第56話 エピローグ (ウォール、アカシア)

 狩猟大会での襲撃事件から半年がたった。

 その後、襲撃事件は、なぜか内々に処理され、世間に知らされることはなかった。


 結果的に、襲撃者を射殺してしまったエンジュであるが、正当防衛であり、罪に問われることはなかった。

 人を殺してしまって、精神状態の方が心配であったが、エンジュはいつもと変わった様子もなく、普段どおりの生活を送っている。

 見た目では問題なさそうだが、心の底で落ち込んでいる可能性もあるので、引き続き注意深く見守ることにしよう。


 カリンさんは、魔術研究会で顔を合わせるだけだが、挨拶を交わす程度で、積極的に話しかけてくることはない。

 こちらからも、用事もないのに話しかけたりしないようにしている。


 そして、アカシアであるが、今日も元気に婚約破棄を宣言してくる。

 俺はそれを受け流すのだが、いったい、いつになったら婚約破棄を諦めてくれるのだろう。

 誰か、どうにかしてくれないものだろうか……。


 アカシアがデレるまで、俺の苦悩はまだまだ続くのであった。



 そんなこんなで月日は流れ、今日は、学園の卒業式を迎えていた。

 在学中は(アカシアのせいで)いろいろあったが、なんとか無事に卒業を迎えられた。

 式は問題なく終了し、今は卒業パーティーの真っ最中だ。


 さて、アカシアがいつものごとく、何かやらかす前に俺から動くことにしよう。


「アカシア、ちょっと来てくれ。君に言わなければならないことがある」

「何かしらウォール?」


「五年前に王命により決められた婚約であったが、その関係も今日までだ」

「えっ? それって……」



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 学園に入学してから二年。

 予言の書によって示された、私が婚約破棄されるウォールの卒業パーティーを迎えました。


 私は自分が婚約破棄されるのを回避しようと、入学パーティーの時から、私の方が婚約破棄しようと頑張ってきましたが、結局それは叶いませんでした。

 ここまできたら、予言の書が外れて、ウォールから婚約破棄されないことを願うばかりです。


 幸い、在学中にウォールをずっと監視していましたが、浮気している様子はありませんでした。

 浮気相手がいないのならウォールから婚約破棄されることもないでしょう。


 そう思って高を括っていましたら、ウォールから呼ばれました。


「アカシア、ちょっと来てくれ。君に言わなければならないことがある」

「何かしらウォール?」


「五年前に王命により決められた婚約であったが、その関係も今日までだ」

「えっ? それって……」


 婚約破棄ということですか?!

 ショックのあまり、言葉が続けられません。


「婚約して七年になるが、婚約関係もやっと今日で終わりだ。明日からは婚約者としてではなく、新たな……」


 それでも気を取りなおして、理由を聞かなければなりません。

 私はウォールの言葉を遮って問いただします。


「相手は、カリンさんですの?」

「カリンさん? なんのことだ?」


「違うのですか? なら……、まさかエンジュですの!」

 私は会場にいるだろうエンジュを探します。


 いました。

 会場の前の方で、ビックリした顔の王女殿下の隣でこちらを見てほくそ笑んでいます。


「やはりエンジュですのね!」

「なにを勘違いしているんだ?」


「勘違い? 私と婚約破棄してエンジュと結婚する気なのでしょ!」

「エンジュは妹だぞ。結婚するはずないじゃないか」


「なら、なぜ私は婚約破棄されなければならないの? エンジュでもなければ、私の知らない誰か新しい相手なの!」

「婚約破棄? そんなこと言ってないが?」


「言ったわよね。今日限りで婚約者でなくなると……」

「ああ、そうだね。婚約は今日で終了だ」


「それって、婚約破棄ってことでしょう!」

「いやいや、勘違いだから落ち着いてくれ。婚約関係が今日で終わって、明日から婚姻関係になるだけだから」


「婚姻関係? 私とウォールは結婚するの?」

「あれ? 婚約した時に僕が卒業したら結婚することになってたよね?」


「そんなの聞いてない!」

「そんなはずないんだけどな。ちゃんと婚約の誓約書に書いてあるし」


 そうです。婚約した時は、すぐに婚約破棄することになるだろうからと、話をよく聞いていませんでした。

 え? ということは、私は明日からはウォールと夫婦になるの? ウォールの奥さん? ないか納得いかないのですが……」


「プロポーズ……」

「何か言ったかい?」


「プロポーズされてないのだけど!」

「あー。プロポーズね……」


「結婚するならちゃんとして」

「うん、まあ、そうだね」


 ウォールは私の前に片膝を付くと、私に手を取った。


「アカシア、僕には君しかいない。愛しているんだ。ずっとそばにいて欲しい。僕と結婚してくれ」

「わかったわ。仕方がないから結婚してあげる」


 私が了承の返事をした途端、卒業パーティーの会場は拍手と祝福の言葉で埋め尽くされました。

 そうでした。ここはパーティー会場で、みんなが注目していたのでした。

 私が周りの状況にアワアワしていると、ウォールが立ち上がり私の腰を抱き、顔を寄せて耳元で囁きます。


「幸せにするよ」

「はい」

 私は小さく答えるのでした。


 私が読んだ予言の書には、こんなハッピーエンドの話はありませんでした。

 では、予言の書が当たらなかった?

 いえ、そんなことはありません。エンジュによると、予言の書は無数にあるとのことです。

 きっとこの未来を予言した書もあることでしょう。


 さて、ウォールと結婚するとなると、これから忙しくなりますね。

 何がって、結婚後を書いた予言の書を探さなければいけません。

 予言の書が無数にあるなら、そんな予言の書もきっとあることでしょう。

 願わくば、その予言の書もハッピーエンドで終わっているといいのですが……。

 いえ、そんな予言の書を絶対に見つけてみせますわ!



 完



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勘違い令嬢は婚約破棄したい ~『予言の書』によると、俺は未来で浮気をするらしい。だから、婚約破棄すると言われても納得いかないのだが!だいたい、それ『予言の書』でなく、異世界(日本)のラノベだから!!~ なつきコイン @NaCO-kaku

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