第41話 公爵邸 (アカシア)
最初こそどうなるかと思いましたが、ウォールに安全運転を徹底させたところ、辺境伯領を出発してから三日後の昼過ぎには、公爵領の私の屋敷に到着しました。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
執事のバルサが私たちを出迎えてくれました。
「ただいま。昼食がまだなの、用意してくれるかしら。それと、今夜はここに泊まって、明日の午前中に王都行きの列車に乗るわ。手配をお願い」
「昼食は、いつでも召し上がれますように既に用意できています。それで、王都行きなのですが――、少しお耳に入れておいた方がよろしい事態が起きています」
「王都で何かあったの?」
「実は、学園を中心に謎の病が流行っています。今は学園のある区画が閉鎖されていますが、感染が他の区画にも広がっていて、近いうちに王都全体が封鎖されるのではとみられています」
「謎の病! そう――」
やっぱり避けられないのね。
私は、心の中で呟きます。
こうなる可能性は、湖畔でエンジュから告げられていました。
「アカシア、聞こえちゃったんだけど、謎の病ってどういうことだい?」
「それが……」
「ウォール様、ようこそお越しくださいました。詳しい話は、昼食の後に、私の方からさせていただきます」
ウォールに問いかけられ、私が答えに詰まると、代わりに執事のバルサが答えてくれました。
「そうか。お昼も過ぎて、みんなお腹が空いているだろうから、そうするか」
「ではこちらにどうぞ」
執事のバルサに案内され昼食を食べた後、みんなで話を聞くことになりました。
といっても、最初に言われたこと以上に詳しいことは、ほとんどわかっていません。
病気の症状は下痢と発熱だということです。
「広がっているということは、伝染病でしょうか?」
カリンさんが誰に聞くでもなく、独り言のように疑問を口にします。
それに答えたのはウォールでした。
「伝染病に加えて、毒が混入されたか、特定の食品による食中毒の可能性もあるけど、現時点でははっきりしないらしい。先ほど殿下から僕の方にも連絡があった」
「いずれにせよ、普通なら、mPadや浄化の魔道具で防げるはずですよね?」
「今までの魔法では、感知できない毒か、魔法に耐性がある菌とみるべきだろうな」
「耐性菌ですか――。その場合、それらに効く、新しい魔法はできるでしょうか?」
「できると思うが、簡単ではないな。開発までには、少なくても一月、もしかすると数年かかるかもしれない」
「それまでには、国中に広まってしまいそうですね」
「それを防ぐために王都を封鎖する騒ぎになっているのだろうが、地方の村ならともかく、王都を封鎖し続けることは無理だろうな……」
「ウォール、もし、それに効く新しい魔法が既にあれば、なんとかなりますの?」
それまで黙ってウォールとカリンさんの話を聞いていた私でしたが、たまらずウォールに尋ねてしまいました。
「mPadや魔道具に組み込むには時間がかかるが、魔術師が使うのならすぐに使えるようになるぞ」
「そんなものが有るのですか?」
カリンさんに聞かれましたが、全てを話すわけにはいきません。
「少し、心当たりがありますわ。一般には秘密なので、ウォールだけ一緒に来てくれるかしら」
「秘密? というと……。わかった、一緒に行こう」
ウォールはそれが、予言の書が置いてある秘密の部屋であると察したようです。
私はウォールを連れて秘密の部屋に向かいます。
といっても、秘密の部屋は屋敷の中にあるわけではありません。
「屋敷の外に行くのか?」
「教会です。といっても、表にある大聖堂でなく、屋敷のすぐ裏にある、古びた小さな教会ですけどね」
私は裏口から屋敷を出ると、裏門も抜けます。
そこは周囲から見ると、公爵家の裏山にしか見えませんが、木立に囲まれ、周りから見えにくくなっている所に、一風変わった建物が建てられています。
「神社か――」
「じんじゃ?」
ウォールが聞いたことのない言葉を呟いていました。
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