第31話 身バレまずいマジで(早乙女さんは孕みたがってる)
目覚ましのベルが鳴った瞬間、叩いて黙らせる。
そうして私はそのままもぞもぞとベッドに潜り込んで……。
「何してんのほら姉、起きろ」
「きゃああああああああああああああああああああああーーーーーーー!!!」
「事件性のある悲鳴やめてくれる?」
呆れる伽夜ちゃんから毛布を取り返して、それにくるまりながら話をする。
「学校行きたくないぃい? 甘ったれんな、
「うぇぇえーーーーーん! 昨日から妹が怖いぃぃいい!」
姉妹で毛布の奪い合いが始まる。
事の始まりは……ついに【宵月レヴィア】のチャンネル登録者数が10万人になったところから。
近々、銀の盾が郵送されるらしいし、眷属のみんなもすごい喜んでくれてた。
私自身、信じられない想いだしすごく嬉しいけれど……けれども!
「万が一、クラスメイトにバレたらどうすんの⁉
私がお〇っこス〇ブラしたりASMRで先輩襲ったりメスガキムーブかましてマイク食べてたことがバレるんだよ⁉ 恥ずかし過ぎるでしょお⁉」
「ほとんどお姉ちゃんの自業自得じゃない⁉」
ンンンンンンンンン、正論んんんん。
こんなことなら、バレても誇れるような配信内容にすればよかった……。
でも心配なのは身バレだけじゃない。
「それに声! 早乙女さんとか三波くんは『似てる』って言ってたけど……いつかはバレるかもしれないじゃない」
「大丈夫よ、あいつらバカだからどうせ気付かないわよ」
「辛辣過ぎない、伽夜ちゃん⁉」
とにもかくにも、私はもう学校に行くのが億劫になっていた。
でも伽夜ちゃんはめんどくさそうにボサボサの髪を掻いて、下の玄関を指さす。
「休むにしても、ベッドから出て直接言ってよ。お友達が迎えに来てるから」
「……お友達?」
私は眉をひそめながらも、仕方なくベッドから出た。
伽夜ちゃんの言ってたことは、玄関を見ればすぐに分かった。
「姫宮さん! 一緒に学校行きましょ!」
「早乙女さん⁉」
健康的なスポーツウェア姿の早乙女さんは、軽く息を弾ませて、爽やかに笑う。額を伝う汗がきらきらと散った。
「どうしてここに⁉ たっ、たしか早乙女さんの家ってここからだと遠いよね?」
「姫宮さんあたしの家知ってたの⁉ 嬉しいいつでも来てね!」
「あ、うん、その時はお邪魔させてもらうけど……逆になんで私の家分かったの?」
「良いの、気にしないで! あたし自主練で毎朝30キロ走ってるから!
むしろ姫宮さんのお迎えと自主練どっちもできて、一石二鳥というか!」
「微妙に話が噛み合わないなぁ、早乙女さん」
笑顔がまぶしい……直射日光かな?
その割にはなんか怖いけれども……早乙女さんの笑顔を見てたら、自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。私はクスッと笑って、
「ちょっと上がって待ってて。急いで準備するから」
「ほぉぅへぇ⁉ 上がっていいの⁉ 部屋に入って良いの⁉」
「…………玄関で座って待ってて」
さすがの私にも、防衛本能が働いた。
私はパタパタと着替えて、伽夜ちゃんの髪整えて、そう待たせることなく早乙女さんと登校した。
「姫宮さんは昨日の堕天使様の配信見た⁉ 初めて見たVtuberのリアタイで、あんな瞬間を迎えられて、控えめに言って昇天だったわ!」
「そ、そぅだねぇ~~」
「あぁ、早くスパチャ解禁されないかしら? そしたらテニス部の部費捧げるのに」
「おいやめろ、マジでソレはやめろ」
罪悪感半端ないから。普通に停学ものだから。
堕天使になった私が、テニス部に貢がせる想像をして、胃が縮こまる。
「それにあたし、昨日初めてコメントを送ってみたの! ほんとすごい偶然よね、同じ日に同じタイミングで同じ体験が出来ただなんて」
「そっ、そそそそうだねぇ~~~」
動揺して、声が跳ねる。ん? ていうかそれって……
[Sヴァルキリー:初コメです。あたしも最近ずっと気になってた子と友達になれました。奇遇ですね]
Sヴァルキリー……
そっか、普段何気なく見てるコメントだけど……あの中に身近な人がいる可能性もあるんだよね
「ねぇ早乙女さん。ぁの……耳舐め」
「控えめに言って二回イッて一回お母さんになったわ!」
「まだ最後まで言ってないし、今のは聞かなかったことにしてあげるけど、人前で言うなよそんなこと‼」
「ったく、どいつもこいつもパパになりやがって……あたしだってママになりたい! 堕天使を受胎したい‼」
「下腹部を擦りながら言わないでほしい。神経が苛立つ」
早乙女さんは何になりたいんだろう。
あぁ、ちょっと配信の感想聞きたかっただけなのに、なんでこうなるんだろう?
とにかく今言えることは―――--私がレヴィアだってバレたら確実にまずいってこと。
バレたら最悪……「あなたの子よ」って認知迫られそう。
「ねぇ、姫宮さん」
「んっ、なに?」
呼びかけられて、パッと顔を上げる。
すると早乙女さんはじぃっと私を見つめたまま
「姫宮さん」
「ぅ、うん?」
「姫宮さん姫宮さん姫宮さん」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと⁉ 急にどうしたの」
早乙女さんは私を見つめたまま、顎に手をあてて、眉をひそめた。
「……うん、やっぱり。姫宮さんの声って堕天使様にそっくりね」
「――――――――――さよなら私の声帯」
ごきゅんと自分の喉に親指をめり込ませる。
第一関節まで。
激しく咳き込みながら倒れた私を、早乙女さんは悲鳴を上げながら担いで走った。
結果、朝は保健室で過ごすことになった。
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