第44話 未来の可能性 (ウォール)

 俺は、明日に備えて早めに寝ようと思っていたが、寝る前にアカシアが部屋にやって来た。


「どうしたんだい?」

「ウォール、ちょっと、また教会の隠し部屋に一緒に行って欲しいのですが――」


「今からか? 確かに今からじゃ一人では行けないか……」


 もう夜で暗いからな。屋敷からすぐそばとはいえ、一人では危ないだろう。


「構わないが、何か忘れ物か?」

「そのようなものですわ」


 俺たちは二人で、また、教会の隠し部屋に向かった。


 隠し部屋に入ると、アカシアはラノベが並べられている本棚の前に立った。

 読みたいラノベを取りに来ただけか?


「ウォール、あなたには、予言の書の内容について話したことがあったわよね」

「ああ、いくつか聞かされているな。賢者である僕が死んでしまう話か? それとも、僕が聖女候補と浮気する話か?」


「そのどれもが、ここにある別々の予言の書に書かれていたの」

「それがどうかしたか?」


「鈍いわね。つまり予言の書の数だけ、未来の可能性があるのよ!」

「うん、まあ、そうだな」


『予言の書』といっても、ただのラノベだがな。


「しかもよ、しかも。エンジュによると予言の書は、ここにあるだけじゃないらしいのよ」

「エンジュ? エンジュは予言の書について知っているのか?」


「ええ、まあ……」


 アカシアが、しまった、といった感じに顔を逸らす。


 そういえば、エンジュは一人でここにやって来たのだ。ということは、自分で結界を解いて、隠し階段を開いて来たことになる。

 いくら、エンジュが器用でも、初見でそんなことができるはずがない。

 それに、エンジュが現れた時、アカシアは驚いていなかった。

 つまり、エンジュはここに来たことがあり、それをアカシアも認めていたことになる。


「エンジュのことは、今はどうでもいいわ。それより、未来の可能性を示す予言の書は、とても読みきれないほどあるのよ。これが何を意味するかわかる?」

「未来の可能性は無数にある、ということか?」


「そうよ。そして、きっとその中には、賢者と悪役令嬢が結ばれる、ハッピーエンドもあるはずよ」

「うん、まあ、そんな話もあるかもしれないな」


 悪役令嬢が主人公な物も多いからな。最終的に賢者とくっつく話もあることだろう。


「……。それだけ?」

「え? 何が?」


 アカシアが不満そうに俺のことを睨む。


「私の話を聞いて、言いたいことはそれだけなの!」

「なんだよ、急に怒り出して?」


「もういいわ! このニブチン‼︎ 帰るわよ」

「あれ? 忘れ物は」


「そんなの知らないわよ!」


 アカシアは怒りながら部屋を出て行ってしまった。

 俺も慌ててアカシアの後を追う。

 結局、何がしたかったのだ?


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