第28話 雑談配し――いや初配信だ!(堕天使……覚醒しました?)

「ふぁーはっはっは! 待たせたな眷属達! さぁ、邂逅を告げし鬨の声を上げようぞ! こんレビぃ!」


[ コメント ]

・あっ、つっかえてない!

・一息で言えてる⁉

・えらいね~


「……ぁっ、はぃ、ありがとございます。ぅうぅ~~~っ!」

 やっぱこれはっっっずいよ、伽夜ちゃーーーーーーーん!

 体内で羞恥心エイリアンが暴れた結果、バタンッと配信台に突っ伏して、足をジタバタさせる。


[ コメント ]

・挨拶で倒れる最弱Vtuber

・クソ雑魚堕天使

・なんかこの挨拶、すごく懐かしく感じるな

・初配信でしか言ってないしねぇ

・実質、一度も上がってない鬨の声

・ASMRみたよーーーーすごく良かった!



「うるさぁーーーーい! わ、妾だっていっぱいいっぱいだったんじゃあ! ていうか、一回くらい鬨の声上げてよぉおおおーーーーーーー! ご視聴ありがとうございます!」


[ コメント ]  

・そうだね、膀胱いっぱいいっぱいだったね

・そうだな、性欲いっぱいいっぱいだったな

・卑しか天使ばい


「いっぱいいっぱいってそういう意味じゃないからぁ! なんなんじゃよぉ、もぉ⁉ き、貴様らは妾の眷属じゃろうがぁ! こんレビの『こ』くらい言ってくれても良いではないかぁ!」


 直後、コメント欄に『こ』の濁流があふれ出した。

 うわーーーーーーーーーーん‼ 

 こうして宵月レヴィアの雑談配信は、堕天使のすすり泣きから始まった。


 すんすんと目をこすっていたら、レヴィアも悲しそうにまぶたを閉じていた。しょぼんと頭に生えた翼が垂れ落ちる。

 

「はぃ……じゃあ、雑談……はじめたいと……おもいます」


[ コメント ]

・テンションひっっく!

・挨拶との落差よ

・機嫌直して~~


「……こんレビって言って」

 眉尻が下がって、ジッと配信画面のコメント欄を睨む。そしたら画面のレヴィアがむむっと口を尖らせて、眉毛を八の字にした。


「こんレビって言ってよぉお……なぁんでみんなしてくれないんだよぉおお……わ、妾だって今回はちゃんと言ったのに! 恥ずかしかったけど挨拶したのにぃ!」


[ コメント ]

・めんどくさっ!

・めんどくせぇ……

・ダル絡みじゃねぇか

・めんどいなぁ

・はいはいこんレビこんレビ

・しょうがないなぁ……こんレビ

・こんレビ~


 ――――――言ってくれた……ッ! 

 福音は堕天使にも降りてくる。輝く私の表情を、レヴィアもキャプチャして、パァァァァっと明るくなる。


「は、はぅわ……えっ、すっごい! 今、すっごい、胸の中晴れた! パァーーーって!嬉しいぃぃ……っ! ありがとぉ、眷属ぅ!」


[ コメント ]

・あれ、これどこの幼女だ?

・挨拶したら幼児退行した……

・誰だ! 創作に都合の良い薬持ち出したのは!

・こんレビは幼女化の呪文だった?


「あ~~……なんか……なんか妾――――初めてちゃんと配信できた気がする。初めて、その、Vtuberになれた気がする」


[ コメント ]

・そして時は巻き戻る

・そうか、これが初配信なんだな

・こんにちは、はじめまして

・初見です

・やめろ、訳分かんなくなる

・アーカイブ三つあるけど、これは初配信だイイネ?


 あはは、あっはっはっは! なにそれぇ~~~? 嬉しくてコメントがおもしろくって頭ふわふわする。なんだか一人で配信してると、いっつもこうなってくるなぁ――――そうだ。にまっと笑って、思いつきを実行してみる。


「えへへ、こんにちは~~、はじめまして、レヴィアです! 天界からやってきました! お友達になってくだしゃい!」


[ コメント ]

・こーーーんにーーちはーーーー!

・こんばんわだろうが

・帰れ歌のお兄さん

・友っ達100人できるっかな

・酔っぱらってる? ねぇ酔っぱらってる?

・知らんのか、こいつはセルフで酔える


「アルコール要らずの自家発電天使でぇーす。エコじゃろ? 妾エコじゃろ? まだね、妾飲めないからねー、天使の肝臓機能はよわよわなのだ。後3年待つのじゃ!」


[ コメント ]

・やっぱクソ雑魚じゃねぇか!

・自家発電はアカンて!

・えっちですねぇ

・ヤッパリ・コイツハ・ムッツリだ!

・これは飲酒配信楽しみだな、ぜひセンシティブに引っかかってほしい

・俺、夢だったんだよ……娘と酒飲むの


 ? なんでエッチって言われるの?

 ちょっとよくわかんなかったから、スルー。そしたらコメントの『娘』ってワードに堕天使アイズが反応した。

 あぁ……そういえば。ふと心のメモが開かれる。こないだ三波くんが言ってたことを思い出して、やってみる。


「―――――――ねぇ、パパぁ」


 川面に投げ込まれる巨石の如く。

 私の何気ない一言は、大きな波紋を生んだ。


[ コメント ]

・なんだい、レヴィア

・どうしたの、パパはここにいるよ

・当然のようにパパだと思ってやがる!

・は? 俺がパパなんだが?

・どけ、俺はパ(以下略)!


 それはスマブラ配信の再来だった。自分をパパだと思う眷属達が「どけどけ」と大挙する様を見下ろして、私は「ふむ」と納得する。

 やっぱり三波くんの感性って、けっこう当たってるのかな。こうしてパ(略)が大量発生してるのが良い証拠だ。


「……ふぅん」

 なんか、なんだか。

 胸がウズウズしてくる。頬が持ち上がってきて――――ふふっと声が漏れる。


「かわいいなぁ……変態みんな


 あぁ、なんだか――分かってきたかも。

 割と本当に、これが宵月レヴィアの真の初配信なんじゃないかと私は思った。

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