第43話 秘密の部屋 (ウォール)
『予言の書』が保管されている隠し部屋は、部屋というレベルではなく、ラノベだけでなく、辞典から始まり、学術書や、実用書、文学書まで揃った、まさに図書館といった所だった。
この本の数からすると、あちこちから集めて来たのではなく、図書館か本屋ごと召喚されたのではないだろうか。
手に取って読んでみたいところであるが、今はそれどころではない。
早く新しい魔法を確認して、王都に向かわなければならない。
アカシアが言っていた一番奥にある本棚には、本でなくバインダーが並べられていた。
それも、そのバインダーは、こちらの物でなく日本製であった。
そもそも、こちらで、これと同じような物を見たことがない。
日本にあっても、こちらにない物は沢山ある。
だが、それは、日本では必要だった物でも、こちらでは魔法があるため必要ない物なのか、ただたんに、発明されてないだけなのか、判断が難しい。
まだ、発明されてないだけなら、日本と同じ物を作れば大儲けできる可能性がある。
mPadもその一つであるが、バインダーはどうだろうか?
こちらで同じ物を作れば売れるだろうか?
おっと、今はそれどころではないのだった。
俺はバインダーを開いて、中身を確認していく。
その中の一冊に、魔法耐性がついた病原菌に対する、対抗方法が記された物があった。
それには、新しい魔法についても書かれていた。
「これだな。成る程、今までの魔法と核になる部分が違っている」
「それじゃあ、それで今回の病は対処できるのね!」
「いや、それは、実際に試してみないとわからない」
「そうなの……」
ぬか喜びに終わってしまい、アカシアは残念そうだ。
だが、過度の期待を持たせてはいけない。
事実を正確に伝えておかないと、後で取り返しのつかないことになりかねない。
「それにまだ、病とは限らない。毒などの可能性も残されている」
「そうでしたわね――」
「いえ、新種の病原菌で間違いありませんでした、お兄様」
「エンジュ! どうしてここに?」
いつの間にここに入ってきたのだろう? エンジュが突然現れた。
「私のことは後にしましょう。それより、王都から発症者の血液サンプルを預かってきました」
「血液のサンプル? 見せてもらえるかい」
「ええ、もちろん。どうぞ、こちらです」
俺はエンジュからそれを受け取ると、鑑定魔法をかけた。
「確かに、未知の病原菌と鑑定されるな」
「後は、これに新しい魔法をかけて、病原菌が死滅するか確認すれば、バッチリですよ」
「そうだな。早速やってみよう」
俺は新しい魔法を覚えると、サンプル対して魔法をかけた。
「流石は、お兄様ですね。新しい魔法を一度で成功させるとは」
「問題は、これで病原菌が死滅していればいいのだが――」
俺は再びサンプルに鑑定魔法をかける。
「よし! 成功だ。病原菌が死滅している」
「やりましたね。お兄様」
「でも、これは、新しい魔法を用意しておいてくれた、アカシアのお婆様のおかげだ」
「――そうですね……」
「どうした、アカシア。いつものように、もっとお婆様のことを自慢していいんだぞ?」
「自慢だなんて……」
「どうしたんだ? いつも、お婆様は、聖女で、人々を助けて素晴らしい方だと褒め称えてたじゃないか」
「それはそうですけど……」
「あれれー。もしかすると、私はお邪魔だったかしら」
「エンジュ、何を言ってるんだ?」
「いえ、もしかしたら密室に二人きりで、いい雰囲気だったのかと思いまして――。でしたらお邪魔だったのかなっと」
「そんなことはないぞ! なあ、アカシア」
「そ、そうよ、エンジュ。別に二人きりになって、イチャイチャしていたわけではありませんわ!」
「お姉様、婚約者同士なのだから、少しはイチャイチャした方がいいと思いますけどね」
まあ、そうできたら俺は嬉しいが、アカシアだからな……。
「それはまだ早いですわ」
「ここにいるということは、決心がついたのではなかったのですか?」
ほらな。
だが、エンジュの言う、決心とは何の話だろう?
「それは、そのつもりなのですが……」
「はぁー。もたもたしていると私が取っちゃいますよ?」
「それは駄目ですわ!」
うーむ。話が見えないな。
「二人とも何の話をしているんだい?」
「女同士の秘密の話に首を突っ込まないでくださいませ!」
「はい、はい、わかりました」
秘密に話を目の前で大声でされてもな――。
「俺は戻って、魔術研究会の他のメンバーにも、この新しい魔法を覚えさせるよ」
できれば、他の本も見てみたかったが、それは後でまた来ることにしよう。
「そうですわね。私も戻りますわ」
「流石に、お兄様でも、一人で王都の患者全員は治療できないでしょうからね」
俺たちは急いで公爵家の屋敷に戻ると、研究会のメンバーに新しい魔法を覚えさせた。
やはり、こういうことは魔術のランクが物を言うようで、カリンさんは一発でできたが、他のメンバーは苦戦していた。
最悪、王都に戻るまでにできるようになればいいからと、その日は、夕食を食べてから、その後は練習を行わず解散となった。
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