第29話 パパって単・純♡(私、配信のコツ分かってきました)

 あはは、あははは、わかっちゃった。わかっちゃったなぁ~~~~私ぃ。

 コメントに溢れる自称パパに、ニマニマしながら私は言ってみた。


「ふふっ、なんじゃ眷属達ぃ~。急にコメント飛ばしてきてさぁ~。なになに? 『おいで俺がパパだよ』? 『パパのところに帰っておいで』? あははっ、妾、パパ多すぎじゃろぉ」


[ コメント ] 

・もう一回言って欲しい

・初見です。パパになれると聞きました

・おらっ、パパ志望者は列に並べ!

・ラーメン〇郎並みの長蛇なのですが

・何してるんだ宵月。ほらお家に帰ろう、ママが待ってる


 私のママは日本中、トラック走破してるっての! 

 既に家庭を築いた前提のコメントに私は噴き出す。

 もう一回言って欲しいってみんないっぱい言ってるなぁ……。


 尖らせた唇に指をあてて、「ん~~」と考え込む――――――フリをして。


「ヤダぁ」


 嘲笑混じりに、断ってみせた。


 コメント欄におねだりの声が飛んでくるけど、私は無邪気に足をジタバタさせながら首を横に振った。

 

「やだやだやだーーー。だって眷属達ってさぁ、妾のパパになりたいって言ってるけど―――――結局ェッチなことしたいだけでしょお?」 


[ コメント ]

・は?

・は?

・は?


 ふーんだ! 前みたいにそんな塩コメントしても、効かないもーん‼ 


 だってみんなの本心なんて分かってんだから! 

 自分の優位を知った私に、もう隙は無いんだから!


「え、だってさぁ。妾があの下種ネコとス〇ブラした時、みんな猫の方応援してたじゃあん。それってつもり……みんな期待してたんでしょお?」


「んっ」と息を止めて、マイクに近づいて――――――ゆっっくり、吐息混じりにささやく。


「漏・ら・す・の・と……朝チュン」


 口に出したら、可笑しさがお腹の中で震えて、口の端から漏れ出す。


「えーやだぁww 娘にそんなこと期待する、怖いパパのところには帰れないなぁーーーーwww?」


[ コメント ]

・あ?

・ア?

・はぁ?

・お? んだこいつ? おん?

・んだテメコラ

・こンの……クソガキがっ!

・お父さんそんな娘に育てた覚えありませんよ‼


「あ……そぅいうこと言うの? じゃー……どっか行っちゃおかな、妾」


[ コメント ]

・ん?

・え

・おっとぉ?

・こ、こいつぅ‼


 なんか半ギレっぽいコメントも多いけど、それと同じくらい……困ってる様子が伝わるコメントがある。


 優越感が昂って、肩がだんだん吊り上がっていく。


「眷属のみんなぁ、ねぇ、妾あの時、けっこー傷ついたんだぁ。味方だと思ってたのに……悪いことしたら、どうするんだっけ? ね?」


 言わせたいワードを思い描いて、そっちにみんなを誘導する。

 あぁ、羊飼いってこういう気分なのかな? 


「ほぉらぁ、娘に教えなきゃ。示さなきゃ。悪いことした時はどうするんだっ……け?」


そうして私の頭の中にしかなかったワードが――――コメント欄に、浮かび上がる。


[ コメント ]

・ごめん

・ごめんね

・すまない、レヴィア

・パパが間違ってた

・ごめんなさっ、くそぉおおお!


 ずぅっとにやけていた自分の頬が、一気に華やぐのが分かった。


「ぅん! いいよ、パパ! 許してあげる。あはっ、パパだいすきーー」


 やった、やったよ。


 Vtuber生活初めて四日目。

 いつも伽夜ちゃんやキャスパーや眷属のみんなに振り回されてきたけれども……


 あ、やばい――――楽しい!

 感謝の声が水みたいに流れるコメント欄を、晴れやかな気持ちで見つめる。

 ぇへへっ。これでわた、し…………?


 違和感。

 感謝に溢れるコメント欄の流れに引っかかる、一つのコメント。


[ コメント ]

・トリプルウェーブ:これで仲直り

・サードウェイブ:仲直りできたね

・甦りし第三の波:じゃあ仲直りの印に

・スリーブレーカー:やろっか     


[トリプルウェーブ]ってユーザーネームのコメントに続いて、同じようなコメントが投擲される。


 最初は川の中に紛れる石が……だんだん岩になって……流れをせき止めて。


[ コメント ]


 ぶわっ! と優越感が冷や汗になって噴き出す。 

 

 はれ?

 なんか……流れ――――変わってませんか?

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