第5話 身バレこわいよぉ!(クラスメイトが私を推してました)
バイトやめてきた。
というより「やめさせられた」って言った方が近い。
『いいねいいねぇ! お姉ちゃんやっぱ最高だねぇ!
もう収益化の条件クリアしちゃったよ⁉ すごいよぉ!
これからも一緒に配信頑張ろうね、お姉ちゃん! あ、ちなみにバイト先に辞表出しといたから、もう行かなくてよいよ』
これが、妹が起こしにやってくる微笑ましい日常シーンのセリフである。
ぅぅうう、朝から胃が縮んだよぉお。
珍しく伽夜ちゃんに起こされた私は、学校に行く前にバイト先のコンビニに行って確認してきた。
マジだった。
「怖い……もう怖い……伽夜ちゃんが怖い」
私の筆跡そっくりの辞表を見た時の寒気は、未だに収まらない。
春のお日様はぽかぽか温かいのに、胸の中は冷え冷えだった。
冷え冷えな原因は分かってる。
朝日に照らされた通学路からスマホに視線を落とす。
そして【宵月レヴィア】のYUTUBEチャンネルを見る。
わぁ~~、4桁超えてりゅ~~~~~。
色々悟った私の顔をパァ~~とお日様が照らす。
そして笑顔のまま、私はガクンと膝から崩れ落ちた。
「どう、しよ……どうしよどうしよどうしよどうしよぉ~~~~⁉」
不安に叩き伏せられた私は、ひしっと電柱にすがりつく。
――――バレてたらどうしよう⁉
昨日、配信が終わった後ふと考えちゃったんだ。
……もしクラスの誰かがあの配信を見ていたら? って。
そんなのあるわけないじゃーんと思って寝ました。
起きたらチャンネル登録者1万人超えてました。
「お願ぃ、嘘だと言って……」
もう一度、【宵月レヴィア】のチャンネルを見る。数字は変わらなかった。
「あぅぅ……こ、こんなことならボイチェンすれば良かった……いや、日頃からボイトレしていれば……」
どれだけ後悔しても、もう遅い。
クラスに友達はいないけど、それでも何度か声は交わしたことはある。
例えば……宿題写さしてと頼まれた時とか、放課後の掃除を頼まれた時とか、クラス委員の雑用を頼まれた時とか。
あれ、なんでだろ。なんか無性に悲しく……と、とにかく!
当然だけど、私の声と宵月レヴィアの声に違いは無い。
クラスで【Vtuber界隈】に詳しい人はいないと思うけど、でもチャンネル登録者が増えれば、認知度が増えれば、それだけバレる確率高くなるわけで!
「……いや、よく考えてみて」
私は努めて冷静さを取り戻しながら、校門をくぐる。
クラスの誰かにバレると言ってもさ、この世界にはすごいエンターテイナーはたくさんいるわけで。
クラスで話題になるレベルなんて、登録者ウン十万超えのトップVtuber位にならないと。
つまり……そこまで気にしなくても、良いかも。
「うんそうだ絶対そうだ! そうだよ、私が思う程、みんな私なんかに興味ないよ! アハハッ、胸が軽くなってきた!」
気付かない内に自意識過剰になってたよ。
はーぁ、杞憂杞憂♡
私は胸を撫で下ろしながら、教室の戸をサラッと開けた。
「好きなVtuber? 【宵月レヴィア】かな。
昨日、初配信したばっかの子なんだけどさ……切り抜きあるよ。見る?」
クラスの
「ちょぉおおおおっと三波くぅーーーーん‼⁉ 私と一緒に来てほしぃィィィなぁァァあああ‼⁉」
談笑中、否、布教中の彼の袖を引っ張って、私は彼を教室から引きずり出した。
ホームルーム開始を告げるチャイムが後ろから聞こえてきた。
そうして教室とは反対側の校舎、その裏の日陰まで来た時に、彼――三波恭介君が声を掛けてきた。
「あのー、どこまで連れて行かれるんスカ?」
「え……っ⁉」
だから今気付いた。
手首をずんずん引っ張ってると思ってた私の手は……がっしりと三波君の手を握っていた。
「ひゃあ⁉ ご、ごごごめんなさいっ!」
私はパッと彼の手を離すと、慌てて頭を下げた。
彼は後ろ手で頭を掻きながら、首を傾げた。
「いいって謝んなくて。で、なんで俺を連れ出したん?」
…………………………まずい。
私は頭を下げて顔が見えないことを良いことに、たらたらと汗を垂らす。
どうしようどうしようどうしよう何か言わなきゃ、でも何言ったらいいの⁉
「え、はっ、その、あの……あ、の」
前髪をササッと降ろして、赤くなった顔を隠す。
なんで!
よりによってなんで……三波くんが【レヴィア】を知ってるの⁉
彼の名は三波恭平。学校を代表するイケメン君だ。
スポーツ万能・成績優秀で『フィクションご出身です』と言われても納得しちゃうくらいの美男子。
そんな人が、彼が、どうして。
そうこう考えてる内にどんどん辺りに静寂が包んで――――サァァァァッとどこからか風が吹いた。
日陰に咲いた桜の花びらが、私と彼の間に舞い込む。
「もしかしてさ姫宮さん――――好きなの?」
「……ひぃえ⁉」
バクンッ‼ と心臓がひと際強く胸を叩いた。
ぼわって顔が熱くて熱くてアダメだ訳分かんなくなってきた!
「そ、そんな! ちが……っ! 私なんかが三波君と」
「宵月レヴィア、好きなの?」
「だなんて………………エ?」
桜の花びらを押しのけて、ぐいっと一歩踏み込んだ彼の顔。
その切れ長クールな瞳の中にある輝きは――伽夜ちゃんと同じだった。
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