第7話 マジでキツい淫乱猫(女性のみんな、逃げるよ!)

「どう? レヴィアたんの寝言。本当ふにゃふにゃでかわいいよね。

ちょっとしたASMRだよ。ぜひとも寝起き凸配信をやってほしい」


 はぃぃ、分かりました、一考しておきます……。


「? なんで顔隠して小刻みに震えてるの?」

「か、かわいすぎてぇ! つらぃなぁ!」


 私はヤケクソ気味の自画自賛を叫ぶ。

 でも当然だけど彼は気づかず、むしろ指をぱちんと鳴らす。


「分かりみが深い。尊みの過剰摂取だよね、見た者を心肺停止に追い込むなんてさすが堕天使、罪深い」


 冤罪だよぉ‼ 

 わたしそんな悪くないよぉ! 諸悪の根源、私の妹ぉ‼


「? なんで口パクパクしてるの?」

「……(真実を伝えられなくて)つらたん」

「ね、つらたんだね、プリティはギルティだね」


 プリティギルティレヴィアちゃんってか? こいつぁ傑作ダゼこんちくしょうめ。

体育座りしてた私は、両ひざの間に顔をうずめた。


 伽夜ちゃ~~~~ぁン! どんだけ私の寝言と鼻歌投稿してんの⁉ まさか30本以上あるとは思わなかったよ! 


 帰ったら妹が痙攣するまでくすぐろうと思った。そんな風に復讐の決意を固めてたら、ふと三波君のスマホ画面が目に入った。


 宵月レヴィアのチャンネルに今夜の配信のリマインダーが表示されている。サムネにいるレヴィアとを見ながら、私は三波君に聞いてみようと思った。


「ね、ねぇ三波君。キャスパーってどんな人? い、いやね? 今夜、あの人とレヴィアちゃんコラボするじゃない? 私、他のVtuberは詳しくなくて」

「あー……キャスパー、ね。うん……あれは、個人で活躍してるVtuberでね」


 あ、あれ? なんだろう? テンションが露骨に落ちてるような。

 明らかにローテンションだけど、三波君は語ってくれた。


 キャスパー。

 私みたいに企業事務所に所属していない、個人で活動しているマスコット系Vtuber。白くてモフモフの毛、ぴょこんと立った長耳に……子猫特有の、あの魔性の魅力を秘めたプリティフェイス!


「かっ、かわ! かわいぃーーーー‼」


 キュンッと胸の中が絞めつけられて、声が絞り出される。可愛すぎてぱたぱたと悶えてたら、三波君が「猫好きなの?」と尋ねてきた。


「うん! だいす……き」

 パァッと心の底から笑顔になれそうだった私の声はは……を前にして、しりすぼみ的に小さくなった。


「そっか……そっかぁぁぁ~~~~~~」

「え、え? ど、どうしたの?」 


 なんだろう、なんかこの反応見たことある気がする。

 少し思い返せば、すぐに思い至った。

 ――昨日のコメント欄とまったく同じ反応してる⁉

 同級生に他人の寝息を聞かせてきたあの三波君が、躊躇いながら聞いてきた。


「……知りたい? どんなVtuberか」

「え、う……うん、知りたいよ。だって……」

 だって今夜話す相手なんだもの。


 なのに昨日のコメント欄しかり三波君の反応しかり……どんどん怖くなってきた。

 でも私分かってるんだよ……ラストまで見ないで中途半端に見たホラー映画が一番怖いって!


「――分かった。じゃあ、キャスパーのSNSのアカを送るよ」


 ほどなくして、さっき交換した三波君のラインから、URLが送られてきた。


 あれ? 話してくれないの?

 私がそう思ったのが伝わったのか、彼は念を押すように言った。


「いいかい、いくら俺でも同級生の女子にアレを見せるのは躊躇うんだ。見るなら自己責任で見てくれ―――俺には責任が重い……」

「ぇ、えぇぇ……そんなに変なの?」


 私は首を傾げた三波君からスマホの画面に目を移した。

 そしておそるおそる……URLをタップ。


 キャスパーさんのSNS上のアカウントに飛んだ。

 うん、プロフもアイコンも別に普通…………………………………………


『ぼんような猫ならたべてねるだけだろうけど、僕はお〇にーもできるえらいねこだ。にんげんよ、ほめたたえよ、〇こ〇こできてえらいねってほめたたえよ』

『ねこのにんしんりつは百パーセントなのだ。つまり僕の〇ん〇んはNTRの竿役に適役なのである』

『クレアちゃんによしよし〇ゅっ〇ゅっされたいなぁーー、ステラちゃんのちっちゃい手でもふもふしてもらったあとにぎこちなくしこ


 スマホを投げた。

 今までこんな剛速球投げたことないってくらい、ぶんなげた。

 140キロはかたかった。


 肩が震える息が荒い。

 がたがたと震える肩を両手で抑える私を……三波君は遠い、優しい目で見守ってくれていた。


「ご……ごめっ、なっ……ごめなさい。こ、こんな時……どんな顔したらいいか……分からないの」


 息絶え絶えに、でも私はやっと言葉を紡げた。

 三波君は私のスマホを取ってくると、優しく微笑みながら、


「笑えばいいと思うよ」


 と、スマホを渡した。


 その言葉は、動揺した私の目を覚ましてくれた。

 ばきばきのスマホを握りしめて、私は目に涙をためたまま、彼を見上げた。


「笑えないよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーー‼‼‼‼‼」


 今夜21時、キャスパーとコラボします。眷属のみんな、見に来てね


                  19時23分 宵月レヴィアのつぶやきより

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