第2話 合格通知キタ!(初配信、開始です)

「まぁ? あたしは? 最初っからこうなるって分かってたけどね? 

今や星の数ほどあるVtuber事務所の中で! お姉ちゃんの魅力を見抜けるのはあの男……【ヘブンズライブ】の合谷ごうやしかいないって!」

伽夜かやちゃん?」


「まぁ、でも本当にすごいのは、生まれてすぐにお姉ちゃんの魅力を見抜いたあたしなんだけどねぇ~~~~~‼ ハーハッハッハッ」

「伽夜ちゃん、こっち向いて話そうか?」


 さっき私に叱られてギャン泣きしてたのに、ほんっと調子良い子だなぁ。

 私は高笑いしてそっぽを向く妹の首をひねった。

「はぎゅ⁉」と悲鳴を上げるのも無視して、合格通知を突きつける。


「そもそも変だなーとは思っていたのよ……微妙に話嚙み合わないというか意図が伝わってないというかさ……スパチャ1億って何? 金の盾? いや盾より注射針くださいって思ったよ」

「その時点でなーんで気付かないかな、このお姉ちゃんは」


「それでも私信じてたのぉ! 後からちゃんと注射してくれるって! 何かお知らせがくるって! あれは何かの聞き間違いだって!」

「まぁ、お知らせは来たよね。うんそれじゃ改めて……お姉ちゃん合格おめでとぉーーー‼」

「わぁいありがとぉ、ってなるかぁーーーーー!」

 私は合格通知を床に叩きつけようとしたけど……。


「……………」

 ねろぉんとUターンして、途中で中断。

 そっと合格通知を折り畳んでテーブルに置いた。


 変な間が空いて、微妙な空気が居間に流れる。

 いやだって人が書いてくれた物だし……だとしたらそんな乱暴にしちゃいけないし……。そう言い訳しながら振り返ったら、妹がニマニマと私を見ていた。


「な、なに?」

「ンフフ、やっぱりお姉ちゃんVtuber向いてるよ。少なくともコンビニの店員より断ッ然」

「そっ、そんな訳ないでしょ! 伽夜ちゃんは私のこと買いかぶりすぎ!」

「買いかぶってないよ、正当かつ公正な評価。お姉ちゃんがアイドルになったらすぐ人気になると思うなぁ」

「もっと無理!」


 想像しただけで胸から心臓がまろび出る! だいたい私は授業中、黒板の前に立っただけで緊張して立てなくなるチキンハートなんだよ!

 ……思い出して悲しくなってきたよ!


 胸を労わるように抑えてると、伽夜ちゃんは「さて」と言って膝を伸ばした。

 私はジトっとにらんで口を尖らせる。


「どこ行くの伽夜ちゃん。お説教まだ終わってないんだけど」

「んーあたしもお姉ちゃんともっとお説教はなししたいけど、そろそろ時間だからさ。準備しないと」


 準備? 

 準備って何のだろう? 伽夜ちゃん何か用事あったっけ? 

 PC部の活動かなそれとも中学の課題かな。


 そう思ってたら、伽夜ちゃんが私の目と鼻の先に人差し指を突きつけてきた。

 え、え、なに? 

 パチパチと瞬きする私を見て、伽夜ちゃんは――――にっこぉと抜群の小悪魔スマイルを浮かべた。


♡」

「………………へ?」


 その時、私は思い出した。

 私の妹は大人顔負けの天才だと。

 その能力を全部【私のため】に全振りしてくるシスコンだと。

 

Q.配信機材はどうやって調達したの?

「PC部員(下僕)の親戚に電気屋さんがいてさー。安く譲ってくれたの」

 

Q.そ、そんなお金、どこから用意してきたの?

「え? 株だけど? 元出はお姉ちゃんのバイト代!」

 

Q.い、イラストとか設定とか! 今初めて見たけど、こんなのいつ用意……

「設定はあたし考案。

イラストは

ライブ2DはPC部員(下僕)の中に、良いセンスしてる奴いたから、そいつに。その他宣伝も全部PC部(下僕)にやらせた」


 検索してみた。

 ほんとにあった。

 名前は【宵月レヴィア】。

 可愛すぎて神が尊死にそうになったので、下界に堕とされた傲慢な堕天使。

 堕天の際、落下地点の宵月家を大破させる。お詫びとして下界で働きながら、宵月家に居候している。


 という設定が、【ヘブンズライブ】の公式サイトに載ってた。


 私は悶絶した。

 居間で転がった。

 可愛すぎるっておま……神が死にそうになるておま……堕天使っておま!


「中二かぁ!」

「中二ですが?」


 そうでしたぁ!

 って、言いたいことはそこじゃなくて!

 いけしゃあしゃあと答える妹の肩を掴んで、私は突っ込んだ。 


「これ私ん家じゃん! 宵月家って姫宮家じゃん! 堕天使ってこれ私ん家に落ちた隕石じゃーーーん!」

「どっちも落ちてんだから変わらないよ」

「あっ、なるほど」


 そういうことなんだ。

 私は思わず手をポンと叩いて納得した。


「いや本気マジで感心しないでよ。もぉ……お姉ちゃん大好き」

「うん。私も伽夜ちゃんのこと大好きだけどさ。詳しく説明してくれない? 

今、私は冷静さを欠こうとしています」

「もー大丈夫だってー。Vtuberの設定なんてそんな重要じゃないから気にせず……お姉ちゃん? なにその手? やめて何しようとしてるの? やめて‼」


 問答無用。

 私は妹に飛び掛かるや否や、脇の下や股の付け根をくすぐりまくった。


「いぃやぁぁあ! 一日に二回もなんてむっ、り……あっ! あっあっああああぁああーーーーー‼」

「ほらぁ言いなさい! 一体いつから準備してたの⁉ 絶対私が面接受けるより前から動いてたでしょお⁉」


 くすぐり悶える妹の耳にきつーく問いかけ続ける。

 私は! 伽夜ちゃんが泣くまで! くすぐるのを止めないぃいいい!


 賢妹に勝てる方法がこれしかないのが本当に情けないけれども……ぴくぴく痙攣しながら伽夜ちゃんは答えてくれた。


 どうやら私を思ってらしい。


 家のために無理をしてると。

 中学までは友達いたのに高校から一人もいなくなり、連日バイト漬け。

 花ある女子高生の一年を、家と学校とバイト先の往復で過ごさせてしまった。

 そういう負い目がお母さんにも伽夜ちゃんにもあったらしい。


 ……そんな風に思ってたんだ。

 私は一度だって負担に思ったことなんてないけれど、二人が心配してくれていたのは素直に嬉しかった。


 でもごめんなさい。

 二人ともちょっと勘違いしてることがある。


「あの、多分だけど……仮に隕石騒動無くても、私今の状況ボッチになってたというか……一重に私のコミュ力不足だと」

「ちがうよぉ! だってお姉ちゃん、中学までは普通に人気者だったもん! ファンクラブだってあったんだから!」


「えっ、うそでしょ⁉ そんなのあったの⁉」

「あったよ! あたしが会員NO1の!」

「それ創設者、伽夜ちゃんでしょ⁉ 絶対そうじゃん!」


「とにかく! この一年、あたしはずーーっと『お姉ちゃんVtuber化計画』に専念してきたの! ! ほらだから早く配信部屋に行って! 挨拶は【こんレビ】だよ!」

「今サラッととんでもないこと言ったよ、この妹ぉ⁉ 待ってぇええええ! お姉ちゃんに考える時間ちょうだい⁉ お願いだからぁあああ!」


 どうしよう、うちの妹がハイスペック過ぎる。

 PC部を下僕として掌握してるのもヤバいけど、合格通知来た日を計算して、その日に向けて宣伝するなんて。

 だって、だってさぁ、そんなのさ……もし私が合格してなかったらどうしてたのよ⁉


 そう聞こうとしたけど――――やめた。

 伽夜ちゃんの目を見ちゃったから。

 きらっきらのね。

 それで、もう答えは聞いたようなものだった。


「……分かった。わかったよ、やるよ、Vtuber」

 おでことおでこをくっつけて、私は妹のお願い《きらきら》に応える。

 ここまでやってくれた妹の目を曇らせたくないから。


「っ~~~~~~、うんっ! じゃあお姉ちゃん付いてきて! こっちこっち!」

 

 伽夜ちゃんの目の輝きが増す。

 そーいうときの顔は年相応に無邪気で可愛いのになぁ。


 伽夜ちゃんは私の手を引っ張って、居間から廊下、廊下から階段を上がって、物置きだと思ってた部屋を開け放った。


「じゃーーーーん! ここが配信部屋! お姉ちゃんにバレないように色々リフォームしたんだから!」


 防音素材がどうとか機材がこうとか色々喋ってくれてる伽夜ちゃん。


 でもごめん、全然頭入らない。

 なぜならそれは……


「コメント欄……すごい流れてる?」


 既にたくさんの人が見てるであろうコメントの数と、自分には不釣り合いな美麗なガワに腰が抜けそうになる。


 完璧に整えられた初配信の現場に、チキンハートがバクンバクンする。

 私……本当に配信なんてできるの?

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