第9話 〇道の90……(いつからコップだと勘違いしていた?)

「滲み出す嫌悪の落涙、不遜なる淫猫いんびょうの罠、痺れ瞬き眠りを妨げる」


 キャスパー操るプ〇ンがぽよぽよと迫ってくる。

 けれど私の詠唱に続いて、ル〇レの掌に雷が溜まっていく。


「結合せよ反発せよ、地に満ち己の無力を知れ! ギ〇サンダァァ―――‼」 


 放たれた雷光が、ステージを一直線埋め尽くした!

 一閃する雷はフワッと浮いたプ〇ンの真下を通り過ぎ――――プ〇ンの短い手がル〇レの胸倉をつかんだ。


「あっやめっ、あっあっアッ⁉ だめっ、ぐりぐりだめぇ! いやぁあああああああああああああああああああ‼」


 プ〇ンの下投げで、地面にぐりぐりされたル〇レが宙にぶん投げられる。

そのままプ〇ンの横スマがぶち込まれた瞬間、試合終了タイムアップが来た。


[ コメント ]

・決まったぁあーーー!

・一戦目、敗北

・キャス猫うっま


「はい、じゃあ一杯目飲んでもらいましょぉ~~か。ほら、早く飲んで。待ってるから。ほらほらほらほら」

「うるさぃぃ! 言われなくてもちゃんと飲むよぉ‼」


 ぅぅぅぅ、可愛いのに! 声はすっごい可愛いのにっ‼

 プ〇ンの勝利演出とキャスパーの煽りが、私の悔しさを煽ってくる。


 でもどれだけ悔しくても、早くお茶飲まないと……まだかな伽夜ちゃん。

お茶を汲みに行ってくれた妹のことを考えた瞬間――――ゴトンと一杯分のお茶が置かれた。


「……え?」


 正しくそれは【一杯分】だった。

 たとえ――――ペットボトル一本分のお茶が入っていようと、使


「え……? ま、え? え?」


[ コメント ]

・なに?

・状況が分からない

・ゴトン言うたぞ今


 コメント欄は困惑してる。

 そりゃそうだよ、このコッ……いやジョッキのサイズ見れないんだもん。そしたらキャスパーがフォローを入れてくれた。


「はいちなみに~、今回僕らが使ってるコップはこれね!」


 配信画面に映る、銀色のコップ(あくまでそう言い張る)の画像。

 それは私の前にあるコッ……ジョッキと同じものだった。


「保温性抜群、500ミリリットル入る優れもの!」

「こんなの飲めないよぉぉぉおおお‼」


 私の絶叫にコメントが高速で流れる。


[ コメント ]

・それはやめとけ

・おいクソ猫ぉ‼

・2.5リットル以上は命の危険が


「ヤダヤダヤダヤダヤダ‼ やだぁーーーーー‼」


 レヴィアが激しく首を横に振る。

 こんなのって無いじゃん! もうお〇っこどころの話じゃないじゃん⁉ お茶の飲み過ぎで命の危険迎えたくないヨォ‼ 

 そしたらキャスパーが衝撃の事実を告げた。


「いや――このコップで飲もうって提案したの、レヴィアたんだからね?」


 ………………え? 

 頭の中が真っ白になる。

 いや、私、そんなこと言ってな。


 ハッと気づいて、私はゆっくりと後ろを振り返る。

 そしたら、私の視線に気づいた伽夜ちゃんが……ぺろっと笑顔でベロを出した。


「お前かぁぁぁぁぁぁああああああああああああーーーーーーーーっっっっ‼‼‼」

「だから僕じゃないヨォ⁉」

「あっ! ちがう! ちがくて!」


 や・や・こ・し・い!


 慌てて勘違いを訂正してから、私は机の上のジョッキを見つめる。

 ――やばい、ぜったいやばい。

 ハッハッと呼吸が浅くなる。

 震えながら手に持ったジョッキは、ずっしりと重たくて。


 飲まないと配信が続かない。けど飲んだら絶対…………ッ!


「では、一気飲みしていただきましょお!」

「わぁぁーーーー‼ 南無三――――――‼」

「南無三は堕天使的に色々違うので?」


 キャスパーのツッコミを無視して、私はジョッキを傾けた!

 こくこくこくと自分の喉が鳴ってる。

 冷たいお茶が喉を通って、どんどんお腹に溜まっていく。


「あそーれ、一気! 一気! 一気! いいよぉレヴィアたん! 輝いてるヨォ⁉ ん君く飲んでる声色っぽいヨォ‼」


 この、クソ猫ぉ‼

 キャスパーのコールのせいで離すに離せなくなる。

 一気飲みなんてしたことないのに…………あれ、でも意外といけ


「んむっ⁉」


 それは一瞬だった。

 ほっぺたが膨らんだと思った途端、ツゥッと口の端からお茶が溢れる。

 垂れたお茶が首筋を伝って、服を濡らしていく。


「っ~~~~~~ぷぁっ!」


 空のジョッキを叩きつけた時には、私の服はびしょびしょになっていた。

 んはぁはぁはぁ、と荒れた息がマイクに入る。


[ コメント ]

・ひぃ!

・初台パン!

・いやこれ台パン⁉

・だいじょうぶ⁉ ねぇ、だいじょうぶ⁉


 あー……なんかいっぱいながれてるぅ。


 心配と不安が高速で通り過ぎるコメント欄を、ぼーーーっと見つめる。


 あたまふわふわするぅ、なんだかぜんぶ他人事みたいにかんじるぅ。


 ほうけたまま配信画面を見つめていたら、レヴィアの目から光が消えていった。

 あーわたしもこんなかおしてるのかなぁ。

 不思議なことに楽し気に煽ってたキャスパーが一番心配そうにしていた。 


「あ、あの、だ、だいじょうぶ? ねぇ?」


 わぁ~~かわいいこえ。――元凶とはオモエな~~い♡

 わたしは

 そしたら


「れ、レヴィアさん? ちょっ……どういう感情? 今それどういう感情の顔⁉」

「――?」


 わたしはゆっっっっくりと、一気飲みの感想を語った。


「ねぇえええ知ってるううううう? ヒトってねぇ? のみもの飲んでるとき息止まるんだよぉ? しってたぁ?」

「ぞ、存じ上げませんでした……」


「それでねぇ? くちのなかお茶でいぃ~っぱいになってねぇ? ごぽってあふれてね? わたし今ぐしょぐしょでねぇ? 寒くてねぇ?」

「あ、あの、ごめんなさい。申し訳ありません。僕が悪かったです」


「んぅ? どぉしてあやまるのぉ? おかしぃんだぁ。さっきまであんなによろこんでたのにぃねぇ? ふふふふ、ヘンなねこちゃぁん」

「止めてぇぇぇ‼ 若干ロリボイスなのやめてェ! ホラー味増すから! めっちゃ怖いからぁ!」

「ねっこちゃん、ねっこちゃん、ねっこねこちゃん♡」  


 2回戦は、キャスパーさん、完全に無抵抗になってくれた。

 わたしはじっくりじっくりジックリじっくり攻撃して、300%になってからていねいに吹っ飛ばした。


 キャスパーさんの一気飲みの時は、応援してあげた。

 がーんばれ♡がーんばれ♡……って。


[ コメント ]

・スマブラってホラゲーだったっけ

・こわいよぉ‼

・こんな『がーんばれがーんばれ』は聞きたくなかった……

・草

・www

・闇落ちVtuber

・病み堕ち天使

・あれ・・・なんか・・・えっちぃ

・どきどきします

・ぞくぞくします

・えちちちちッ、ボッ

・透き通った声しやがって

・初配信より清楚なの草

・あっ

・うっ

・ふぅ

・お世話になりました

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