第42話 収益化記念配信!(やさしく〇してあげます♡)

「あっ……はっ、はっ、はっ……はぁ!」


 息が続かない。

 目の前の配信画面が信じられなくて。


 青に緑に赤。

 いろんな色のコメントが流れるコメント欄を見るたびに肌がざわつく。


 んくっと生唾を飲み込んでから……私は配信ボタンを押すと同時に畳みかけた。


「待たせた眷属さぁ邂きゅあおうをちゅげし鬨の声んレビ! みんな! みんなみんなみんなみんなぁ‼ 収益化通ったぁーーーーーーー‼‼」


[ コメント ]

・ヒァウィゴォーーーー!¥500

・噛みまくり早口助かるぅうう¥500

・おめでとう!¥500

・おめでとう¥500

・おめでとうパパうれしいいいいい¥10000


「ふぁああああああ⁉  ちょっ、だめだよみんな、そんなっ、え⁉ と、飛ばし過ぎじゃないか眷属達よ⁉ そうだよ、配信前からもう飛んでてそんなだめだよ妾にそんな! ぉ、お金は大せt」


・これはお年玉!¥30000

・これは誕生日プレゼント!¥40000

・これはお歳暮⁉¥5000

・運動会頑張ったで賞だ!¥20000

・合唱コンクール入賞おめでとう!¥20000

・ハロウィンパーティ(コス代)!¥40000

・クリスマスプレゼント!¥50000

・イースター!¥30000


「ほぅああああああああ⁉ ちがぅうっ‼ なんか違うお祝いしてるぅ‼ 妾の知らない未来のイベント過ごした眷属パパがいるぅ‼ まってごめんなさい妾知らないんじゃけど⁉ その記憶、存在しないんじゃけどもありがとぉおおお~~~~~‼」


 うじゅ……と、目じりに涙が溜まって、唇が震える。

 募る気持ちが渋滞起こして、嗚咽がこぼれる。

 だめだ泣いた声聞こえちゃ……両手で口を抑える。


「ぁっ、ごめっ……っ~~~~! ごめんなさっ、ぅっ、ぁあああああん!」


[ コメント ]

・どうしたの⁉

・ええええ号泣⁉

・え、え、え、⁉

・ご、ごめんなさい¥2000

・殴りすぎだヨォ!¥1000


「ちっ、ちがうの! ごめっ、ごめんね! ちがうの、うれしくて……うれしくて……」


 ゆっくり深呼吸。

慌てて首を振って、嗚咽を止めようと胸に手を当てる。


 いいのかなぁ? 

 わたし、こんな幸せでいいのかなぁ?


 このコメント一つ一つが、私よりも大変な思いして、たくさん働いて手に入れた大切なお金で。


「いいの……? わたしで、良いの? こんなっ、わたしなんか」


[ コメント ]

・ええんやで

・それは言わん約束だろぅ

・レヴィアたんが良いんだよ

・ハァーーー???殴るぞてめぇ(金で)

・貰った給料の使い道までとやかく言われたくないねぇ‼

・ごめんよりありがとうって言って

・わらって


 ――――わたし、やっぱりダメだ。

 わらってって言われたのに……涙が止まらない。


「すき」


 指でもにっと、濡れた頬を持ち上げて。


「すき……だいすき。ありがとぉ……だいすき。すき」


 目も心も眷属も、温かくて。返したいのに、一つの言葉しか出てこない。


「だいすき」


[ コメント ]

・んんっ、ぅん

・あかん、めっちゃニマニマしてまうあかん

・ねぇこれで堕天してんのホンマ謎なんだが

・どっかの天使メイドより天使だわ

・愛してるゲームだったら、わいら残らず大敗北

・無双ゲー(堕天使にとって)の同義語じゃねぇか


 その、一つ一つ流れるコメントを愛おしく眺め続ける。

 

 私は知ってる。

 待機中のコメント欄で、学生だからスパチャできないって言う眷属達に、「任せろ」と返した大人の眷属達がいたことを。


 塗れた眼を拭ったら、もう視界は潤んでいなかった。


「だいすきだよ、みんな――――ありがとぉっ!」


 もう指で頬を持ち上げなくても良かった。

 まっすぐに「ありがとう」を返せた。


 すぅっ。


「さて! じゃあ今回は収益化記念配信ということで」


 

 事務所のKU100マイクに、切っ先を向けて、私はしっかり笑う。


「――――殺してあげるね、眷属みんな♡」


 ありったけの感謝を、愛情を込めて、始めます。

 やさしく殺すASMR。

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