エンジュの秘密が明らかに

第45話 湖畔の出来事 (アカシア)

 教会の隠し部屋から戻った私は、明日に備えて寝ることにしました。


 それにしても、ウォールの鈍感さには頭にきますわ。

 折角私が、婚約破棄はなかったことにして、結婚してあげてもいいと言っているのに、まるで理解していないのですから。

 私がどれだけ勇気を出して、話を切り出したと思っているのでしょうか。


 まあ、それもこれもエンジュにせっつかれたせいなのですが。


 しかし、エンジュが、私とお婆様しか入れなかった、教会の隠し部屋に現れたということは、あの話は本当のことだったのですね……。


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 私とエンジュは、朝から辺境伯の使用人たちと湖畔に来ていました。

 お昼から魔術研究会の皆さんで行うバーベキューの準備のためです。


 はっきりいって、なぜ私がバーベキューの準備をしなければならないのか疑問ですが、エンジュから言われては嫌とは言い難いです。

 これが、ウォールから言われたなら、即、お断りなのですが――。


「アカシアお姉様、少し湖畔を散歩しながらお話しませんか?」


 バーベキューの準備といっても、大体のことは使用人たちがやってしまうので、私たちはそれを監督しているだけです。

 別に、散歩に行ってしまっても問題ありませんが、準備に行くと言い出したエンジュからそう言われるとは思っていませんでしたので、少し、面食らいました。


「エンジュ様がそれでよろしいのでしたらお供しますが?」

「それでは行きましょうか」


 私たちは湖畔の遊歩道を歩き始めます。


「お姉様、いつもいっていますが、私に様付けは変ですよ。それに、言葉が硬いです」

「それは、まだ、ウォールとは……」


「お姉様!」


 エンジュが私の言葉を遮ります。


「お姉様は、お兄様と本当に婚約破棄したいんですか?」

「それには色々と理由があって……」


 私が、言い淀むと、エンジュから思いもかけない言葉を投げかけられました。


「予言の書ですか?」

「ウォールから聞いたのですか?」


 そのことを知っているのは、ウォールとメイドのサンタマリアくらいなものです。


「いえ、お兄様からは何も。しかし、隠し部屋の本に、ここまで影響されるとは予想外でした」

「隠し部屋のことまで知っているのですか! ウォールでないとするとどこで聞いたのです?!」


 私はエンジュのことを警戒します。

 隠し部屋のことは誰にも知られてはいけません。


「聞いたのではなく、知っていたのよ」

「知っていた?」


「シア、信じられないかもしれないけど、私は、あなたのお婆ちゃんなの」

「何を言ってますの?」


 確かに、お婆様は私のことをシアと呼んでいましたが、そう呼ばれたからといって信じられるわけもありません。

 いったいエンジュはどこからそういった情報を調べてきたのでしょう。


「ちょっと、いろいろ都合で若返ってしまったの」

「若返った? そんな魔法聞いたことありませんわ」


 そんなのあるわけありません。

 若返りの魔法が有れば、今頃世間は大騒ぎです。


「予言の書にあったでしょ。召喚される時に若返る話が。あれよ」

「確かに、そういった予言の書はありましたが、それは異世界から召喚される時のことでしたわ。お婆様はこの世界にいましたのに、召喚などありえませんわ」


「その辺が、いろいろ都合の部分なんだけどね。実は異世界に行ってたのよ」

「お婆様が異世界にですか? 信じられませんわ」


「まあ、そうでしょうね。信じなくてもいいから聞いておいて。私の予測では近いうちに、今の魔法では対処できない病気が流行ることになるの。それに対処するためには新しい魔法が必要になるのだけど、その魔法を作るためには、異世界の知識が必要だったの」


「それで異世界に行って来たということですか?」

「そうなのよ」


 突拍子のない話ですが、嘘と決めつけるわけにはいきません。

 特に、今の魔法では対処できない病気の話は気になります。

 もし、そんな物があるならば、対策を立てておかなくてはなりません。


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