第6話 推しを語り合う仲になりました(推しは私自身です)

「宵月レヴィアは間違いなく次にクるVtuberだよ。姫宮さん、Vtuberって前から見てたの?」

「あ、いや、妹が見てたのを横でちょっこっとだけ……」


「そっか、それで宵月レヴィアを知ってるのすごいね。推すタイミングは人それぞれだけど、レヴィアたんに関しては今が推し時だよ」

「れ、レヴィアたん……」


「愛称だよ、レヴィアタンっぽくて良いよね。昨日、初配信だったんだけどすごく可愛かった」

「か、かわっ! かわ……かわ……かわ」


「そう、俺も最初はガワから興味持ったんだ。

ヘブンズライブのステラってVtuberが描いてるんだけどさ。

ほんと可愛い。でも俺が本当に好きになったのは最初の挨拶でさ。堕天使の威厳っぽさを出すロールプレイなんだろうけど、あまりにも似合ってなくて可愛いよね」

「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~っ!」


「初配信見終わってから、チャンネル覗いたんだけど、準備の周到さもすごいよね。声出しのショート動画でお風呂鼻歌は最&高だった。ココロ〇ドルをあんな可愛くできるのは天性の才覚だよ。湯舟の水音も良き」

「っ! っっ‼ ~~~~~~~~~っ‼‼(声にならない悲鳴)」


「でも俺は寝言の方もイチオシなんだよ。ムニャムニャ感がすごく庇護欲かきたてられるというか……撫でたい、頭撫でたい。イヤホンあるけど聞く?」

「勘弁してください……おねがひしまひゅ……」


 こてんと地面に転がった私は「はぁはぁ」と息絶え絶えで彼にお願いした。

 悶え過ぎて息が辛い……! いやもう彼の語りが辛い!

 三波君、真顔で淡々と推し語りしないでよぉ!


 クラスの中でもクールイケメンとして知られてる彼の鉄面皮はすごい強度だった。

 ぴくりとも動かないんだよ、表情筋。

 なのに目だけは無邪気に燦然と輝いてるんだよ!


 彼は自重して、話し始めた。

「……ごめん喋り過ぎた。嬉しかったんだ。Vtuberの話できる人、いなくて」


「え、でもさっき話してたよね? れ……レヴィアちゃんのこと」

「あれはどうしても話したくて。でも、あんまり伝わってなかった」


 校舎の壁に頭をくっつけて、彼は遠くを見上げる。

 その瞳は、伽夜ちゃんと同じくらいキラキラしていて。

 だけど。


「好きなものを語り合いたいだけだったんだけどなぁ……」


 少し寂しそうで――――昨日起こった、特別なことが脳裏をよぎる。 

 気付けば私は、堕天使だった自分を脳裏に描いて、口を開いていた。


「じゃあ、私と語り合う? ――【宵月レヴィア】」

 

 昨日、眷属が、リスナーみんなが【レヴィア】を好きだと言ってくれた。可愛いと言ってくれた。

 三波くんも、その内の一人なんだと思ったら……口が勝手に動いていた。


 彼はきょとんと目を丸くして――――鉄面皮が、綿毛のように解けた。


「ぇ……良いの?」

 

 本当に同い年なのかな?

 そう思っちゃうくらいキラキラな目に、私はふにゃって頬が緩んでしまった。


「私で、良かったら」


 こうして私は、三波君と【宵月レヴィア】について語り合う仲になった。

 彼は続いて嬉しそうに口を開いた。


「――――え?」


「はい、イヤホン。いやさっきも言ったけど、俺のイチオシは入浴鼻歌じゃなくて寝言の方でさ。想像以上のふにゃふにゃっぷりで、しかも出てくる単語が『なんでそれ?』みたいなものばっかで」


 キュッと問答無用で、耳にイヤホンを詰められる。

 初めてクラスメイトの男の子とイヤホンを分け合いました。

 聞くのは自分の寝言です。


「一体レヴィアたんってどんな夢見てるんだろうね」

「…………ホントにね」


 この後、私はめちゃめちゃ悶えまくりました。

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