第46話 湖畔の出来事つづき (アカシア)

 バーベキューの準備に湖に来ていた私は、何故かエンジュと湖畔を散歩することになりました。

 散歩をしながら、エンジュが語った話は、とても信じられない事ばかりでした。

 ですが、嘘と決めつけるには話の内容が重大過ぎました。

 特に、新しい病気に対抗する魔法など、予め準備できるなら、それに越したことはありません。


「それで、その魔法は完成したのですか?」

「完成したわよ。隠し部屋の一番奥の本棚に置いてあるわよ」


「それが本当なら、あなたをお婆様だと信じてもいいですが……」


 果たしてエンジュの話はどこまで本当なのでしょう?


「話がだいぶそれた感じだけど、言いたいのは、お姉様は予言の書に振り回され過ぎよ。予言の書は何冊もあるのよ。隠し部屋にある以外にも無数に」

「予言の書が、あそこにある以外にもあるのですか?」


「そうよ。だから、一つの予言の書に振り回されては駄目よ。お兄様と幸せになれるかは、シア次第なのよ」

「私、次第――」


 そう言われて、私は考え込んでしまいます。

 私は、いったい、ウォールとどうなりたいのでしょうか?


「もし、それでもお兄様と婚約破棄したいなら、私に言ってちょうだい。なんとかするわ」

「なんとかって、私とウォールの婚約は王命ですわよ」


 たとえ王女殿下と旧知の仲でも、そう簡単には覆すことはできないでしょう。


「大丈夫。王様は、私に正体を知っているし、代わりに私がお兄様と結婚すると言えば、問題なく婚約破棄できるわよ。私は初婚じゃないけど、身体は若返っているから全く問題なしよ」

「そんなの駄目ですわ!」


「あら、あら、焦っちゃって」

「違いますわ! 兄妹で結婚なんて認められないだけですわ」


「お兄様と私は、本当の兄妹じゃないから全く問題ないわよ」

「それは……」


「素直にならないと、本当にお兄様を取っちゃうわよ」

「うううー」


 リンリンリン! リンリンリン!


「あ、ごめん。連絡が入ったみたい」


 エンジュはmPadを取り出すと、連絡内容を確認して顔をしかめました。


「予測より随分早いわね――。お姉様、すみません。急用ができました。お先に失礼します」

「え? エンジュ様……」


「様はなしですよ、様は。それと、もしもの時は、結婚相手なら隠し部屋に入れてもいいですからね。素直になりなさいよねー」

 エンジュはそう叫びながら急ぎ去っていきました。


 あんなに慌てて、いったい何があったのでしょうか?


 そちらも気になりましたが、私はウォールのことで頭がいっぱいでした。


「私、次第か――」


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 エンジュがお婆様なら、ウォールとは本当に兄妹ではないことになります。


 もし、ウォールとエンジュが結婚したら、ウォールは私のお爺様になります。

 お爺様――。響き的にはウォールにお似合いですが、私のお爺様になるのは駄目ですわ。


 ウォールがお爺様なら、私もお婆様と呼ばれる関係に……。


 そんなことを考えているうちに、私は眠りに落ちていました。


 翌朝、目覚めると、エンジュの姿が見えず、使用人に確かめると、早朝から既に出発したそうです。

 王都に列車で向かうなら、そんな早朝から出かける必要はありません。

 いったい、どこへ行ったのでしょうか?


 ウォールに聞いても、いつものことだから、と呆れていました。


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