第8話 もうヤダ助けてパパぁ!(コラボ配信、始まります)
「こ、こんレビ! 待たせたな眷属達よ。
ヘブンズライブ所属、宵月レヴィアである! そして! 今宵、宵月家に訪れたのは、この猫!」
「大きいち〇こには棘がある。どうもはじめましてこんキャスです。個人勢Vtuberキャスパーです」
かひゅ、って声、初めて喉から出た。
負けるな……負けるな私ぃ……っ!
初手の挨拶からくじけそうになった私は必死に立て直そうと、笑顔を浮かべる。
笑えばいいと思うよ。そう残してくれた三波君のアドバイスの通りに。
「ふ、ふは、ふはははは! それにしても今日はVとして先輩であるキャスパーさんに来てもらって本当にありがた」
「えー今日は天使の聖水が飲めると聞いたので来ましたにゃん。という訳で天使、コップ持ってきたから駆けつけ一杯だにゃん」
ことん、とコップを置く音がヘッドフォンの向こうから聞こえてきた。
スゥーッと、息を吸えば吸う程、顔が青ざめていく。
「ア、アハハタスケテアハハ! アハハハハハハハハタスケテタスケテタスケテ」
三波君、あなたの言う通り笑ってみたけどやっぱり無理だよ。
私の引きつった頬をアバターのレヴィアが反映したまま、キャスパーさんとのコラボ配信が始まった。
「え、と、えあ……そ、それでは企画の説明を……」
いや、ていうか――――本気でコレやるの⁉
信じられなくて、信じたくなくて、このコラボを企画した伽夜ちゃんを見るけど……読むべきカンペの内容は変わらない。
「き、企画の説明を……ぁ、ぅあ」
はくはくと空気を求めて喘ぐ。
声が出ない頬が熱い恥ずかしすぎて涙出てきた。
配信に禁物の無言が続いて、でもぜったい口にしたくなくてわたしは!
「~~~~~っ! キャスパーさんお願いしますぅ‼」
「えぇ? 僕がいうのぉ? 枠主、君なのにぃ? えぇそれってどうなのかなぁ? 僕、招かれた側よぉ? 頼むにしても言い方ってあるよぉねぇ?」
こ、この下種ネコォ‼
こんな奴に頼まなきゃいけないだなんて……悔しくて、くぅっと歯を噛みしめる。
「お、おねがいしますキャスパーさん……わ、妾こんなこと口にできないから……言えないから……こ今回のルール説明をおまかせしてよろしいです、か」
「負けたらがぶ飲みぃ! ぅお〇っこぉ我慢スマブラぁぁぁあああ‼ 負けたら朝チュンASMR配信決てぇぇぇえええええい‼‼」
「聖水ぃ! せめて聖水って言ってよぉ! バカァ! 変態! えっち! もうヤダたすけてパパぁああああああああああああああああぁああああああああああああ‼」
今朝やめたばっかりの、元バイト先の店長に私はみっともなく助けを求めた。
[ コメント ]
・どけ! 俺がパパだぞ!
・なにやってんだよ店長ぉ!
・パパ(店長)の大群が押し寄せている⁉
・くっっっっっっっそwwwww
・ASMR⁉(ガタッ)
・朝チュン⁉(ヌギッ)
コメント欄は、『自称パパ(店長)を名乗る
その混沌を前に、私は顔を手で覆って呻くことしかできなかった。
その間にノリノリのキャスパーさんがルール説明に入っていた。
配信ルール
①5本勝負
②勝負に負けたら1杯分のお茶を飲む
③負けた方が罰ゲームをやらせる。罰ゲームの内容は勝者の自由。
「あれ?」
「ぅん? どうしたんだい、レ・ヴィ・ア」
区切って呼ばないで、怖気が止まらない。
……って言いたいのを我慢して、私はおそるおそる尋ねた。
「あの、妾が勝った場合の罰ゲーム決めてないような……?」
キャスパーさんが勝ったら、私の次回の配信は朝チュンASMRになる。
じゃあ、私が勝ったら、キャスパーさんは何をするんだろう?
ふとそこが気になって聞いてみたら、キャスパーさんが――――可愛いもふもふ猫のアバターがパチクリと目を丸めた。
「え? 決めなくて良いでしょ。だって僕に勝てるわけないんだから」
――パチン、と視界が瞬いた。
くらりと眩暈を覚えるほどの、怒り。
「では、こうしよう。もし妾が勝てば」
手を掲げると、私の意図を察した伽夜ちゃんが電動カミソリを手渡してくれた。
かちっとスイッチを入れ、刃が回転するカミソリを、マイクに近づけた。
「 その毛、ぜんぶ刈り堕とす 」
泡みたいに白くてモフモフな『ガワ』の毛も!
変態なことばっかり言う、『魂』の方の毛も!
一本残らず!
「カミソリの準備をしておいて貰おう。配信で眉毛も頭髪も刈らせるぞ。
丸刈り差分のガワも用意してもらうぞ。諸々の依頼料の準備もしておくのだ。
ガワも魂も! もろとも丸ハゲにされるのを楽しみにしておけぇ‼」
自分の口と思えないくらい、つらつらと飛び出た言葉。
そんな私への返答に、キャスパーは首を傾けて「ハハッ」と笑って一言。
「負け犬が吠えてる」
これより、
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