第3話 初配信スタート!(コメントは塩対応だそうです)
天の川のように流れる白銀の長髪。
円らで大きな空色の瞳。
元の私よりもご……ご立派なお胸ぇ。
良い感じにむ……むちっとした太ももぉ。
けど、何より目を惹くのは――――背中と頭頂部に生えた、計四枚の翼だ。
く、黒い!
全体的に白くて清楚な感じのアバターだから余計翼が目立つ。
「ていうかなんで右手だけ手枷付いてるの……なんで服ボロボロなの……そ、そこはかとなく感じる中二スピリッツ……っ!」
「だって中二だもん。それにお姉ちゃんだってこんな感じの服着てたじゃん。こっそり遠出してルンルンで街中歩いて」
「わぁい似たセンスの持ち主ィ! さすが姉妹ィ!」
だからこれ以上、私の過去を喋らないで!
妹の口をふさいでから、私はちらっと配信枠の同接数を見てみる。
240人位いる。
なんで⁉
「ありえないでしょ新人の初配信でこんな数……」
「あふぁしのふろてゅーすりょくみふびってふらっちゃふぉまるわ、ふぉねぇいちゃ(あたしのプロデュース力見くびってもらっちゃあ困るわ、お姉ちゃん)」
「もごもごするんじゃありません! 手の平くすぐったいでしょお!」
言わなくてもこれがあなたの仕業ってことくらい分かるわよ!
そして私は、伽夜ちゃんがやってきた一年分の努力を知った。
100日後に【ヘヴンズライブ】のオーディションに合格する堕天使という四コマ漫画を今日まで呟き続け……
YUTUBEチャンネルではComingsoonと称して、私の寝息とか寝言とかお風呂で歌った鼻歌とかを録音投稿したり……っ⁉
「盗聴じゃん⁉」
「入浴鼻歌とかセンシティブ判定食らっちゃったよ。
もぅ! お姉ちゃんのエッチ!」
「シスターハラスメントだよぉ‼ 法廷に立つこともやぶさかではない!」
とはいえ伽夜ちゃんの作戦は奇跡的大ハマり。
通知音すごい。
ぐんぐんチャンネル登録者数増えて……あ、1000人超えた。
「あっ、5分切った。じゃっ、お姉ちゃん後は頑張って! コメント欄から応援してるから」
「待って待って待って‼ ここで投げるとか、あんまりだぁああああああーーーー‼」
颯爽と部屋から去ろうとする妹に、私はがっつりしがみついた。
いやだって考えてみてほしい。
30分前に初めてVtuberデビューのこと聞かされて、もう5分後には200人以上の前でトークしなきゃいけないだなんて。
「こんなの絶対おかしいよぉおおお……訳が分からないよぉおおお……おねがい伽夜ちゃんタスケテェ……」
私は涙目になって妹の足にすがりつく。情けないけどホント無理。
チキンハートはバクバクしっぱなしで息苦しいし。
緊張で膝も腰もガクガク震えて、立てない。
大勢の前で話すことを考えたら、カァァッて耳まで熱くなる。
「おねがい……いかないで……離れないで……一人にしない、でぇ……っ!」
「――もぅ……しょうがないなぁ、お姉ちゃんはぁ~~……はぁはぁはぁ、あたしがいないと駄目なんだから……」
あれ? 伽夜ちゃんも緊張してるのかな?
頬が真っ赤で息も絶え絶え、心なしか目もとろんとしてる。
伽夜ちゃんはその場でしゃがみ込んで、私の顔を熱っぽく覗き込む。
「じゃーあ、困ったことがあったら後ろ向いて? はぁはぁ……そしたらあたしが指示するから……ンッ……その通りに言えば大丈夫だからね」
「わ、わかった」
コクン、と私は首を縦に振った。
まず第一声から何て言えばいいか分かんないんだけど……それを聞いたら、伽夜ちゃんは大きめのスケッチブックにさらさらと第一声のセリフを書いた。
――――え、これ言うの?
そうして幕開けの時間は訪れて。
私はもうどうにでもなれって気持ちで、第一声の挨拶を読み上げた!
「ふぁーはっはっは! 待たせたな眷属達!
さぁ、邂逅を告げし鬨の声を上げようぞ! こ……こんレビぃ!」
[ コメント ]
・は?
・は?
・は?
・ハ?
・はぁ?
……塩対応のコメントに、私はプルプル震えながら真っ赤になった顔を覆う。
「殺して……殺してくださひぃ……!」
デビュー後1秒で死を望む堕天使が今、生まれました。
[ コメント ]
・なんて?
・も一回言ってみ
・か、かいこ……なんだって?
・よく聞こえないなぁ、おかわり
・声上擦ってるの可愛い
「言わないよぉ‼ あぅぅうううう何がおかわりだよぉ……しっかり召し上がってるじゃんかよぉ……可愛いってなんだよぉ~~恥ずかしいよぉ~~~」
[ コメント ]
・かわいい
・カワイイ
・可愛い
・カワ(・∀・)イイ!!
・KAWAI
「ちょっ、なんで……恥ずかしいって言ってんじゃぁん⁉」
あれ私、日本語間違えた⁉
可愛いという言葉に溢れるコメント欄に、私のメンタル限界。
助けを求めて、伽夜ちゃんの方を振り返る。
すると既にカンペに指示が書かれていた。
さすが妹ぉ!
私はカンペの通りにまた読み上げる。
「褒めて遣わす! わら、わりゃりゃをもっと褒め……」
[ コメント ]
・なんて?
・もしかして妾?
もぉぉおおおおお伽夜ちゃぁーーーーーーん‼
私は一人称を『妾』に設定した伽夜ちゃんにムーッと唇を尖らせる。
こんなの噛むに決まってんじゃぁん!
「そ、そうじゃ……妾じゃ。高貴な存在たる者だからこそ、一人称まで厳かに……」
[ コメント ]
・なんか言ってるけど要はKA・N・DA☆
・自分から噛んだことを認めていくスタイル
・わりゃりゃカワイイ!
・わりゃりゃ様ぁ~可愛いよぉ~
「かわいくない! かわいくなーいーかーらぁー‼ もぉ~~かわいい禁止じゃ!」
[ コメント ]
・いとあはれ
・あはれあはれ
・げに愛らしき天使なり
・愛い少女ぞ
「え? ……あ、みんな賢い。え、いや普通にすごい。妾の眷属、天才では?」
思わず素でびっくりした。
かわいい禁止に応えてくれたのもそうだけど、かわいいと同じ意味の言葉こんなすぐさま言えるなんてすごい!
私はマイクの前でパチパチパチと拍手した。
そしたら
[ コメント ]
・めっちゃ褒めるやん
・やめろ拍手するな、恥ずい
・やだこの子、すごい褒めてくれる……
・もっと褒めてくださいお願いします!
わぁぁぁ……コメント欄が、『褒めてほめて』とすごい勢いで流れていく。
こ、これ一人一人が言ってるんだよね……このコメントの一つ一つの向こうにいる人の顔をぼんやり想像した途端――――じわぁって、暖かい気持ちが芽生えた。
胸の中、ずっとドキドキしてたけれど……たった今それだけじゃなくなった。
「み、みんな……すごいなぁ! さすが、妾の眷属! えらいなぁ!」
大丈夫かな、ちゃんと言えたかな、ちゃんと聞こえたかな。
目元を拭いながら、声が震えてなかったか心配になる。
ちゃんとやりきろう。楽しんでもらおう。
そう思えるように、今なった。
……って言っても何すれば良いの⁉
そしたらコツン、と後頭部を小突かれた。振り返ったら伽夜ちゃんがマジックで書かれたカンペを指さしていた。
【自己紹介。あと、挨拶やりなおし。普通に初めましてから】
言わされた言葉じゃない。
私自身の言葉で言えと、伽夜ちゃんは既に背中を押してくれていた。
「あ、あー、えと、その……今更であるが、あ、改めて。は、はじめまして。
よ――宵月レヴィアである。よ、よろし、く頼む!」
バクンバクンうるさいチキンハートのせいで、つっかえつっかえだけども。
今、この時、ようやく私の中で『宵月レヴィア』の自覚が芽生えた。
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