。

 はーーいチャンネル登録ありがとうござまーす。


「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

「おぉう、どうした姫宮さん。レヴィアたんの谷間より深いため息だぞ」

「それは浅いの? 深いの?」


 首を傾げつつ、私は体育座りになって、膝に顔を埋める。

 早乙女さんのおかげで身バレはしなかったけれど……これからはクラスの皆が私の配信見るってこと⁉ 


「ぐあぅうぅうううううう‼」


 唸る! 唸るしかない、この現状! 今回はバレたくないと思っていた配信内容のおかげで、寧ろ身バレを防げたけども! 


 というか、私が一番驚いたのは、クラスの皆の反応だ。

 早乙女さんの言うことに納得したり、拍手したり……朝の出来事を思い出していたら、三波くんが私の顔を窺った。


「どしたの姫宮さん。朝のこと気にしてんの?」


 ビックリした。

 パッと埋めた顔を上げて、目を丸める。


「……三波くんって意外と鋭いよね」

「いや、姫宮さんが分かりやすいんだよ」

「そ! そんなことないよぉ‼」


 だからその冷ややかな目、やめてよぉ‼ むぅうう……もうやだ知らない。

 私は頬を膨らませて、そっぽを向いた……向いた……むい、た………………。


「あのっ、三波くん」

「喋るんかい」


 うるさいやい。

 私はこほんと咳を挟んでから、クラスの中心である三波くんに尋ねた。


「うちのクラスってあんな――――変だったっけ?」

「アレを『変』で済ます姫宮さんはやっぱり優しいね。でも違うからね。『終わって』んだよ、アレは」


「その言い方はひど過ぎるよぉ⁉」

「いいかい、よく考えてみるんだ姫宮さん」


 聞き分けの無い幼子に言い聞かせるように、三波くんはゆっくり首を横に振る。 

 そうして強く、強く自分の胸を叩いた!


「俺が『中心』になれてる時点で、そのクラスは『終わって』んだよぉ‼」

「す! すごい説得力だぁーーー‼」


 ていうか『中心』である自覚はあるんだね。なんか……生意気。

 ジトっと睨むけど、三波くんは気づいた様子もなく、


「まぁでもずっと前から、うちのクラスはあんな感じだけどなぁ」

「そぅ、なんだ――――知らなかったな」


 早乙女さんが変わってるのかと思ってた。けど、そうじゃなかった。


 淑やかで優しくて清楚って早乙女さんが言った時、クラス全員がハモってた。


 ――私ってそんな風に思われてたんだ。

 ――私ってそんな風に見られてたんだ。


 今日まで気付かなかった。

 気付かせてくれたのは――――Vtuberだった。


「三波くん。私、家が隕石で潰れてね」

「ぅん?」


「お母さんの助けになりたくて、いっぱいバイトしてて」

「隕石? え、姫宮さん?」


「これがその隕石なんだけど」

「持ってんの⁉」


 私はずっと胸に隠してたペンダントを取り出した。カプセルに入った錠剤くらいの小さな欠片に三波くんはびっくりしてた。


「先生から家が大変だってことは聞いてたけども」

「クラスにはそう伝わってたんだ。……思えば、これに奪られてたのかもね」


 自分の時間を。

 私が私でいられる時間を。

 それを取り戻してくれたのは―――――堕天使とその眷属達なんだ。


「ねぇ、三波くん。ちょっと聞いて良い?」

「ん、なに?」

 隕石に興味津々だった三波くんの視線が、私に向く。


「明日からどうする?」


 お昼休み、いつもの校舎裏で【宵月レヴィア】を語り合ってきた。

 でも、そもそもの始まりは、私以外にレヴィアを知ってる人がクラスにいなかったからだ。

 クラスの皆に【宵月レヴィア】が広がった今、三波くんは私と話す必要は……無


「え? 明日も語るでしょ? 何か変わるの?」


 三波くんは怪訝そうに小首を傾げた。

 それだけだった。

 日常が変わることすら想像つかないように、どこまでも純粋に。


「だって俺と姫宮さんは古参の眷属よ? 今日入ったばっかのひよっこ眷属に、俺のパトスを受け入れられるとでも? ていうかね姫宮さん‼ 姫宮さんにだけは聞いてほしいんだけども‼」


 そう言って、三波くんは急にズイッと私に詰め寄った。

 その勢いに、私の肩がビクッと跳ね上がった。


 あ、あれ? 三波くんって……こんなに押し強かったっけ?

 最初の頃とは違う雰囲気に戸惑いつつも、私は彼に続きを促した。


「な、なに?」

「――レヴィアたんが有名になってくれるのは嬉しいし感慨深いんだけど、なんかすごい寂しくて辛い‼」


「…………え?」

「いやだってさぁ~~! 武道館で楽しむのとライブハウスで楽しむのとでは、また楽しさの種類が違うじゃん⁉ まぁ要は反応してもらえる確率が減るだけって話なんだけど。でもVだって人気商売だし、いっぱい活躍していっぱい幸せになってほしいけどもさぁ~~~~~⁉」


 迷い、苦しみ、葛藤する一人の眷属を前に――――堕天使わたしは。


「ぷっ……あはっ! あははははははは‼」

「え笑うの⁉ 姫宮さんそこで笑うの⁉ 共感してくれると思ったのに!」


 幸せになってほしい。

 彼のそのワンフレーズが、私を陽だまりの幸せに浸してくれる。


「ふっ、ふふ! 反応してもらいたいんだぁ?」 

「まだ笑うか貴様、よしならば戦争クリークだ」

「三波くん……可愛いね」

「おぉん⁉」


 凄んでくる彼を傍目に、私は両手をうなじに回す。ペンダントは簡単に外れた。

 堕天使のモデルとなった隕石の欠片、それを三波くんに手渡した。


「あげる。着けてたら何か良いことあるかもよ……コメント読んでもらえたりとか」

「えっ良いの……っていや家潰した石が開運アイテムになるのかなぁ⁉」

「いいから受け取ってよ」


 どんなに恥ずかしくても、変なこと言われても。

 配信の感想を直接、言ってくれるこの場所は――――宵月レヴィアにとっても特別な場所なんだから。

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